学長・野風草だより

No.766

No.766 2017年2月14日(火)

ジャパネットたかたの自伝を読む

 ジャパネットたかたの髙田明さんは、本学の経済学部のご卒業です。大学にも度々お越しいただいて、講演などしていただき(野風草だよりNo.33480)、私が佐世保の会社を訪問したこともあります(野風草だよりNo.258)。同窓会の福井支部にもわざわざおいでいただきました(野風草だよりNo.626)。こうして深いご縁を結んでいただいていることに感謝いたします。
 この度、会社を退かれた髙田さんが初の自伝『伝えることから始めよう』(2017 東洋経済新報社)を出版されました。以下は、読ましていただいた私なりの感想です。大学時代の写真も特別に提供していただきました。4人男はE.S.Sの仲間です。鹿と戯れているのは、この2月の近影です。

 今までに何度かお会いして話したことがありますので、お話を聞くような感じで一気に読みました。著者紹介で、「大阪経済大学卒業」と明記していただき、本文中にも40年以上も前の在学中の生活ぶりを、「英語とパチンコと麻雀の日々」(P71)と紹介されています。温厚なお人柄が等身大でそのまま本に表れているというのが、最初の読後感で好ましかったです。

 「今を生きる」、「自己更新」というキーワードは、納得です。60兆とか最近の研究では37兆2000億個とか言われている人間の細胞が、日々更新されて何年間ですべてが更新されていることからして、まことに生き物としての人類の本質なのだと思います。そして、ミッションとして「感動を届ける」(P134)、「想いの強さ―伝わる原動力」(P145)、「信念」(P238)、「覚悟」(P218)などを強調するのは、人間ならではの本質を表現しています。髙田さん自身、「感性で突き進んできた」(p216)と吐露されています。さらには企業人のモラルとして、「金儲けを第一の目的にしてはいけない。それはあとからついてくる」(P136)と言われています。そのモラルは、顧客データの流出事件、東日本大震災、熊本地震の際に、遺憾なく発揮されます。

 経営者にとって大事にしてきたのは、ミッション(変えてはいけない)、パッション(失ってはいけない)、アクション(時代の即して変わらなければならない)の3つであり(P248)、経営方針として「目標を持たない」、「自己更新を続ける」「他社と比較しない」「社員を大切にする」(P239)を一貫して掲げてきたとのことです。
 さわやかな読後感を持つことが出来ました。何故でしょうか。「つながり」を大切にしているからでしょう(ミッション)。いつも一所懸命に全力で真正面から取り組んでおられるからでしょう(パッション)。そしていつも柔軟に対応されているからではないでしょうか(アクション)。最後にスパッと身を引く去り際の美しさと、あと50年生きるという情熱に感動するからだと思います。

 1990年からのラジオショッピング、1994年からのテレビショッピングの20年以上にわたる演者としての経験は、日本の伝統芸能である能の世界と響き合うことになります。何年か前にたまたま社員から教えられた世阿弥の「花伝書」、「花鏡」などに、髙田ワールドが見事に表現されていることに気付きます(P172)。ラジオマイクやテレビカメラに向き合いながら、自前で悪戦苦闘しながら作り上げてきた髙田さんのパフォーマンスが、何と600年を経て能の世阿弥と共振しているのです。何故でしょう?私が一番興味をもったのは、この点でした。髙田さんなりに次のように解釈されています。

「一調二機三声」(P172)=「間」の取り方、「序破急」(P177)=起承転結の順序は変えていい、「目で、体で伝える」パフォーマンス、「我見・離見・離見の見」(P198)=「相手が自分を見ている目線で自分を眺めてみる」(p196)、相手に対する思いやり、「秘すれば花」(P200)=「期待を超える」、「時分の花・真の花」(P265)=精進そして謙虚、などなど。
 世間ではコミュケーション力が大事だと強調されますが、「伝わるコミュニケーション」とは髙田さん流に言えば、ことさら新奇なことではなく、日本の伝統に根ざしているということになるのでしょう。私としては、この点が一番共感した点でした。

 ここで一つ考えてみたいのは、大学入試国語が不得手であった髙田さんが、何故日本の古典中の古典である「風姿花伝」に共感しえたのでしょうか。髙田さんは、日本語をスルーして英語にのめりこみました。大学ではESSに所属して英語を駆使して他大学や他国の人たちと交流を深め、会社に入ってからはヨーロッパで各国の様々な文化に触れていきます。言葉はコミュニケーションとして伝達のツールですが、さらに髙田さんはそのツールを利用して、様々に異なる文化と交流していたのではないでしょうか。

 そうした経験を土台に、ラジオやテレビを通じて、今度は日本語(平戸弁?)でこれまた日本中の人たちと文化交流をしていたということなのではないでしょうか。英語がたまたま日本語に変わっただけなのでしょう。そして、日本語、日本文化の粋である「風姿花伝」に共響していくのではないでしょうか。逆に言えば「風姿花伝」は、世界に通用するものであるということです。つまり、「伝わるコミュニケーション」とはツールやスキル、マニュアルだけではなく、人と人との文化の交流である、「どんなこともつながっている」、これが髙田さんのメッセージではないでしょうか。本学も「つながる力。No1」と言っています!(^^)!