学長・野風草だより

No.670

No.670 2016年1月30日(土)

経済学部の伊藤大一先生のバークレー便り

 経済学部の伊藤大一先生から、カリフォルニア州バークレーでの生活、研究の様子を送っていただきました。写真の1枚目は手前にある建物がバークレー校で、奥に見える橋がゴールデンゲートブリッジです。2枚目はアメリカ国内での家賃の比較図で、3枚目はサンフランシスコのクリスマスツリーの様子です。最後は研究室の仲間たちです。


Ⅰ アメリカ西海岸・ベイエリアの概要と研究概要
 こんにちは、経済学部の伊藤大一です。2015年8月より1年間、アメリカで在外研究の機会を頂き、カルフォルニア州立大学バークレー校(以下、バークレー大学)に来ております。バークレー市を含むこの地域は、ベイエリアと呼ばれており、サン・フランシスコやシリコン・バレーのあるサンノゼがあり、大学はスタンフォード大学などアメリカ西部を代表する地域です。
 バークレー大学は、アメリカ州立大学の名門校であり、昨年発表された世界大学ランキングで13位に後退し、これで世界ランクのトップ10からアメリカの州立大学全てが圏外になり、大きなニュースになりました。
 今年、理研が113番目の元素記号を発見し、その命名権を手に入れることが有力視されています。バークレー大学は、元素記号97(バークレリウム)、98(カルホニウム)を発見した大学としても有名です。元素記号94がプロトニウムですので、原水爆の開発の拠点校であり、オッペンハイマーのいた大学でもあります。日本人の卒業生として有名なのは実業家の孫正義さんですね。彼はバークレー大学経済学部卒業生です。

 ここベイエリアは、都市部だけに、物価が非常に高く、特に家賃はアメリカの中で最も高い地域です。具体的にいうと、全米の1ベッドルーム(日本で言う1LDK)家賃メディアン(中央値)トップ10の都市は次のようになっています。
 1位サン・フランシスコ($3,500)、2位ニュー・ヨーク($3,100)、3位ボストン($2,230)、そして10位がシアトル($1,550)です。ベイエリアからは、1位サン・フランシスコ、4位シリコン・バレーのあるサンホゼ($2,180)、8位オークランド($1,850)がランクインです。$1=125円で計算すると、サン・フランシスコの1LDKの家賃は約44万円です。とんでもない数字ですね。
 もちろんアメリカの1LDKですので、日本の1.5倍ぐらいの大きさがあります。それにしても高いですね。通常、子供のいる、家族は2ベッドルーム(日本でいう2LDK)に住みますで、家賃はとんでもないことになります。私は、サン・フランシスコ対岸のイースト・ベイの2ベッド・ルームにすんでいますので(バークレー大学から車で20分程度です)、まだサン・フランシスコに比べたら家賃は安いのですが、日本に帰ったときには全ての貯金が底をついている状況です。

 バークレー大学の先生達と話すと、バークレー周辺で家を買おうとすると、最低約80万ドル(約1億円)、サン・フランシスコで買おうとすると100万ドル(約1億2500万円)とのことでした。まさに、「一体誰が買うんだ?」と思いましたが、「シリコン・バレーで一山でなく、小山を当てた人達が、株式だけでなく分散投資の意味も込めて、20代後半の若者でも買っていくよ」とのことでした。
 ここベイエリアは、Apple、Googleの本社がありますので、IT長者といわれる人達も、確かに非常に多いです。バークレー大学、スタンフォード大学で大学院生をしながら、起業を目指している大学院生もいっぱいいます。そのうち多くは起業に失敗しますが、何人かは成功し、富を手に入れます。まさに、ベイエリアはアメリカ資本主義の活力の源泉地でもあります。
 とはいえ、成功するばかりの人ばかりではありません。ここベイエリアは、アメリカ有数の観光地でもあります。観光客や経済的に成功した人達を相手にする、レストランやホテルで働く人達も数多くいます。家賃がこの通りですので、このような人達に影響する最低賃金も非常に高く、数年後には時給$15まで段階的に引き上げられることが決まっています。日本円では時給約1,900円ですね。

 このベイエリアの最低賃金研究のメッカが私の所属しているIRLEという研究所です。私の受け入れ教員は、この研究所の所長を長らくしていたマイケル・ライヒという方です。この人は、アメリカ西海岸の最低賃金研究で非常に有名な方で、研究者ばかりでなく,一般的なマスコミにも登場する方です。
 日本での議論では、最低賃金を上昇させたら、雇用が失われる(失業率が上昇する、非正規雇用が増大する)とよく言われています。実は、1月3日からサン・フランシスコで学会が開かれていたのですが、ここでの議論は、すでに段階的に最低賃金が上昇しているアメリカ各都市で、最低賃金の上昇とそれが雇用に与える影響を議論していました。まだ、速報値ですので、確定はしていませんが、現時点では、最低賃金の上昇は、雇用へ悪影響をほとんど及ぼしていない、ほとんど認められていない、という報告でした。非常に興味深い報告なのですが、いかんせん、家賃がこのレベルですので、日本に当てはめて、同じような結論が得られるのかどうかは、断定できません。

Ⅱ 外留成果の還元
 アメリカでは、これまでの労働運動の手法ではなく、社会運動的労働運動という新たな潮流が注目されています。社会的労働運動とは、オキュパイ運動のような市民運動と労働運動の結合であり、個別企業の論点をこえて社会全体のあり方を労働運動の側面から問いただす点に特徴を持っています。
 私は、こちらの研究者や組合活動家とのインタビュー調査をとして、日本にこの社会運動的労働運動の発展可能性をどこに見いだすかを、テーマに研究しております。若者を中心として、貧困が広まる現状を押しとどめるためにも、私の研究が役立つように努力する所存です。