学長・野風草だより

No.726

No.726 2016年8月28日(日)

人間国宝の至芸―竹本駒之助、柳家小三治

 昨年5月、朝日新聞の夕刊「人生の贈りもの 私の半生」で、80歳になる人間国宝で女流義太夫の竹本駒之助が紹介されていました。文楽は最近よく聞いていて、7代目竹本住大夫は引退公演まで楽しみました(野風草だよりNo.324357427457)。女流義太夫があることを初めて知り、機会があればと思っていましたが、大阪市内のホテルで素浄瑠璃を語る会があり、お聞きすることが出来ました。三味線は弟子の鶴澤津賀花さんで、事前に山田智恵子京都市立芸術大学日本伝統音楽研究センター教授の解説がありました。おかげで女流義太夫の歴史、上演される「良弁杉由来 二月堂の段」の聞きどころなどがよくわかりました。

 筋は、山鷲にさらわれた息子を探し求める母が、30年の時を経て、東大寺の良弁僧正となった子と再会するというものです。語りの内容はプリントで配られたので、それを追いながら駒之助の語りに聞き惚れていきます。ピンと張りつめた「気品」が漂います。そう、「気品」。そして山場の「そんならあなたが」、「そもじが」・・・・アヽ勿体なや冥加なや・・・では、身を乗り出しての語りにググッと情感があふれてきて、まるでその情景が眼前に浮かび上がってくるのです。これが名人の至芸か。ありがたいひと時でした。またお聞きしたいものですが、公演はほとんど東京・神奈川で、残念です。
 良弁僧正(689~744)は実在の人物で、良弁杉というのは、東大寺二月堂の前にあります。昨年二月堂の修二会に参りましたが(野風草だよりNo.560)、これは良弁僧正の高弟が752年に始められたものです。ここでも不思議に繋がってくるのだなと感じ入った次第です。

 少し古くなりますが、4月末には人間国宝である柳家小三治の落語を、近くのロームシアターで聞くことが出来ました。もう80歳近いので、実際の高座を聞いておきたいと思ったからです。柳家三三(さんざ)との親子会でした。三三は、次を担うホープと高い評価を得ているそうです。この日は「蛙茶番」で、素人芝居の様子を巧みに描いていきながら、段々と笑いが大きくなっていくという感じでした。
 小三治は、「うどん屋」です。小三治はマクラが有名だそうですが、この前に京都に来たのは修学旅行で嵐山でとか、飛行機で熊本の地震にあった方と乗り合わせた、そうそう入口で義捐金を集めました、ありがとうございますという御礼、そして商売人の苦労など、次々と話題をふりながら、長い長い。初めて聞くので、いつ噺が始まるのだろうと心配しだす自分が居ました。商売人のマクラから、世の中にはいろんな商売がありましてと、やっと「うどん屋」にたどり着きました。屋台の鍋焼きうどん屋が冬の夜に、酔っぱらいなどに絡まれながら、ついてない一晩の噺です。鍋焼きうどんを扇子ですする姿は、実に見事なものでした。おそらくここの所作が最大の見せ場なのでしょう。「飄逸」というのがピッタリです。小三治は古典落語の最高峰ということですが、これまで落語を聞いたことが少なく(野風草だよりNo.361404)、まだまだ名人芸の神髄がよくわからなかったというのが正直な感想でした。