学長・野風草だより

No.804

No.804 2017年7月2日(日)

驚愕の池田学展 The Pen―凝縮の宇宙―

 6月30日、近くの吉田神社へ詣で、夏越しの大祓いをしてきました(野風草だよりNo.478699)。鳥居に大きな茅の輪が作られ、「みなつきの なごしのはらひ するひとは ちとせのいのち のぶといふなり」を唱えながら3度くぐり、今夏の無事を祈ります。形代(かたしろ)に家族の名前と年齢を書いて奉納し、焼いていただきます。そして茅をもらってきて小さな茅の輪を作り、玄関に飾り家内安全を祈ります。境内で買った「水無月」を食べて、今夏の大祓いは無事に終えました。また1年、よろしくお願いいたします。
 山形県の天童市から、今年もサクランボを送っていただきました。佐藤喜博・幸子ご夫妻の農園の佐藤錦です(野風草だよりNo.682695)。甘さ一辺倒ではなく、甘くもあり酸っぱくもあります。そして果肉の充実感が味わえます。サクランボは、何ともいえない可愛い感じですが、果物の本来の美味しさをいただきました。こうしてサクランボ、佐藤ご夫妻とのご縁が続くことに、しみじみと感謝の気持ちが湧き起ります。今後もご夫妻ともお体を大事にされて、農の素晴らしさを伝え続けてくださることをお祈りいたします。

 金沢の21世紀美術館で、「池田学展」をやっていましたので見てきました。わざわざ金沢まで足を運ぶのは、「井上有一展」以来です(野風草だより690)。知り合いから紹介されて初めて「池田学」の名を知りました。展覧会のチラシには、以下のように紹介されています。「きわめて細いペン先から壮大な世界を描き出すアーティスト、池田学(1973-)。1日に握りこぶしほどの面積しか描くことができないという画面は、緻密な描写や壮大な構成によって裏打ちされた、現実を凌駕するかのような異世界の光景を現出させ、米国はじめ世界的に大きな評価を得ています。本展覧会は、池田の画業の全貌を紹介する、初めての大規模な個展です。中でも米国ウィスコンシン州のチェゼン美術館の滞在制作プログラムにより3年にわたって制作された新作≪誕生≫は必見です。」
 ≪誕生≫(2013~2016 300×400cm)の前で、2時間ほど眺めつづけました。今まで見たこともないようなアートの世界でした。破壊されている家や道路、飛行機、列車などの人工物。一方で曲がりくねった巨木、花などの力強い生命力。海や波のうねりから伝わってくる自然の大きさ。こんなにアートに圧倒されるのは、最近では鴻池朋子以来です(野風草だよりNo.774)。近づいたり離れたりしながら、何となく歓び、祈りの気持ちがじわじわ湧き起ってくるのです。B2版の複製ポスターを購入して、マイルームの壁に貼っています。

 ≪誕生≫の意図を池田学は、カタログで次のように述べています。「瓦礫の山から始まった世界は時の流れと共に少しずつ変容し、それと共にテーマも「災害からの再生」という限られたものからもっと普遍的なものへと変わっていった。巨木を絵の中心に置こうと決めたのは1年以上が過ぎてからだった。
 バンクーバーやロッキー山脈でみた何世紀にもわたる豊かな森や、津波で生き残った一本松、ニューメキシコ州の岩山に根を空中に晒しながらも生えていた老松・・・・それらは命そのものの象徴として僕の目に映った。
 災害で傾いだ巨木がそれでも根を張り蘇生していく様を描くことで、自然だけにとどまらず生物全体の生命の力を表わしたかった。(中略)
 一つの終わりは新たな始まりの第一歩であるように、失われた全てのものは新しい命となって再び生まれ変わる。
 壮絶な状況下にあっても繰り返される生と死のサイクルを一つ一つの花に託し、困難の末に誕生した新しい時代の行く末に祈りと希望を込めて描き切った。」(『The Pen』134頁 2017 青幻舎)
 右上のチラシの作品は、「再生」(2001 一部)。右横の作品は、「興亡史」(2006)と「予兆」(2008)です。

 いろいろな人からご教示をいただきながら、私の眼前に現代アートの世界が広がってきています。京都の画廊を覗いて、楽しめるようになりました。齋藤修個展「宇宙へ・・・Ⅱ」(ギャルリー宮脇)、伊勢崎淳個展「現代美術として備前焼」(同)、三島喜美代展(現代美術艸居)、小川待子展(思文閣)などなど。街中を自転車で走っていて、ふらっと覗くこともあります。齋藤眞成展―100歳の軌跡―(Create洛)、井上有一展(蔵丘洞画廊)などがありました。
 これまでの固定化したアートの見方が崩されていきます。保守的というか権威化されたものに寄りかかった審美眼を見直しているところです。それは好きな音楽や芸能、文学はもとより、私の農業史研究や大学教育、さらには60歳を過ぎてなお人生の「革新」が求められているのだと感じる今日この頃です。夏越しの大祓いの伝統行事、絶品のサクランボ、驚愕の池田学、数々の出会いに感謝するばかりです。