学長・野風草だより

No.385

No.385 2013年6月25日(火)

服部圭介先生からのカリフォルニア便り

 経済学部の服部先生からカリフォルニアでの研究や生活ぶりを知らせてくれました。とても充実しているようですね。あと2か月ほど、ラストスパートをかけて、ENJOYしてください。
 1枚目の写真は、受け入れ教員である Amihai Glazer教授。2枚目の写真(夕焼け)は、受け入れ研究機関のカリフォルニア大学アーバイン校の近くにある、NewportBeach(ニューポート ビーチ)の夕焼け。3枚目の写真(気球)は、同じく大学近くの Orange County Great Park (オレンジ カウンティ グレートパーク)という公園(元米軍基地)で飛んでいる気球、だそうです。

 経済学部教員の服部です。私は2012年8月より、米国カリフォルニア大学アーバイン校(UCI)にて客員研究員として研究をしています。この「カリフォルニア便り」では、「ここに来るまで」と「ここに来てから」について、みなさんに(できるだけ上辺の情報ではなく私の内面的な部分をさらけ出して)伝えたいと思います。
 世界中にたくさんの大学・研究機関がある中で、私がUCIを在外研究先として選んだ理由の裏には、10年にも及ぶ私の強い「想い」がありました。私が20代前半のちょうど大学院修士課程の学生だった頃から、私には「憧れの研究者」がいました。UCIに所属する経済学者、アミハイ・グレイザー教授です。彼の書く論文の面白さに魅了された当時の私(今も魅了されっぱなしですが)は「いつか彼のような研究ができるようになりたい」という思いとともに、「いつかお会いできたら良いな」と感じていました。彼の研究に触発されたこともあり、私の博士論文も、彼の一連の研究と関連の深いものでした。

 2010年末に、いくつかの偶然の出来事が重なり、グレイザー教授とお会いできる機会が巡ってきました。日本で開催される国際カンファレンスのゲストとして、彼が来日するというものでした。私は偶然にもそのカンファレンスにて討論者としての仕事があり、そして偶然にも、1年の在外研究の権利を頂き、在外研究先機関の選定をしているその真っ最中でもありました。今から思えばとても出過ぎた行動であったようにも思えますが、カンファレンスの前後、私は彼に熱烈に自分の研究のアピールをしたような記憶があります。そして、「あなたのところで、客員研究員として私を受け入れて欲しい」とお願いをしました。私は(こう見えて:笑)引っ込み思案な性格ですので、そのときはとても緊張しましたし、とても勇気の必要な行動だったと思います。結果として、彼が色々と手配をしてくれ、そのおかげで私は彼の所属するUCIに行くことができました。この経験から私が得た教訓は「チャンスだと感じたときには、徹底的にやり切るべし」ということです。逆に言えば、チャンスだと感じないときには、力を抜いていても多少は良いような気がします(笑)
 こちらに来てからは、理想と現実のギャップ、に苦悶する毎日でした。ここでいう「理想と現実のギャップ」とは、「思っていたほどこの場所が良くなかった」という意味ではなく、「思っていたほど、自分が通用しなかった」という意味です。英語能力の低さから、こちらの研究者との議論もスムースにできません。英語だけでなく、経済学の専門的な知識も、これまでに積み上げた業績も、こちらの研究者に比べて私は劣っていました。こちらでは、日本よりも大学教員としての職を得ることが難しいのか、私と同じような歳で、私より遥かに業績のある方が、期限付きのポストしかもらえず大学を転々をしているような現場を目にすると、自分に対して大きな危機感と焦燥感を覚えました。ただ、今から思えばこの危機感こそが、研究者としての私に最も大切なもの・欠けていたものだったような気がします。

 滞在も半年を過ぎた辺りから、こちらの生活を楽しめる心の余裕が、わずかながらもできました。学会報告や参加のために、ニューオリンズやオハイオ、サンディエゴなどを旅したりしました。日本から同僚や共同研究者がUCIを訪ねてくれたり、2月には多くの日本人研究者がUCIに集まりカンファレンスを行ったことなどもあり、そういう機会が心の支えとなりました。たまたまUCIに留学中であった経大の中嶋君という学生さん(とても優秀で素晴らしい学生さんです)との交流からも、たくさんの元気をもらいました。また、憧れの存在であったグレイザー教授と、毎週のように彼の研究室で研究の議論ができるような環境を頂きました。そういう過程で「研究の楽しさ」をあらためて実感することができました。
 ありがたいことに最近は、グレイザー教授と共同研究として一緒に論文を書き始めるようになりました。「会えるだけでも幸せだと思っていた方と、一緒に論文を書いている」というこの状況を、10年前の自分に対して誇らしげに語ることができるのではないかと、そう思います。そして何より、この1年の在外研究によって、今後10年の自分のとるべき研究者としての方向性が、何となく定まったような気がします。10年後に、今の自分に対して自慢できるような状況を作れるよう努力したいと思います。

 最後になりますが、今回の在外研究は私に「学生さんとの関わり」の重要性を教えてくれたような気がします。こちらに来る前には、フルタイムで研究だけに打ち込めるこの研究環境を待ち遠しく思ったものですが、いざこちらに来てみると、経大の学生さんとの関わりが持てないことを、少し寂しく感じました。ゼミや講義を通じた学生さんとの関わりから、私はたくさんの元気をもらっていたのだなぁと思い知りました。新しく始まる私のゼミが、待ち遠しくて仕方がありません。