学長・野風草だより

No.682

No.682 2016年3月15日(火)

卒業生に贈る言葉

“大経大PRIDE”のバトンを受け継ぐ
 各学部の卒業生の皆さま、そして各大学院研究科の修了生の皆さま、卒業・修了おめでとうございます。また、本日ご臨席たまわったご父母、学費負担者の皆さまに心よりお慶び申し上げます。皆さん、4年間の学生生活はどうでしたか?満足出来たでしょうか。
 本学は、1932年の浪華高等商業学校に始まり、昭和高等商業学校、女子経済専門学校などを経て、1949年に現在の大阪経済大学となり、2012年に創立80周年を迎えました。卒業生は今日卒業される学部生1,548名、大学院を修了される皆さん50名を加えて、 93,498 名と9万3千名を越えています。学部生の皆さんは82期生にあたります。80年を超えている、すごいもんだと思いませんか。先輩たちからのバトンをしっかりと受け取ってほしいと思います。そのバトンには、“大経大PRIDE”と書かれていると思います。これからは大経大の卒業生であることに誇り、PRIDEをもって生きていってほしいと思います。

時代の転換期を迎えて
 この80数年で、時代は大きな転換期を迎えています。はたしてバトンを上手に受け取ることが出来るでしょうか。そして次へと渡すことは出来るでしょうか。2001年9月11日のアメリカの爆破テロは世界史の転換点でしょうし、2011年3月11日の東北大震災・フクシマ原発事故は日本史の転換点となりました。いったい、どのような歴史的な意味があったのでしょうか。いろいろ考えられるでしょうが、私は農業の研究などをしてきて次のように考えます。資源・環境がいつまでも「無限」にあり続けることを前提にして、科学技術の発展による経済成長を信じて自然を「征服」の対象とした時代から、資源・環境の「有限」性を突き付けられて、安定した生存の持続のためには征服ではなく「共生」が求められる時代となりつつあるのではないでしょうか。
 古い私たち年寄りは、もはや賞味期限の切れかけたグローバル、生き残り競争、経済成長にまだまだしがみつきたがります。しかし、新しい時代を作り上げていくのは、皆さん若い人たちです。そこでは古い価値観と新しい創造の息吹きのせめぎあいが起こっています。新しい時代の形が作られていくにはまだまだ時間がかかるでしょうが、「今の若いもんは・・・」と大声で脅しあげるのではなく、「おっさんら何いうてんねん」と無視するのでもなく、対話、協働こそが真剣に求められてくるように思います。大変おもしろい時代です。皆さんにはこれから社会に出て、そんな対話、協働を続けていってほしいと思います。

志村ふくみの染織に感動する
 最近、京都岡崎の国立近代美術館で開かれている草木染の志村ふくみ展を見に行きました。皆さんはあんまり知らないでしょうが、人間国宝になっている志村さんは、現在御年92歳です。スクリーンにある「光の湖」という着物は、琵琶湖で光きらめく湖をイメージしていますが、その前に立つときらきら光る湖の情景が浮かんで来るんですね。まるで絵画のようです。「桜かさね」は、本当に桜色の美しい着物です。どうやって染めるのでしょうか。桜の花びらをいくらたくさん集めて染めても、灰色がかったうす緑にしかならないそうです。桜の小枝を煮出して染めて、初めてスクリーンのような美しい桜色になるそうです。思わず立ち止まって、見とれてしまいます。 志村さんはこの点に関して、次のように言っています。「私は、それらの植物から染まる色は、単なる色ではなく、色の背後にある植物のいのちが色をとおして映し出されているのではないかと思うようになりました。」植物のいのちなんですね。これを受け取る人間の側にそのいのちを大切に生かす心持ちがなければ、色は命を失ってしまうと言われています(『一色一生』講談社文芸文庫13頁)。何千年と織り、染められてきた日本の伝統の着物には、こうした命のやりとりが営々と続けられてきたのです。

