学長・野風草だより

No.648

No.648 2015年10月18日(日)

日本の伝統文化を味わう

 庭に貴船菊が咲いてきました。一般には秋明菊と言いますが、やはり京都に住んでいるので貴船菊と呼んでしまいます。昔には貴船近辺に多く自生していたので、こう呼ばれるようになったのだそうです。キクとついていますが、キク科ではなくキンポウゲ科でアネモネの仲間です。植えてから毎年薄紅の一重は咲いていたのですが、今年は初めて白の一重が咲いてくれました。これは、数年前に四条河原町の地下のウィスキーバーのマスターから、庭にたくさんあるのでと一株いただいたものです。そのバーは今は閉店しました。草花や音楽のことなどを話しながらじんわりと水割りを飲んでいたのが、懐かしく思い出されます。

 7月にNEWシネマ歌舞伎というのを初めて見ました。歌舞伎の舞台公演を映画で見せてくれるというものです。私のようなにわか歌舞伎ファンには、すでに亡くなられた名優や評判の舞台を見られるので、ありがたいものです。今回は、亡くなられた中村勘三郎が始めたコクーン歌舞伎から、息子の中村勘九郎(和尚吉三)、中村七之助(お嬢吉三)、そして尾上松也(お坊吉三)による「三人吉三」でした。2014年の6月の渋谷シアターコクーンの舞台を、俳優・演出家・舞台芸術家の串田和美が監督したものです。長い舞台が約135分にまとめられていて見所がわかりやすいのと、いろいろなアングルから撮影しているので、2時間があっという間に過ぎてしまう感じでした。
 勘九郎・七之助兄弟の舞台は、2012年の襲名披露の顔見世で見ましたし(野風草だよりNo.311)、尾上松也も浅草での舞台を見たことがありますので、こうして映画で見てもイメージが湧いてきます。それと土左衛門伝吉役の笹野高史がまことに上手でした。時代劇映画の脇役などでは、何度も見ていましたが、すばらしい役者さんですね。次は、私の故郷愛媛が舞台となって、笹野が主演する映画「陽光桜」を見るつもりです。また、串田和美は私が愛読してきた哲学者・随筆家の串田孫一の息子さんです。これもまたご縁です。

 8月には、市川海老蔵と中村獅童が主演する六本木歌舞伎「地球投五郎宇宙荒事」を大阪のオリックス劇場で観劇しました。今が旬の二人の舞台を見たいし、宮藤官九郎脚本、三池崇史演出とくれば、いやがうえにも期待が高まります。南座などでの古典的な歌舞伎、市川猿之助らのスーパー歌舞伎、中村勘三郎らのコクーン歌舞伎などとも、一味違った趣向の新作歌舞伎でした。ストーリはかなり荒唐無稽で、派手な演出で、二人の役者の魅力を存分に引き出そうとするものでした。公演パンフも、二人のファッション写真などに多くが割かれ、若い人たちが楽しめるように製作されていました。意気込みは伝わってくるのですが、私のような年寄りのにわかファンには、ちとしんどいところがありました。
 ただ、こうして中村勘三郎・七之助、尾上松也、市川海老蔵、中村獅童などを見ていますと、歌舞伎界でも世代交代が着実に進んでいるんだなと思います。片岡仁左衛門や中村吉右衛門などの舞台を見て、これぞ伝統文化と感じるセンスは、もう古いのかもしれません。でもやっぱり、年末には南座の顔見世に行くことにしよう。

 9月には、ちょっと気分を変えて、今まで聞いたことのない浪曲を聞きに、法善寺横丁のトリイホール・千日亭に参りました。「浪花ともあれ浪曲三人舞台」と題して、まずは若手の京山幸太が「左甚五郎知恩院」を演じます。師匠の京山幸枝若に入門して3年目らしいですが、若々しい声で聞かせてくれます。最初はかるくマクラの話で笑わせてくれますし、唸りもありますし、飽きません。2人目は女性の春野恵子で「高田馬場」です。テレビなどでも売れているらしく、客席から声がかかりますし、春野さんも答えて、和やかにすすんでいきます。かなり力が入っていて、ぐぐっとメヂカラ満開で見つめられると、こちらが照れてしまいます。彼女は、本学に講演で来ていただいたことがあるので、終了後御礼の挨拶をしました。
 トリは、大看板の京山幸枝若の「阿武松(おうのまつ)緑之助」です。歌う部分の節(ふし)と語り演じる部分の啖呵(たんか)の取り合わせ、緩急、強弱が絶妙で、これぞ浪曲というのでしょうか。落語と同じように一人芝居なのですが、聞いているうちに場面が彷彿として来て、さあ次はどうなるんだろうと、身を乗り出して聞いてしまう感じなのです。とそこで、宿敵との取り組みを語るところで、「ちょうど時間と相成りました・・・・」でチョン!やるな!万雷の拍手です。客席は100ほどで、桟敷は膝をつきあわせて聞くので、舞台と客席の一体感があり、楽しいひと時でした。三味線の曲師は一風亭初月でした。終演後、トリイホールの「德家」で鯨料理をいただいて帰路につきました。

 10月は、これまた見たことのない大相撲でした。2007年に亡くなられた経済学部の土井乙平先生に、横綱三重ノ海が開いた武蔵川部屋の大阪での朝稽古を見学させていただいたのを思い出します。横綱武蔵丸、大関武双山、出島、雅山、垣添などがいて、稽古が終わってから、でっかい力士たちとともにチャンコ鍋を食べました。その時の100~200Kgの力士たちのぶつかり稽古には、圧倒されました。秋巡業の一環として、京都府立体育館で1日限りの京都場所がありましたので、出かけました。白鵬は休場でした。写真は、11月場所で優勝した日馬富士の横綱土俵入りと、日馬富士と鶴竜の結びの一番です。
 2階からでの観戦でしたが、両者がぶつかる時には、「がしっ」と音が聞こえてきます。迫力満点です。高々と吊り上げてくれたりもします。ただし、巡業なので怪我したらあかんからでしょうか、大熱戦というのは少なかったです。大阪出身の地元と言うことで、大関豪栄道、前頭勢には大きな拍手がありましたし、前頭遠藤も人気でした。それとお土産に座布団をもらったのですが、ウレタンの軽いものでした。本場所でよく座布団が舞っていますが、うんこれなら投げられるなと思った次第です。本物の綿入り座布団だったら、それほど飛ばないし危ないですもんね。