学長・野風草だより

No.351~360

No.351 2013年4月2日(火)

小川貴之先生のロンドン便り

 昨年の9月からロンドンに留学されている経済学部の小川貴之先生から、楽しい便りが届きました。研究はもちろんのことでしょうが、ロンドン生活も楽しんでおられるようです。研究の成果を期待しています。写真は、1枚目が荘厳なたたずまいのビッグ・ベン、2枚目がロンドンの中心街であるオックスフォード・サーカス、3枚目が歴史あるUCLの図書館、4枚目が現在の住まいで築100年以上たっている、最後が活気あふれ食材も豊富なマーケットの様子です。以下は小川先生の便りです。

 こんにちは、経済学部教員の小川貴之です。私は昨年9月から、イギリスのユニヴァーシティー・カレッジ・ロンドン(UCL)に経済学の研究に来ています。

○歴史と伝統の街、ロンドン
 まずはロンドンについて御紹介しましょう。街を歩けば、ビッグ・ベンやウェストミンスター寺院など数多くの歴史的建造物が建ち並び、またバレエやミュージカルが毎日いたる所で開催されるなど、ロンドンは歴史と文化に溢れています。大英博物館やナショナル・ギャラリーなどの博物館や美術館は無料で入場でき、ゴッホやモネの絵画も気ままに鑑賞できるんですよ!日本では考えられないこんな懐の深さも英国文化発展の一因と言えるでしょう。
 意外な側面として驚くのは、人種の多様さです。世界有数の金融センターを有するロンドンにはヨーロッパ諸国からはもちろんのこと、インドや中東、アフリカなどからも人々が集まり、街は活気に満ちています。近年では生粋のイギリス人に会うことは珍しいそうです。不思議なのは、イギリスはそうした多民族国家へと変容したにも関わらず移民を含めた多くの人々が英国紳士・淑女の気質を持ち合わせ、親切で、街の治安はとても良いんですよ。これも長く培われた英国文化の歴史的重みのなせる業でしょうか。

○開かれた最先端の大学、UCL
 さて、私の研究拠点UCLについても少しお話しましょう。イギリスには誰もが知る超有名校オックスフォード大学とケンブリッジ大学がありますが、その昔これらの大学には英国国教会に属する貴族の男性でなければ進学できないという差別的制度がありました。UCLはそんな暗黒面を排し、人種や性別、宗教や政治的思想などに関係なく誰にでも平等な教育と研究環境の提供を目指して1826年に設立された大学です。
 例えば、かの有名なダーウィンの『進化論』は当時のキリスト教的思想を否定するものであったため、オックスフォード大学などでは発表できませんでした。そしてUCLが彼の革新的研究の発信地となったのです。こうした自由な校風が最先端の研究を育み、現在まで21人のノーベル賞受賞者を輩出し、2012年の大学ランキング(QS世界大学ランキング)ではマサチューセッツ工科大学などに続いて世界第4位に位置しています。伊藤博文や夏目漱石の留学先もUCLだったんですよ。

○日本経済の研究はケインズの誕生地で注目の的
 こうした開かれた環境なので、様々な国から優秀な研究者が集まってきます。特に私の専門分野であるマクロ経済学ではUCLは世界的な研究拠点になっています。そのおかげでノーベル経済学賞受賞者の講義や講演に参加できる機会も得られました。
 リーマン・ショック以降、欧米諸国では日本と同様の長期不況に陥るリスクが高まってきました。そして、偉大な経済学者ケインズが不況期の景気対策の必要性を説いたこのイギリスの地で、再び金融財政政策の是非やあり方が問われています。こうしたことを背景に、私の研究対象である「国債発行の次世代負担」や「ゼロ金利下の政策効果」には世界の英知が真剣に耳を傾けてくれます。幸運にも今年7月にはリスボンで開催される国際学会で論文報告ができることになりました。
 刺激的な英国生活もあっという間に過ぎ、残り5ヶ月となりました。欧米の大学では4月から9月末までは講義がなくなり、研究集中期間に入ります。このゆったりと流れる時間を利用し、残りの期間は、英国で学んだ知識を取り入れた新たな研究に踏み出したいと考えています。それに加えて、コッツウォルズなどの田舎町やエディンバラでのスコッチ巡りなども楽しみたい、そんな野望もひそかに抱いています。夢と希望は膨らみます!