学長・野風草だより

No.824

No.824 2017年10月8日(日)

芸術の秋 四条界隈にて

 今日は秋晴れです。暑いくらいです。干してる布団も気持ちよさそうです。小鳥がさえずっています。昨日は蹴上のホテルで京都橘学園創立115周年・京都橘大学開学50周年の記念式典と祝賀会に出た後、四条界隈で芸術の秋を堪能しました。まずは木屋町三条上がるのギャラリー中井で、高谷光雄さんの染織の個展を鑑賞しました。高谷さんとは昨年の三浦景生展でお話を伺って以来のご縁です(野風草だよりNo.734)。何回か作品展も拝見してきました。ところが今回は、入った瞬間、あっと驚きました。地味な生地に巨大な象がどーんときて、あとはちょこっと何かが描かれているだけのシンプルさなのです。帰ってから「高谷光雄・染・作品」(1998・2002・2008)の作品集を眺め直しましたが、やっぱり違っています。今まではやや説明的で、タイトルも意味ありげなものでした。そのためか、鑑賞している私は、制約を受けて自由に想像力を働かしにくかったように思います。
 2008年に始まった交響曲シリーズですが、今回のテーマは、「交響曲第6番 『邂逅』」です。第1楽章「この子を・・・」では、妊娠中の女性を、横から象の赤い眼が優しく見守っている感じです。新しい生命は、これから何と出会うのでしょうか。第2楽章「沈黙」では、齧られているリンゴの周りで俯く人々を正面の象の赤い眼が、厳しく見つめている印象でした。リンゴは大切な物の象徴でしょうか。第3楽章「一滴」は、指からこぼれる一滴を花が受け取っています。これは人類と自然の幸せな邂逅が実現したという事でしょうか。横のお二人は、高谷ご夫妻です。
 あと第4楽章「花の使徒」がありましたが、これは以前の作風に近いもので、やや描き込み過ぎだと思いました。「花の命は・・・」シリーズでは、「向日葵」「アネモネ」が印象的でした。とくに「向日葵」は、デザインと生地の茶の色合いが、花の命の枯れていくさまを想像させました。唐辛子の「整列だよ!」も楽しく、アソビ心が感じられて、師匠の三浦景生の作風と似てきているなと感じました。こうした表現を染織でやられていることに、敬意を表します。京都の伝統文化に根付いていることを感じます。高谷さんと創作の裏側などをお聞きすることもでき、幸せなひと時に、感謝いたします。

 続いて三条河原町西入るのギャラリーみすやで、水野恵さんが主宰する篆刻と書の塾「辵璽林(ちゃくじりん)」の同人展「辵展」を鑑賞しました。水野さんとも2014年に偶然同人展を拝見してからご縁が続いており、「道理貫天地」の篆刻をしていただきました(野風草だよりNo.439663724)。学生さんたちなどの表彰状に押印しています。水野さんからは、京都弁の「とくとく消息」を出される度にお送りいただいています。ありがたいことです。今回、また一つ篆刻をお願いしました。どんな言葉かな?出来上がれば、紹介します。
 今回のテーマは、「ビッグバン」でした。けっこう難題のようでした。水野さんの篆刻は「三千大千無邊」。次のように解説しています。「佛教では、宇宙を三千大千世界いうて無数の世界から成り立ってるて言います。その広さは涯しない、つまり無辺。何処まで行ってもドンツキが無い。そう言われても我々は『そんなもんかいな』。そんな事は無うて百三十億年前に出来たんやて聞いても『そんな事より明日のメシ』。何れアヤメかカキツバタ。『名前なんかどっちでもえゝがな。きれいな方が美しい』」。
 もう一つの篆刻は川浪春香さんの作品で、「女媧煉石補天處 石破天驚逗秋雨」。女媧(じょか)石を煉って天を補うところ 石破れて天驚き秋の雨を降らせたという意です。印象に残ったので、紹介します。なお、水野さんとの写真は、昨年10月27日の同人展で撮ったものです。

