学長・野風草だより

No.462

No.462 2014年5月17日(土)

佐々木蔵之介・酒井康樹・美輪明宏

 スーパー歌舞伎は、3代目市川猿之助が始めたものです。江戸時代からの古典歌舞伎は美意識や発想、演出法などは素晴らしいが、内容が現代人の胸に迫りにくい。テーマ性を取り入れた明治からの新歌舞伎は、近代劇的リアリズムを取り入れたために、歌(音楽性)と舞(舞踏性)に乏しくなった。古典と新の両方の長所を兼ね備えた「新・新歌舞伎」、スーパー歌舞伎として、1986年の「ヤマトタケル」(梅原猛作)から始まりました。猿之助を襲名した4代市川猿之助が(野風草だよりNo.436)スーパー歌舞伎Ⅱ(セカンド)を始めました。以前に市川右近らで「新・水滸伝」を見て度胆を抜かれましたので(野風草だよりNo.403)、今回はテレビや映画で流行っている佐々木蔵之介が共演するというので、大いに期待しました。
 前川知大作・演出による「空(そら)ヲ刻ム者―若き仏師の物語―」で、若き仏師が権力者のお飾りになってしまっている仏像を捨てて、いかにして飢餓や疫病に悩む庶民の悦び、救いとなるような仏像を彫るようになっていくかを描いたものです。私は、江戸初期の「円空」を想像してしまいました。存在するのはただ「空(くう)」のみだと、若き仏師を導く僧侶から転身した仏師のセリフがキーワードであり、「空」をいかにして形としての仏像に表現していくかです。こうした哲学的テーマを、哲学者である鈴木亨元学長のお言葉なら「存在者逆接空」ですが、エンターテーメント性を織り交ぜながら展開されていくので、飽きさせません。次はどんなテーマで楽しませてくれるか、楽しみです。

 酒井康樹、誰だかわかりますか。知りませんよんね。私のゼミにいた学生で、今大阪の四季劇場のライオンキングでアンサンブルで歌っています。大阪の舞台はロングランで、昨年にも彼と一度会いました(野風草だよりNo.371)。彼の舞台は、2012年9月に東京で「美女と野獣」で見ていましたが、ライオンキングはまだでしたので、平日でやっとチケットが取れました。真っ暗になっていきなり通路から動物たちが出てきて、びっくりさせられます。動物のヌーが私のほうをじっと見るのでどうしたんだろうと思いましたが、それが酒井君とはわかりませんでした。ステージ上では、アンサンブルで歌う酒井君の姿を確認できました。舞台は、テンポよく進んでいき、ミュージカルの素晴らしさを堪能させてくれます。とりわけヒヒの呪術師ラフィキ(金原美喜)の歌とセリフに感動しました。
 終演後、30分くらい酒井君と話せました。私などが想像する以上にとてつもなく厳しい世界です。公演パンフでは78頁に出ており、「大学で演劇研究部に所属し、学内の定期公演に出演する。『ウィキッド』で初舞台を踏み、『美女と野獣』にも出演している。」と紹介されています。是非とも是非とも主役をゲットしてください。応援しています。

 5月17日には大阪のフェスティバルホールで、美輪明宏版「愛の讃歌―エディット・ピアフ物語」を観劇しました。美輪明宏さんはチョー有名で、2012年の紅白歌合戦での「ヨイトマケの唄」も聞きました。エディット・ピアフはべストアルバムをよく聞いていますので、この機会に是非ともと思い、出かけました。美輪さんが強調したかったのは、ピアフのシャンソンのシンガー・ソング・ライターとして知的芸術性の高さ、そして最後の夫であるギリシア人のテオ・サラボのピアフへの無償の愛だと、パンフには書かれています。「広大無辺のこの宇宙に匹敵する偉大な存在、それは、愛する心です。」
 第2幕の最後に有名な「愛の讃歌」を歌いますが、最初にピアフの詞を訳して紹介し、その後フランス語で歌いあげます。その訳詞は私がふだん聞き慣れているものとは全く違いました。「そしてやがて時が訪れて/死が/あたしから/あなたを引き裂いたとしても/それも平気/だってあたしも必ず死ぬんですもの/そして死んだ後でも二人は手に手を取って/あのどこまでもどこまでも広がる/真っ青な空の/碧の中に座って永遠の愛を誓い合うのよ/なんの問題もない/あの広々とした空の中で/そして神様も/そういうあたし達を/永遠に祝福して下さるでしょう」(3番)
 第3幕で、病気で倒れても残り少ない時間をテオのレッスンに充てながら、ピアフは「彼を素晴らしい歌手にしてほしい」と、生まれて初めて神に祈ります。その時バックにギリシアのミキス・テオドラス作曲、マノス・エレフテリウ作詞の「汽車は8時に発つ」が流れていました。ギリシア人のテオに合わしたのでしょうか。その柔らかい歌声は、ギリシア人のオペラ歌手アグネス・バルツァかもしれません。私はこの曲をファドの月田秀子さんが歌っているのを聞いてとても好きでしたので(五木寛之詞 野風草だよりNo.437)、このシーンにはジーンときました。1935年生まれとは思わせない圧倒的な舞台に終演後、スタンディング・オベーションが長く続きました。幸せなひと時でした。美輪さん、ありがとうございました。