学長・野風草だより

No.714

No.714 2016年7月24日(日)

アルチザンにみる超絶技巧と日本の伝統美の融合

 暑中お見舞い申し上げます。暑い日々が続いています。アシナガバチさんも熱中症対策での水分補給でしょうか、手水鉢のホテイアオイのところへやってきました。でも、10年連用日記に付けている最高最低温度を昨年と比べると、実はかなり涼しいのです。京都市の過去最高気温は、1994年8月8日の39.8℃で、最高が30℃以上の真夏日は、2004年の94日間が記録です。でも、暑いのは暑い!!!

 私の3年生ゼミでは、大阪の職人について調べています。今までは一人で調べることにしていましたが、今年度から何人かでグループを作って調べることにしました。大阪切子、大阪欄間、大阪三味線、堺打刃物。6月1日、大阪歴史博物館で開かれている「近代大阪職人図鑑」をゼミで見学しました。ARTISAN 、アルチザンとはフランス語で職人のことらしいですが、博物館では職人と工芸家を包含する言葉として使っています。それは、展示を見ればその意図がうなずけます。根付、人体骨格や生人形、刀工、造幣局での彫金、そして木彫、竹工、蒔絵、陶磁器、次から次へと繰り広げられていく「超絶技巧」の作品の数々。それらには、江戸時代までの日本の伝統美が息づいています。正直、マイッタ!!!

 当日は、学芸員の内藤直子さんにご説明をいただきました。近世大阪の技術力が近代にも継承されていること、それまで個でやっていた仕事がパトロンが居なくなって、自分たちで制作集団を作って活動したこと、戦争でいったん途切れてしまったように見えるが、アルチザンの魂は続いており、今回の企画はそれを再評価して甦らすこと、など実に興味深いお話をお聞きすることが出来ました。
 私は、アルチザンの大阪らしさ、技術継承における大阪と京都の違いなどが気になりました。それにしてもこれだけの展示を実現された大阪歴史博物館(大阪市立博物館時代を含め)の長年にわたるご努力と、「大阪」を再評価しようとする熱意に対し、改めて敬意を表します。私が一番気に入ったのは、藪明山の作品群でした。

 アルチザンの余韻が残っている時、「宮川香山(こうざん)」展のチラシで、イナイナイバーの猫、生きているかのような蟹の焼き物が目に入りました。まさに「超絶技巧」!!!7月24日のオープンキャンパスが終わってから、中之島の東洋陶磁美術館へ出かけました。ここは安宅コレクションの陶磁器が収蔵されていて、何回も来たことがあります。マイッタ、マイッタ、マイッタ!!!!これぞ「超絶技巧」の粋です。「高浮彫」(たかうきぼり)の作品には、ただただ驚かされます。
 そして、作品の後半には、「釉下彩」(ゆうかさい)による絶妙な色合いによる陶磁器が展示されています。白磁、青磁だけではなく、赤、紅、緑、黄、紫など様々な色が見られます。「彩釉記秘法」などの記録から、釉薬の調合にどれだけの苦心が払われたのかがわかります。磁器は白磁と青磁だけではないのだと知りました。恥ずかしながら、宮川香山の名をそれまで知りませんでした。

 5会場にわたって、作品が展示されており、その量に感心するとともに、その一つ一つに丁寧な解説が付けられているので、鑑賞が深まります。会場の一部のコーナーには、数点の作品を「撮影可」で誰でもが撮影できるようにしているのです。皆さんスマフォでカシャ、カシャ。こんなの初めてです。会場で販売されていたカタログには作品全体と細部の写真が掲載されており、会場での感動が甦ります。作品のほとんどが、田邊哲人(てつんど)氏のコレクションです。田邊さんは若い時に宮川香山の作品に触れて感動し、その後長年かけて海外に流出していた作品を里帰りさせてきたそうです。私は田邊さんの活動に限りない感謝の念を覚え、お礼のお葉書をお送りさせていただきました。田邊哲人『帝室技藝員 真葛香山』(2004)、同『大日本明治の美 横浜焼、東京焼』(増補改訂版 2011いずれも叢文社)は豊富な写真で、宮川香山などを紹介してくれています。後者の本には藪明山の作品も出てきます(204~205頁)。田邊コレクションは、横浜の神奈川県立歴史博物館で一部が常設展示されているそうです。
 正直、これだけの展覧会を見れた幸せを感謝します。私がこれまで見た展覧会では、2000年の京都国立博物館での「没後200年 伊藤若冲展」と2007年の相国寺承天閣美術館の若冲「動植綵絵」全30幅、2015年の兵庫県立美術館での堀文子展「一所不住・旅」(野風草だよりNo.585)、2016年の京都国立近代美術館での志村ふくみ展「母衣への回帰」(野風草だよりNo.682)と合わせて、ビッグ4です。