学長・野風草だより

No.778

No.778 2017年3月18日(土)

卒業生に贈る言葉

“大経大PRIDE”のバトンを受け継ぐ
 各学部の卒業生の皆さま、そして各大学院研究科の修了生の皆さま、卒業・修了おめでとうございます。また、本日ご臨席たまわったご父母、学費負担者の皆さまに心よりお慶び申し上げます。皆さん、4年間の学生生活はどうでしたか?満足出来たでしょうか。
 本学は、1932年の浪華高等商業学校に始まり、昭和高等商業学校、女子経済専門学校などを経て、1949年に現在の大阪経済大学となり、2012年に創立80周年を迎えました。卒業生は今日卒業される学部生1,669名、大学院を修了される皆さん52名を加えて、 95,313名と9万5千名を越えています。学部生の皆さんは83期生にあたります。80年を超えている、すごいもんだと思いませんか。先輩たちからのバトンをしっかりと受け取ってほしいと思います。そのバトンには、“大経大PRIDE”と書かれていると思います。これからは大経大の卒業生であることに誇り、PRIDEをもって生きていってほしいと思います。

最近の2つの感動
 この80数年で、時代は大きな転換期を迎えています。はたしてバトンを上手に受け取ることが出来るでしょうか。そして次へと渡すことは出来るでしょうか。
 最近の私の経験で感動したことを2つお話しします。皆さん、こうの史代原作、片渕須直監督のアニメ映画で、「この世界の片隅に」を見られたでしょうか。今から70年ほど前の戦時中、戦後の呉、広島を舞台に、普通の人々の生活が戦争、原爆という「社会的暴力」によっていかに壊され、そして復活していくか。たんたんとリアルに描いていっています。いのちの破壊、生活の破壊、そして人生を破壊されながらも、たくましく労り合いながら復活していく日本人の庶民の生き方を描きます。じんわりと伝わってくる感動があります。それが何か、私は2回見ましたが、まだ十分言葉にできていません。2016年キネマ旬報ベストテン・日本映画1位、(アニメで1位は1988年の「となりのトトロ」以来)、日本アカデミー賞優秀アニメーション作品賞など、数々の賞を取っています。
 マンガ3巻本も読みました。最後に、主人公のすずさんが、「周作さん、ありがとう。この世界の片隅に、うちを見つけてくれて、ありがとう、周作さん。ほいで、もう離れんで、ずっとそばに居って下さい」と言います。観客動員数では、同じアニメ映画「君の名は。」に及びませんが、すでに150万人を突破し、SNSや口コミで静かに広がっています。

 もう一つ。2011年3月11日の東北大震災・フクシマ原発事故は、日本史の転換点となりました。22世紀、2100年には大きな歴史的転換点となっているでしょう。6年たった今も3.11に誠実に向き合い続けているアート作家を紹介します。鴻池朋子さんの「根源的暴力」という個展を知り、居ても立ってもいられず、2月に新潟まで飛んでいきました。チラシには、「人間がものをつくり生きていくということは、自然に背く行為であり根源的な暴力です」と書かれていました。農業を研究している私にとっては、ええっと衝撃でした。鴻池は、2011.3.11の東日本大震災を受けて、2015年の最初の個展で、「四年半前のある日 地球の振動を感じた私の体は ゆっくりと制作を停止していった。あれもこれも違うと全感覚が否定しはじめた。しばらくすると 私の目はなにも見なくなり 手はまるで描かなくなった。まったく違う体になってしまったのだ」と、述べています。それから東北などへ旅に出て、停止と空回りと会話を続けるのでした。
 正直、今まで出会ったこともないアートでした。24メートルにわたる皮を継ぎ合わせた大緞帳に、獣、魚、鳥たち。人の内臓や血管。そしてそれらを包み込む雪や風、大自然。立ちすくみ、歩き、座り、見つめ、目をつむり、そんな繰り返しで1時間、2時間と過ごしました。美しいとか気に入るとかという反応は、全く起こりませんでした。何か怖いというか、怖れといった気持ちです。今まで私の中にあった秩序化されたというか、行儀よい美意識が破壊されていく感じなのです。今まで全く使っていなかった部分の想像力が、突然活性化しはじめた感じです。私を根本からグラグラッとさせたのです。64歳になってしまい遅いかもしれませんが、私は、もう一度根本から農業史研究を作り直さないといけない、さらには人生を見直さなければならないと、感じ始めていました。

「西の魔女が死んだ」
 皆さんの最近の感動は、どんなのですか。ちょっと思い出してみてください。感動を自分の中にどれくらいため込めるか。皆さん、ウソをついたり人を脅かしたり、ポストやお金に執着する、「無理が通れば道理引っ込む」のが、世の常です。皆さんの若い感性は柔軟で、真っ直ぐです。今のうちに感動を一杯ため込んでください。どうやって?私から一つアドバイスです。
 私は、東洋医学や看護の現場で働いている方々と勉強会をしていますが、最近看護学の先生から1冊の本を勧められました。梨木香歩の『西の魔女が死んだ』(1994)です。いじめなどで悩んでいた一人の少女が、「魔女」のおばあちゃんと自然の中で暮らしながら、本来の自分を見つけていく話です。2008年に映画にもなりましたので、ご存知の方もいるかと思います。梨木さんの本のカバーを描いている早川司寿乃さんが文庫本の解説で、3つの提案をしていて、なるほどと思いました。
 第1に、ご飯の時に、ひとくちひとくちをよーく噛んで食べてください。出来れば国産、地場のもので旬のものを。すると食べ物たちが体にしみこんでいく感じがして、元気が出ます。生きていることの素晴らしさを感じるようになります。第2に、テレビやスマホなどの音で身の周りが洪水になっている状態を、一度オフ、それらを全部消して、無音にしてみてください。そっと何かが聞こえてきます。別の「自分」が現れてきます。心の声が、「良心」conscienceコンシャンス、の声が響いてくるかもしれません。第3に、家に庭があるならば庭で、無ければ近くの公園でいいですし、靴を脱いで土や草の上に裸足で立って歩いてみてください。きっと何かが目覚めるような感覚が体験できるでしょう。自然との交わりです。3つとも難しいことではないですよね。そして、感動を一杯ため込んでいって下さい。

初代学長黒正巌博士の言葉「道理は天地を貫く」
 初代学長の黒正巌博士は、「道理は天地を貫く」と言われました。無理が通れば道理が引っ込むようないろいろなことがあっても、結局は人の生きるべき道理は、この世界を貫いているのだと。そんなことあるかいなと確信が持てないかもしれません。でもこれから社会人として人生を歩みながら、大経大オリジナルの世界で一つしかないこの言葉、「道理は天地を貫く」を胸に刻んでおいてください。きっと皆さんの人生を支えてくれることと思います。
 最後に私から皆さんに、一つ言葉をお贈りします。「おかげさま」。「おかげさまで、何とかやれてます、生きて生かされています」と感謝し祈る。これが私にとって生き方の原点であり、研究や教育の基本軸です。今日帰ったら、大学に行かせてもらったお父さん、お母さん、学費を負担していただいた方に、卒業証書を見せて、「ありがとうございました、おかげさまで卒業できました。」と、感謝の言葉を述べて欲しいと思います。卒業おめでとう。以上で私からのお祝いのメッセージといたします。ありがとうございました。