学長・野風草だより

No.350

No.350 2013年4月2日(火)

醍醐の花見

 醍醐の花見といえば、豊臣秀吉が1598年に行ったことで有名です。私はそれよりも、日本画家の奥村土牛(1889~1990)が描いた『醍醐』(1972)の美しさが印象に残っていて、いつか訪ねてみたいものだと思っていました。若い時に研究で東京に調査に行った時に山種美術館で観たのか、京都で展覧会があって観たのか、記憶がはっきりしません。それから彼の自伝『牛のあゆみ』(1974)や評伝なども読んでみました。テレビで富士山を描いた時の様子、名作である『鳴門』を描いた時の苦労話を語っていたのを覚えています。彼の作品に、奈良県の大和棟を描いた『大和路』(1970)があったのも、奥村土牛が好きになった理由だったようです。当時奈良県の農業史を研究していて、古文書調査でよく大和棟の旧家を訪ねていました。

 夕方に行ったので、残念ながら土牛が描いた三宝院の桜は見ることが出来ませんでしたが、醍醐寺境内には見事な桜が咲き誇っていました。写真は、宝聚院(霊宝館)の桜で、樹齢数百年のものでしょう。ライトアップされた夜桜です。館内では、「日本の春」のテーマで、聲明、歌、狂言が毎週披露されており、私が行った時にはソプラノ歌手の中丸三千繪のリサイタルでした。桜をあしらった能装束を身にまとい、薬師如来様の前で、シューベルトのアヴェ・マリア、オペラのアリアなどを聞きました。日本歌曲では、「初恋」(石川啄木 越谷達之助)がすばらしかったです。人間の歌声は最高の楽器だなと思い知らされました。「美」を満喫した一夜でした。