学長・野風草だより

No.583

No.583 2015年4月29日(水)

山口雅生先生のイギリス・エクセター便り

 経済学部の山口先生から、イギリスでの留学生活の様子をメールでいただきました。写真は、上から下宿近くのエクセターの街並み、街の象徴であるカテドラル、そして研究室の山口さん、です。




<イギリスのデボン州にあるエクセター>
 昨年の9月から、イギリスのエクセター大学に滞在しています。エクセターは、イギリスの南西部に位置する自然豊かな小さな都市で、その人口は約12万人です。イギリスは、雨や曇りの日が多く、陰鬱な気分になりがちと聞いていましたが、この冬は、1929年以来、もっとも晴れの日が多い年となりました(一昨年の冬は、もっとも雨の日が多い年で、洪水が発生するほどだったとのことです)。それでも、天候が急に変わり雨が降ることが多いので、出かけるときはいつも折りたたみ傘をカバンにしまってあります。
 下宿からシティーセンターまでは徒歩で20分程度、大学までは10分程度で、買い物や通学途中には、イギリス人のこだわりのガーデンニングを、みて楽しむことができます。特に4月上旬のイースター祭りの時期は、街中の家のガーデンの草木が、緑の芝生のじゅうたんの上で、黄色、白、ピンク、水色、紫、赤などの元気な花を咲かせて、それが青い空の色と太陽の光と調和して、驚くほどに美しいのです。これをみて、なぜイギリス人が、ガーデンニングを好み、その技術を磨くのかが、よく理解できました。今は、桜も散って、木に葉が生い茂って新緑が深まり、少し庭の様子は落ちついてきています。
 エクセターは、イギリスのデボン州(county)の州都でもあります。デボンという名前は、地質学のデボン期という時代区分の名前にも使われていますが、それは岩石の研究がこのデボンの土地で始まったことに由来しているようです。エクセターから電車で30分程度行くと、大西洋につながる海を臨むことができます。そのデボンの海岸の岸壁は、ジュラ紀(1.45億年から2億年前)の地層や岩石でできた海岸(ジュラシックコースト)として、世界自然遺産に認定されています。エクセターの近くにダートムーアという2.8億年前に溶岩が固まって岩盤が形成された荒野の大地があるのですが、そこでみつけたグラナイトという岩石を、下宿の部屋の片隅に飾っています。パワーストーンとしての効果を期待しています。

<エクセター大学での講義と研究>
 エクセターの経済発展を支えているのが、15000人以上の学生を抱えるエクセター大学です。その4分の1は留学生で、特に中国からの留学生が目立ちます。これから先も学生数を増やしていくようで、エクセターの街の不動産価格やその家賃が、ますます高騰しているようです。
 エクセター大学は、学生数を増やしても、教育の質が下がらないように、学生の教育効果を高める工夫をしているようです。講義は、教授や講師が週に120分間、質の高い内容できっちりと行われているとともに、日本と違うのが、博士課程の大学院生が週に60分間チュートリアルという名前で講義と演習が行われている点です。チュートリアルでは、正規の講義の内容を、練習問題を交えて、違った視点から再度説明されるので、学生はより具体的なイメージで正規の講義の内容の理解を深めることができ、学生の習熟が促されていると考えられます。
 私がエクセター大学に来たのは、計量経済学の理論を学習することが目的の一つでもありました。受け入れ教員のDavidson教授は、計量経済学の理論研究に大きな貢献をしている先生で、講義を通じて、中心極限定理や確率空間の理解の深さやその説明に、深く感化されました。今年の1月から3月の第2タームの講義期間には、週に3つの種類の計量経済学の講義(120分×3)を受け、チュートリアルも受けました。エクセター大学の「計量経済学入門」は、学部1年生の後半の授業でしたが、私が大学院の修士のときに習った内容とほぼ同じレベルの内容が教えられていました。しかし理論への理解の深さが桁外れなDavidson教授は、難しい内容でも、非常にうまく説明されるので、学部1年生であっても、かなりの理解が進んでいるようです(相当苦労している様子はあります)。
 さらに「計量経済学的分析」という学部の上級生の授業と、上級計量経済学という大学院修士の授業は、研究者をやっている自分ですら、ついていくのが大変で、毎回の宿題の準備に、苦労させられ、苦しい勉強の日々が続きました。しかしチュートリアルの演習や、苦労した成果もあって、さまざまな分析手法の背後にある計量経済学の理論的な考え方を、より深く理解することができ、今後の自分の研究や学生への教育に反映できると手ごたえを感じています。
 計量経済学の勉強とともに、自分の専門のマクロ経済学の研究も、同時に進めています。片言の英語で、エクセター大学のセミナーで研究発表を行い、また金融政策の先生と研究会で議論し、自分のマクロ経済モデルの弱点に気づかされ、また最先端の貨幣経済マクロモデルの多くが、理解できるようになりました。最近のマクロ経済学の分析では、モデルが大きく、非常に計算が複雑になってきているために、紙と鉛筆の手計算では答えを導くのが難しく、コンピュータのプログラムを使っての計算に頼らざるを得なくなってきています。学生時代から苦手だったコンピュータとも、格闘せざるを得ず、現在、コンピュータプログラムを書いてはエラーを修正し、地道に研究を続けています。

<帰国後の楽しみ>
 コンピュータの処理速度や技術が向上し、少しパソコンの勉強をすれば、誰しも簡単に大量のデータを扱うことができ、また簡単に分析ができるようになっています。計量経済学は、大量のデータから、因果関係を調べるために非常に役立つ学問で、現在の経済学教育の一つの柱になるべき分野だと思います。
 秋から始まるゼミでは、学生たちが、計量経済学が好きになるように、その面白さや理論・分析技術を、教える予定です。見せかけの因果関係と真の因果関係について、計量経済学の理論に基づいて識別できる学生を育てていきたいと思っています。大経大のデータベースには、マクロデータ、為替データ、株価データ、企業財務データ、労働統計データなど、大量のデータがそろっており、この豊富な資源を学生たちといっしょに有効活用して、新しい発見を次々にしていくことが楽しみです。