学長・野風草だより

No.439

No.439 2014年2月14日(金)

日本工芸の神髄―篆刻・弓浜絣・杞柳行李

 私は印鑑が好きで、中国へ調査旅行などへ行くと、よく石に名前を彫ってもらいました。韓国済州島の有名な書家である李栄珍さんからも、毎年書や篆刻の印刻を送っていただきました。また、昨年新聞で日本の自然の樹木で小枝印鑑を手彫りしている浅草の伊藤睦子さんを知り、桜の木で古印体、ドウダンツツジで御家流で、「德永光俊」の印鑑を作っていただきました。
 ふとしたご縁で、篆刻家の水野恵さんを知りました。3代目で、京都の市中、東洞院三条下るで「鮟鱇屈」という店を守っており、時に自身の書を店頭に掛けたりしてたそうです。私は40年も京都に住んでいながら、不覚にも出会うことが出来ませんでした。『日本篆刻物語―はんこの文化史』(2002 芸艸堂)は、京言葉(正確には中京の男言葉だそうです)で書かれているすばらしい本です。水野さんは、京言葉が乱れてきている京都に嫌気がさして?今は滋賀にお住まいです。
 後継者の育成のための篆刻と書の塾「辵璽林(ちゃくじりん)」の同人展「辵展」が、11月に河原町三条から西へ入った画廊で開かれていました。通りから水野恵さんの大きな書が見えました。きっと鮟鱇屈もこんな感じだったのでしょうか。折よく水野さんがいらっしゃって、1時間ほどお話しさせていただきました。80歳を過ぎても矍鑠としてお元気です。今年のテーマは「扉」で、後ろのカタカナの書は水野さんの作品です。
 お忙しくてなかなか篆刻をお願いするのは難しいとお聞きしていたのですが、あつかましくもお願いしてみました。急がないんならいいですよと、意外な返事。是非是非、黒正巌初代学長の言葉「道理貫天地」をお願いします。謂れなどをお話しすると、フーーン、ええ言葉やね。つい最近、水野さんから写真のような篆刻が届きました。いいですね。「天」が人の形をしているところが、アソビでおしゃれです。これから学内の表彰状やちょっとした折に、「遊印」として押印していくつもりです。私の宝物がまた一つ増えました。水野さん、本当にありがとうございました。

 弓浜絣は、鳥取県の伝統的な絣です。私のふるさと松山は、伊予絣で有名です。弓浜絣の展示即売会が、10月末に大阪駅前ビルで開かれていたので、別の用事で出かけた時に、寄りました。私はこの頃、ネクタイにはまっていますので、ひょっとしたらの気持ちでした。弓浜絣は弓ヶ浜半島(米子市、境港市)で生産され、絵絣として有名です。右の写真のようにデザイン性にあふれたいろいろな小物、服などが多数展示されていました。
 ネクタイが1本だけありましたので、係の方にあつかましく「これ、もうちっと、まからへんの」と、値段交渉をしてみました。「実は、これ、私が織ったんです。」「ええっ!!!」。どういうことなの?お聞きしてると、なんとなんと、棉から自分で植えて作り、紡いで、藍染めし、織りまで一貫して手仕事でしている話をしていただきました。絣音(かすりを)工房の稲賀さゆりさんという方でした。まさか!伯州棉から自作しているこだわりの人がいるなんて。値段交渉は吹っ飛んで、即買いました。右の写真の右端のネクタイです。こうして日本の伝統工芸を再興して守ろうとする方たちがいるんですね。稲賀さん、ありがとうございました。

 私のゼミは「日本文化の神髄と地域経済の発展」のテーマでやっており、自分の地元の職人さんをフィールドワークすることを義務付けています。3年生のある学生が、「豊岡の杞柳細工」を取り上げ、出石の「たくみ工芸」の寺内卓己さんから聞き取りをしました。私は2年生の秋のゼミ旅行は、城崎温泉、出石でのそば打ち体験などが定番です。私は出石では、出石焼の山本製陶の山本工二さんの鉢や皿を毎年買っています。白磁ですので、料理を盛る時によく映えます。出石縮緬のネクタイを買ったこともあります。
 山本さんところから少し行ったところに、「たくみ工芸」があります。ゼミ生がお世話になったこともあり、お礼がてらお訪ねしました。寺内さんは平成23年度の伝統的工芸品の産業大賞を受賞され、1200年にわたり続いている杞柳細工の伝統を継承し守っている方です。コリヤナギ(行李柳)の枝を織りながら、1時間ほどお話を聞かせていただきました。
 店内の鞄や飯行李、現代風のバッグやバスケットを見てるうちに欲しくなり、写真の奥のほうのやや大きめの「あじろケース」を買いました。そして普段に肩掛けで使えるような「行李鞄」を注文して帰りました。年末にクリスマスプレゼントのタイミングで、寺内さんから写真の前のような杞柳細工が届いたのです。寺内さん、ありがとうございました。こうして、日本の伝統工芸の粋を集めた普段使いの宝物が増えてきます。私の人生を豊かにしてくれます。「日本酒」「焼酎」とともに・・・