農業の名人が語る極意
 私は40年近く、農業の研究をしてきましたが、作物のいのち、家畜のいのちを育てる農家もまた、同じいのちのやりとりをしているのだと思います。この2月の末に東北へ農村調査に行き、スイカ、サクランボ、お米の名人などと懇談会をしました。山形県天童市のサクランボの名人は、「栽培している一本一本すべての樹を思い浮かべることができる規模で栽培しています。思い浮かばないところが出てきたら、その部分の樹は倒すことにしています。目標をはっきりと持って、一つひとつに確実に責任をもって手入れをしていくと、植物は必ず答えてくれます。」と言われていました。70歳の老夫婦2人で、わずか60アールの畑にサクランボ、ブドウ、モモ、リンゴ、カキの果樹を植えて年収600万円以上をあげています。規模拡大など世間の風潮の惑わされずに、欲張らないこと、一本一本をよく観察して話しかけ、手入れを怠らなければ、お金はあとからついてくると言われます。
 志村さんの草木染と同じ、いのちのやりとりです。先ほど大きな時代の転換期だと言いましたが、何千年と続く世界史、日本史を貫くものがあります。「いのちのやりとり」「いのちの響きあい」

「そっと手を添え、じっと待つ」教育
 それでは、今日卒業、修了される皆さんと、私たち教職員との関係はどうなのでしょうか。講義やゼミなどを通じて、人と人が交わり教えあう。クラブやサークルなどの課外活動などでの友人関係、アルバイトなどでの人間関係。お互いに怒ったり笑ったり泣いたりしながら、そこには自然と信頼関係が生れてきていたのではないでしょうか。教育、これもまたいのちのやり取り、いのちの響きあいなのではないでしょうか。この4年間、2年間を振り返ってみてください。信頼できる先生、先輩に出会えたでしょうか。一生付き合える友人が見つかったでしょうか。
 私は「ゼミの大経大」「マナーの大経大」「就職の大経大」と言ってきましたが、こうした信頼関係、いのちの響きあいを大経大の教育の根本として目指してきました。マニュアルではなく、単なる就職のためだけの教育でもなく、一人ひとりに目配りをした「そっと手を添え、じっと待つ」教育です。少しでも感じ取ったものがあれば、うれしい限りです。
 皆さんはこれから社会に旅立ちます。なかなか思うようにはいかないことが多いでしょう。もう嫌になることばかりかもしれません。そんな時ふっと立ち止まって、自分が大切に守っていきたいものは何なのだろう、人生を通じて実現したいことはいったい何だろうと、考えてみてください。年寄りになればそんなことは考えにくくなります。お金や地位に執着してくるのです。そんな折、大経大での学生時代を思い出してください。あの時、先生と一緒にZEMI-1で苦労したな。ゼミ合宿や旅行で先生や仲間と語り合ったな。講義で私語してたら先生に教室から追い出されたな。就活、けっこう苦労したな。卒業論文ではこってりしぼられたな。一つ一つの思い出が、きっと30歳、40歳になったとき、皆さんを支えてくれます。

初代学長黒正巌博士の言葉「道理は天地を貫く」
 初代学長の黒正巌博士は、「道理は天地を貫く」と言われました。いろいろなことがあっても、結局は人の生きるべき道理は、いのちの響きあいはこの世界を貫いているのだと。そんなことあるかいなと確信が持てないかもしれません。でもこれから人生を歩みながら、大経大オリジナルの世界で一つしかないこの言葉、「道理は天地を貫く」を胸に刻んでおいてください。きっと皆さんの人生を支えてくれることと思います。
 最後に私から皆さんに、一つ言葉をお贈りします。「おかげさま」。「おかげさまで、何とかやれてます、生きて生かされています」と、いのちに感謝し祈る。これが私にとって生き方の原点であり、研究や教育の基本軸です。今日帰ったら、大学に行かせてもらったお父さん、お母さん、学費を負担していただいた方に、卒業証書を見せて、「ありがとうございました、おかげさまで卒業できました。」と、感謝の言葉を述べて欲しいと思います。
 卒業おめでとう。以上で学長としてのお祝いのメッセージといたします。