学長・野風草だより

No.668

No.668 2016年1月6日(水)

年頭所感―新年互礼会にて―

 新年の仕事始めです。J館3階の第1会議室に、教職員127名が集まりました。最初に理事長から新年の抱負が話され、次いで私から年頭の所感をお話させていただきました。終了後、永年勤続の表彰式があり、私は30年の表彰を受けました。1985年から30年、あっという間でした。辞令は鈴木亨学長からでした。こうして無事に務めさせていただいた教職員、卒業生、学生、そして支えていただいたすべての皆さまに、心より感謝いたします。以下は、当日お話しした内容です。

1.昨年の10~12月でうれしかったこと
 明けましておめでとうございます。昨年はお世話になり、ありがとうございました。今年も1年、よろしくお願いいたします。昨年も学生たちがよく頑張ってくれました。とくに秋学期でうれしかったことをいくつかお話しします。
 自転車部のサイクルサッカー班が、学生関係の関西、全国大会ですべて優勝して、グランドスラムを達成しました(野風草だよりNo.655)。体育会のクラブ史上、初めての快挙ではないでしょうか。摂津グランドの第2体育館の2階で練習し、休部の危機もありました、今年度は新入部員もたくさん入り活気づいています。女子マネジャーの活躍も素晴らしく、彼女らなしでは大会が運営できないほど大きな存在になっています。部員の一人は4月から大経大の職員になりますし、卒業する女子マネは就職してからも、大会の運営をサポートしていくそうです。
 超難関の公認会計士に、3年生が現役で1発合格しました(野風草だよりNo.666)。資格講座での勉強、成果が出始めています。2011年に1人合格しました(野風草だよりNo.35)。これから毎年出していきたいものです。「士」資格を、どんどん出していきましょう。
 T-プロジェクト、知っていますか。教師をめざす学生たちが作っている組織です。今年教員採用試験に現役合格した学生たちを中心に、関西外大、相愛大、大阪大、同志社女子大、など10大学をこえて、40人ほどを集めて、勉強会をしているのです(野風草だよりNo.653)。他大学との交流でつながることで、さらに飛躍していっています。2014年度は既卒を含め22名が教員採用試験に合格、2015年度は現役4名を含めて10名が合格しています。「教職の大経大」といっても、恥ずかしくない状況にまできました。
 就活塾、近江舞子の宿泊施設での合宿形式で2012年からやりだしました。今年は1デイ就活塾が422名の参加。希望者133名、37名が参加していました。ゼミや学部を超えて同じ釜のメシを食う体験は貴重です。23日の天皇誕生日には、大経大、京産大、龍谷大、兵庫大、大阪府大の5大学51名の学生による模擬採用試験。10企業の人事担当の方が協力支援してくれています(野風草だよりNo.665)。これも普段からのインターンシップ、採用、ZEMI-1グランプリの審査などを通じて、企業との緊密な関係作りがあるからこそです。
 最後に、12月19日と一斉休業に入った26日に、現役学生30名ほどが、AO入試や指定校推薦で合格して入学する高校生、合わせて174名に対し、入学前教育をしてくれていました。自己紹介、ストロータワー作り、プレ学生新聞作り、入学前教育プログラムの確認、最後に自分の強みの再発見といったプログラムを先輩たちが、後輩たちと交流していくのです(野風草だよりNo.664)。


