学長・野風草だより

No.561~570

No.561 2015年3月10日(火)

細川大輔先生のパリ便り

 経済学部の細川大輔先生はフランスのパリに留学されています。間もなく終えて帰られますが、パリの様子、そして「フランスで考える日本の少子化対策」と題してコメントを送っていただきました。写真は順に、IFRIの正面玄関、研究室で同僚と、そしていつものジョギングコースである白鳥の小径と呼ばれる通りです。


 皆さんこんにちは。私はいま大学から1年間の在外研究の機会を与えていただき、パリにあるフランス国際関係研究所(IFRI)アジアセンターにいます。研究所は日本のイメージとは異なり、閑静な住宅街にあります。研究員は基本的に個室で仕事をしていますが、ドアはオープンなので誰がいつ入っても話が出来るようになっています。私も小さな個室にいますが、近くのロシアや中近東の担当者らとよく雑談し、そのなかから新しい知見を得ました。また、IFRIはフランスの有力シンクタンクと見なされており、各国首脳が来仏した際しばしば講演会が行われます。フィリピンのアキノ大統領の講演会では、直接質問し相対で話すことができました。
 留学の研究テーマとしては、欧州統合の現状を調査し東アジアへの含意を探るつもりでいます。しかし、現地では反EU、反移民、反緊縮の世論が高まっており、欧州議会選挙におけるフランスはじめ各国での反EU政党の躍進、またギリシャのユーロ離脱が現実味を帯びるなど、欧州はいま統合の遠心力が強く働いています。そのため、東アジアの地域統合に対しては日中韓の政治的軋轢による悲観論に加えて、欧州からも厳しい教訓を引き出すことになりそうです。

 ところで、最近のフランスの出来事と言えば、この1月パリで発生した同時多発テロでしょう。西欧対イスラムの対立、またフランスの格差問題などの視点から多くの識者がコメントしています。そのため本稿では、私がフランスでの滞在を通じて実際に感じ、また考えたことをお話したいと思います。
 こちらで暮らして気づくことのひとつが、子供や赤ちゃんを街角でよく見かけることです。3人の子供連れの夫婦も珍しくありません。調べてみるとフランスの合計特殊出生率(1人の女性が一生に産む子供の平均数)は2.01(2011年)で、わずかながら人口は増えています。これに対して日本は1.43(2013年)で、少子化とこれに伴う人口の減少が急速に進みつつあります。しかしフランスの出生率も1990年代には1.6台まで低下していたのです。では、なぜフランスでは少子化対策が成功したのか。私のみるところ要因は3つあります。
 1)「産めば産むほど儲かるシステム」(注①) 、2)「事実婚の社会的な受容」、3)「移民の増加」です。財政赤字が深刻な日本で1)は望み薄、3)はテロ事件の教訓からも導入は困難とみられるため、ここでは2)を取り上げます。フランスでは法律婚にとらわれないカップルが社会的に広く認知されています。1970年に6%だった婚外子が1980年代半ばから急速に増加し、2008年には52%に達しています。もちろん婚外子の権利は嫡出子と同じで、「産めば産むほど儲かるシステム」の対象です。事実婚の拡大を後押しているのが1999年の民法改正により認められた民事連帯契約、通称パックス(Pacte Civile de Solidarite)(注②)です。「異性または同性の成人2名による共同生活を結ぶために締結される契約」のことで、婚姻より規制が緩く同棲より法的権利を保護された家族組織として国家が容認したものです。IFRIにおいても、このパックスを使った女性研究員が2人目の子供を出産、6か月ほどの産前・産後休暇のあと職場に復帰してきました。

 確かに日本においても、婚外子の権利は嫡出子と変わらないものになっています。しかし、事実婚は社会的に「普通の」カップルとは看做されてはおらず、現実問題として税金や相続において差別されています。日本の若者たちが家庭を持つためのハードルを低くし、多様な家族形態を社会が受け入れるようになれば、少子化対策にも寄与するのではないでしょうか。人口の減少は明らかに日本の国力を衰えさせています。活力を取り戻すには経済面での規制緩和だけでなく、社会面での目にみえない規制の緩和や意識の転換が求められています。

注①2子以上を養育する家庭に所得制限なしで子供が成人するまで家族手当を支給。また3人以上の子供を育てている所帯に大幅所得減税や年金10%加算。出産費用・不妊治療費無料、小学校から大学まで公立なら学費無料。つまり子育てにコストがかからず、子供の数が多いほど経済的な利益が急増する。

注②もともと同性愛者のカップルを容認する目的で制定されたが、現在は圧倒的に異性間カップルで活用されている。両者が相互の権利と義務を決め契約内容にした契約書を自由に作成し、裁判所に提出して公証してもらう。契約破棄(離婚に相当)に両者の合意は不要で、一方からの通告のみでよい。