学長・野風草だより

No.304

No.304 2012.11.30

ダライ・ラマ法王と日本の科学者との対話

 11月上旬に、東京の虎の門ホテルで、チベット仏教の最高権威であるダライ・ラマ法王と日本の最先端を行く科学者たちとの対話集会が開かれ、参加してきました。遺伝子工学の村上和雄筑波大学名誉教授、米沢富美子慶応大名誉教授、矢作直樹東大教授などと対話をされました。法王は30年ほど前から科学者との対話を定期的に欧米などで開いていましたが、日本は初めてです。「このような対話の第1の目的は、人類の知識の範囲を広げること、つまり物質的な範囲のみならず、こころという内面の知識の範囲も同様に広げることです。第2の目的は、こころが穏やかな状態を研究することによって、人類の幸福を促進していくことです。」と述べられています。

 参加した感想としては、次のようなものです。①宗教の最深奥と科学の最先端は、重なりつつあることが実感できた。科学と宗教、物質と精神、自然と人間、からだとこころ、といった2元的把握が無効化されるのを、シンポジウムのその場に居て、身を以て知った。②対話は遺伝子学、医学、宇宙学、物理学だったが、経済学や農学もまた、同じ状況に進んでいくであろうことを確信した。農学に関して、ライフワークとして取り組むのが私の使命だと自覚した。③チベット仏教と日本仏教が違うことがよくわかった。やはり風土的・文化的背景が違えば、細かいところでは宗教が異なるのも当然だという事。しかし、仏典に納得がいかなければ、納得がいくまで調べるべきだというダライラマの基本的態度は、民間の富永半次郎や歯医者である木南秀雄と同一であることがわかった。④そして、「宗教」で70億人の世界の人々は救えない。世俗的かもしれないが、「思いやりの心(慈悲心)」こそが宗教を越えて新たな世界の救済原理になるというダライラマの主張に全く同意した。宗教世界の最高権威がこう言い切るのに感動した。私が和語で「おかげさま」というのは、全くこれにあたるのだと確信した。⑤ダライ・ラマは、えらくお茶目でチャーミング、好奇心旺盛な方であった。日本の宗教家よりも、ダライラマのほうが私の気分には合っている。
 やはり、いろいろとしんどいながらも研究活動を地道に続けていなければ、ただの「大学教員」になってしまうことを痛感させられました。60歳という節目である還暦を迎えて、ライフワークである「日本農学原論」の構築、「いのちの農学・教育学の哲学」の創造に向けて、一層精進して参りたいと思います。