 その後、蛸薬師通り烏丸西入るの片山文三郎商店を訪れました。私は全国の伝統的な染織で、ネクタイを集めています(野風草だよりNo.559628731)。今年も仕事の合間に集めましたが、いずれ紹介したいと思います。京都は西陣織や友禅染で有名ですが、はたと気が付きました。お膝元の京都のネクタイって持ってなかった。そこで7月に思い立って、京鹿の子絞りのネクタイを同店で1本買い求めました。その時はシルバーしかなかったのですが、それはそれでお祝いごとの時などに締めて重宝しています。また新しく出来たらお電話しますと言われていましたが、新作が出来ましたのでよろしかったらどうぞとお誘いを受けました。
 お訪ねしますと、色とりどり、絞りの種類も様々で、感激しました。うれしくなって、お店の方とあれやこれやとお話ししました。今まで絞りは、名古屋の有松絞りしか持っていませんでした。一目見て、濃い緑色のは色といい柄といい、即決。あと迷いながら、絞りが目立たないがよく見ると絞りの美しさが引き立っている黄緑のを買いました。ありがとうございました。締めた時、お店の方の絞りへの愛情を思い出すことでしょう。こうして遠くまで出かけなくても、地元京都で染織に想いを掛けている方々に出会えことは幸せでした。

 夕方、ちょっと今まで味わったことのない体験に挑戦しました。本学の卒業生で元社長さんに、下木屋町のもち料理「きた村」を紹介していただきました。そこで歌舞伎の話になり、お好きでしたら京の町家で浄瑠璃をお聞きになってみませんかと、お誘いを受けました。以前から好きな藤舎名生の篠笛(一管)は、夏にご縁があって生演奏を聞くことができました。三味線は、津軽三味線の初代高橋竹山の「岩木の幻想」「そのふるさと」などのCDを聞いていましたし、日本橋の文楽劇場で鶴澤寛治、野澤錦糸、鶴澤燕三などを聞いていましたので、興味がありました。御幸町通り二条上がるの町家をお訪ねしました。野澤松也(まつや)さんという方で、歌舞伎の義太夫三味線方の三味線奏者で、重要無形文化財総合指定保持者です。また、昔話や民話、各地に伝わる話などを浄瑠璃風にアレンジした作品に作曲して聞かせる「創作浄瑠璃」を続けているそうです。毎月、「京町家ライブ」を開催されていて、当日は十人ほどが参加されていました。
 古典として、牛若丸と弁慶の「五条橋」を語りました。「五条橋」というのは、今の幅広い五条大橋ではなく、やや北側の今の松原橋のことだったそうです。創作浄瑠璃の「足洗ひ屋敷」は、江戸の本所七不思議と呼ばれる怪談の一つ「足洗邸(あしあらいやしき)」からアレンジしたものでした。極道息子が実家に帰って、母親に諭されますが言う事を聞かず寝ていますと、天井から亡くなった父親が降りてきて、「極道から足を洗え」と諭すオチでした。
 吉田兄弟や若手の三味線ライブは聞いたことがありましたが、浄瑠璃は初めてでしたので、まだどうと評価はできませんが、町家の風情と調和して、しっとりとした味わいででした。床の間には、演題とかかわらせて弁慶草が活けられており、裏の庭には菊などが活けられて灯りが付いています。室内には和ろうそくが灯されています。三味線に関するお話を聞かせていただいたり、質問にも丁寧に答えておられ、私のゼミ生が大阪三味線の歴史や制作を研究していて、職人さんのフィールドワークもしていましたので、大変勉強になりました。こじんまりとした町家でのライブはとても一体感がありました。また出かけて、耳と心を肥やしてみようと思います。
 帰りに、いつも行く馴染みのゼストの寿司屋さんで、寿司をつまみ酔いながら、今日一日の出会いを幸せな気持ちで思い返していました。ありがたや、ありがたや。