2.「ゼミの大経大」「マナーの大経大」「就職の大経大」へ着実な歩み
 他にも素晴らしい取り組みは一杯あるでしょう。お世話いただいている教職員の皆さまに、心から感謝いたします。一方でしんどい学生をサポートしてくれている教職員の姿にも心打たれます。11月の人権講演会の後で(野風草だよりNo.656)、心と体に悩みを抱えている学生と親身になって連絡と相談をしてくれている職員さん、12月になっても就職が決まらない女子学生が泣きながら相談してきているのを時間をかけて励ましてくれている職員さん、みんなありがとう。そうした一人ひとりの温かい姿勢が、大阪経済大学を変えていきます。
 私は学長就任以来5年間、「ゼミの大経大」、「マナーの大経大」、「就職の大経大」を一貫して言い続けてきましたが、着実に根付いてきていると思います。私はこうした取り組み、イベントにできるだけ参加し、学生たちを励まし、教職員にお礼を述べてきました。学生たちは着実に成長してきています。学生たちと日頃から学生目線で親身に接している教職員の皆さま方は、実感されていることと思います。高校の教育現場からも、入試部などを通じて、大経大の教育への信頼の言葉が寄せられています。
 皆さん、確信と自信を持ってください。今の方向は間違っていません。教育とは何か、もう一度考えてみてください。さらには、私たちはいかに生きるのかを40歳になっても、50、60、70歳になっても問い続けてみてください。問い続けることはしんどい事ですが。

3.「そっと手を添え、じっと待つ」教育の哲学
 といっても確信も自信も持てない人がいますよね。教育、生きるとはなどど言うと、急に難しく感じるかもしれません。根源的に、ラディカルに考えてみましょう。教育、educationの原語、ラテン語のducereは、連れ出す、外に導き出すということであり、教育とは人の持つ諸能力をひき出すことだといえます。私たちは、学生たちの持つ潜在的な諸能力を気づかせ、開発していく、ソクラテスの言う助産婦さんの役割を担っているのではないでしょうか。
 私はそれを「そっと手を添え、じっと待つ」と言っています。私は40年間農業史、農業経済の研究をし続けてきました。私の先生は、「德永君、僕の鞄持ちなんかしなくていいんだよ、いつでも農家の人たちのほうを見て研究をやっていきなさい」と教えてくれました。ありがたい教えでした。この言葉を胸に私はずっと日本の、アジアの農村、農家を回ってきました。そうした志を持った仲間と38年間、月に1回の在野の研究会を休むことなく続けてきました(拙稿「日本農法史からみる農業の未来」 『大阪経大論集』第66巻5号 2016 参照)。
 本学に勤めさせていただき、ちょうど30年がたちました。ありがたいことです。教育については全くの素人でしたから、試行錯誤の連続でした。昨年3月に卒業した26期生まで550名ほどのゼミ生がいます。うまくいったという自信は今もありません。学長になってからもゼミを続けています。学生たちは年々変わってきます。その学生の変化、実態を知らなければ、学生たちと泣いたり笑ったりしていないと、教育のセンスは知らないうちに劣化します。劣化してしまったセンスに気づかない、そもそも教育のセンスさへない人もいるかもしれません。
 農業の研究を40年間やり続け、本学で30年間教育に携わってきて、私なりにやっとのことで見つけ出したものが、「そっと手を添え、じっと待つ」です。「いのち」をもつ作物や家畜を慈しみ育む農業、「いのち」をもつ青年たちを慈しみ育む教育、両者に共通するものは、「いのち」です。私がすすめていこうと思っているのは、「いのち」の教育です。アメリカや中国で活躍するためのグローバル教育、企業で即戦力になるための職業教育も必要でしょうが、その根底には「いのち」の教育が求められてきています。私たち人類、ホモサピエンスという生物種は、いかに生きるのかを問い続ける「いのち」の特色を持っています。その問いかける力を失った時、「いのち」を失います。大学の教員、職員という社会的属性しか持たない生物種に堕落します。そうした生物種に、学生たちの持つ潜在的な諸能力を気づかせ、開発していく教育が出来るでしょうか。

