学長・野風草だより

No.575

No.575 2015年4月14日(火)

大阪発祥の文楽の襲名披露公演

 大阪発祥の古典芸能といえば、文楽です。襲名披露公演という珍しいことがありましたので、日本橋の国立文楽劇場に出かけました。人形遣いの吉田玉女が2代目吉田玉男を襲名し、名人だった初代の当たり役、「一谷嫩軍記」の熊谷次郎直実を演じます。初代に15歳で入門し、以来48年。歌舞伎の襲名披露は何度か見ましたが(野風草だよりNo.311436)、文楽は初めてです。紋付き袴の大夫の豊竹嶋大夫のきっちりとした口上、三味線の鶴沢寛治の飄々とした口上、同じ人形遣いの吉田和生、桐竹勘十郎の入門した時からの思い出話など、楽しく聞きました。最後に「女」から「男」に転生した2代目吉田玉男が〆の口上かと思いきや、何にもしゃべらずに幕が下がりました。アレレ、肩すかし・・・

 熊谷桜の段、熊谷陣屋の段は、玉男の熱演が光りました。とりわけ、義経の前で直実が平敦盛の身替わりである息子小次郎の首実検をする場面は、すばらしかったですね。「一枝を伐らば一指を剪べし」の制札を持って、小次郎の母である相模と敦盛の母である藤の局を押しとどめる姿は、歌舞伎なら「玉男!」と大向うの声がかかることでしょう。無常を感じた直実は、出家していきます。実際、直実は我が家の近くの黒谷さんの法然上人が開いた金戒光明寺で出家しますが、その時に着けていた鎧をかけたと言われる松が残っています。3代目の松だそうですが。
 その後、「卅三間堂棟由来」がありましたが、人形遣い吉田蓑助による女房お柳は見事でした。細かいしぐさがまるで生きているように見えてくるのです。名人ともなると、人形遣いの姿が消えて人形のみが見えてくると言われますが、そんな雰囲気を感じました。人形遣いが目立ってしまうようなオレガ、オレガの世界ではあかんそうです。人形遣い、大夫、三味線のアンサンブルが大切なのでしょう。同じ演目の歌舞伎の時より(野風草だよりNo.559)満足して、帰路に着きました。

 3月の観世能は、「自然居士」「草子洗小町」でした。今回は、謡の本を持ちこんで鑑賞しました。昨年亡くなった父が、戦前に東京の大学で学んでいた時、謡の稽古をしており、その時に習った本が37冊残っていたからです。奥付では明治末年、大正初年の頃のものです。松山で父母の遺品の整理をしていたので、もらってきました。小さい時に箱に入っていたのは覚えていましたが、中味が何かは知らず、父が松山で謡の稽古をしていた思い出はありません。

 変体仮名で書かれていますが、農業史研究で古文書を勉強していたので、読みこなせます。ところが聞いていると、ところどころ違っていたり、構成が違うのです。父が習っていたのは宝生流の謡本で、観世流ではなかったのです。ちょっと残念・・・
 謡本には、父が書き込んだ振り仮名や記号があります。何かしら因縁を感じました。75年を経て、息子の私がそれをなぞっているのです。亡父のお導きかもしれません。あと5年ほど早く能をかじり始めたら、父と話が弾んだのにな。

 山下洋輔に惚れ込んだので(野風草だよりNo.574)、彼のピアノリサイタルを聞きに西宮まで参りました。兵庫県立芸術文化センターは音響がいいので聴きごたえがあります。自らのオリジナル曲をしたあと、話が何かしらチェコでの演奏旅行になり、プログラムにないドヴォルザークの「新世界」を弾きだしました。一人での演奏なのに、シンフォニーのように交響してくるんですよね。みんな大喜びでした。カタルーニャ民謡の「鳥の歌」は、パブロ・カザルスの編曲で有名ですが、山下は若い時に演奏旅行でスペインへ行き、海岸で泳いでいる時に子供たちと仲良くなり、この「鳥の歌」を教えてもらい採譜したとのことでした。最後はラヴェルの「ボレロ」です。圧巻。肘で鍵盤を打つ、指が鍵盤を飛び跳ねるなど、絨緞爆撃のような圧倒的な音量と、一方で端正なピアノの響きに酔いしれました。アンコールは、さくら変奏曲でした。
 結成以来27年間メンバーが変わっていない山下洋輔率いるニューヨーク・トリオの演奏会が、秋に兵庫県立芸術文化センターで行われると急に決まったらしい。是非、聞いてみよう。スペシャルビッグバンドの演奏、去年クリスマスにあったらしい。今年もしてくれないかな?