4.建学の精神「自由と融和」、「道理は天地を貫く」
 こういうとすぐこんな声が聞こえてきそうです。御説ごもっともだけど、大学が潰れたらどうするんだ。他大学はどんどん改革をすすめているんだ。あんたの言うのは哲学、観念論にしかすぎないやないか。
 そうです。教育の哲学なんです。今の大学改革に欠けているのは、教育の哲学です。文科省のご宣託、経団連の要求にふり回され、欧米や中国への追随、生半可な学問をひけらかし、聞きかじりの他大学の動向に振り回される。そこにどのような哲学があるのでしょうか。これから世界は時間をかけてゆっくりと確実に変わっていきます。「長い21世紀」(水野和夫『資本主義の終焉と歴史の危機』2014 集英社新書)、「第3の定常化」の時期(広井良典『ポスト資本主義』2015 岩波新書)、「歴史の峠」(神野直彦『「人間国家」への改革』2015 NHKブックス)。「下山の時代」(鈴木孝夫『日本の感性が世界を変える』2014 新潮社)。そうした世界史の転換期に、何が求められるのでしょうか。
 大阪経済大学の建学の精神は、「自由と融和」です。今風に言えば、それぞれの多様性を認め合いながら、共存共栄を図っていくということになるのではないでしょうか。多様性と共存がキーワードなのです。「つながる力 No1」というのは、まさにこれを目指しているのです。自分の大学だけがひとり生き残ろうとする改革ではなく、諸大学の共存共栄をめざす改革こそが今求めらられているのではないでしょうか。
 初代学長の黒正巌博士は、「道理は天地を貫く」と言われました。道理とは、「いのち」を慈しみ育むことと、私は理解したいと思います。それがすべてに貫いているのだと。「いのちの響き合い」です。西田哲学の鈴木亨元学長は、「共響」「響存的世界」と言われました。この日本哲学が、これからの世界史の転換期に必ず求められてきます。「そっと手を添え、じっと待つ」「いのち」の教育こそが、教育の王道です。
 皆さん、現在すすめている「ゼミの大経大」「マナーの大経大」「就職の大経大」に、確信と自信を持ってください。持てない人は、学生の現場に直接足を運んでみてください。椅子に座ってパソコンに向かっているだけでは、確信と自信は生まれません。
 私が新年にあたってお伝えしたい、お願いしたいことは、簡単なことです。毎日の教育の仕事において、学生たちの声に耳を傾けようということです。これからの21世紀日本を担っていく青年たちを一人ひとりに気遣い、心配りをしていこうということです。そのために、まずは自分たちのほうから、真心を持って、愛情をこめて、挨拶をしようということです。百人百様です。中にはいやな学生もいるでしょうね。でも、挨拶をしていこうじゃないですか。新年のお願いです。

 最後に、昨年亡くなった詩人、長田弘(おさだ ひろし)の詩、『最後の詩集』(2015 みすず書房)から、一部を紹介して終わります。
 「夏、秋、冬、そして春。/季節とともに物を見、感じる。/(我を担いで生きるなかれ)/季節の力を生きている樹木や花々、鳥たち/土、水、陽差し、物の色、空の色など、/わたし(たち)のすぐそばに/一緒に生きているものたちの/殊更ならざる真実の、慕わしさ。/それら、物言わぬものたちが/日々に徴している親和力によって、/人は生かされてきたし、救われもしてきた。/そのことを無事、大事と考える。/季節のなかに、黙って身をさらし、/ただに、日々の季候を読む。/詩の仕事は、農耕の仕事と同じだ。/詩人は、古来、霞を食べて/感受性の畑を耕すことをなりわいとする/言葉の農夫だったのだから。/ほかに、何の理由が必要だろうか。/両掌で熱いティーカップを包んで飲む。/無に息を吹き込むようにして。」(同書19~21頁)
 教育の仕事もまた、農夫の仕事と同じではないでしょうか。いのちの畑を耕す、知識と知恵の農夫なのではないでしょうか。ご清聴ありがとうございました。


*黒正巌と鈴木亨の切り絵は、本学卒業生で鈴木亨ゼミの成田一徹氏(1949~2012)の作品です。