学長・野風草だより

No.839

No.839 2017年11月13日(月)

ブリューゲル・絹谷幸二・国宝・北斎

 美術の秋ということで、美術展をはしごしました。中之島の国立国際美術館で、ブリューゲル「バベルの塔」展を見ました。「バベルの塔」は、有名なので一度実物を見たいと思っていました。バベルの塔だから大きいもんだいう先入観があったのですが、第一印象は小さいという事でした。以前に細密画の池田学を見ていましたから(野風草だよりNo.804810)、同じようなことをすでに16世紀にやっていたことに驚きでした。何年もかかったのではないようです。すごい集中力だな。それと東京藝大によるCG映像で、細密な描き込みの状況、当時の作業の様子が復元されていたのには感心させられました。ただ見ていただけではわからないことが、こうした現代ハイテク技術を駆使して多くのことを教えてくれるのには、美術展も変わったなと思いました。
 ブリューゲルの先生のボスの油彩もあり、その他奇想天外な絵や庶民の生活ぶりがわかる絵や版画などが多数展示されていて、16世紀のネーデルランドの世界を想像することができました。A4ほどの枠入りのバベルの塔を買ってきて、池田学の「誕生」と並べています。

 京都・岡崎の国立近代美術館の絹谷幸二展に参りました。彼については全く知りませんでしたが、驚きましたね。初期から現在まで洋画から素描、陶芸、ガラス作品まで、彼の仕事が一望できました。イタリアに留学して壁画の修復「アフレスコ技法」を学び、「色彩とイメージの旅」の展覧会のサブタイトルの通り、大胆な作品を次々と発表していきます。何だろう?日本画、日本人の洋画とは異なる、こんなにも明るく輝く大胆な絵の世界があるんだ・・・今まで全く知らなかっただけに感動も大きく、図録を買ってしまいました。
 どんな人なのか知りたくて、『絹谷幸二自伝』(2016 日本経済新聞社)を読みました。そこに何と本学卒業生で岩谷産業会長の牧野明次様が、若い時から彼を支援して絵を買い上げていたこと(同書181頁)、大阪で絹谷ファンの企業人の集まり「九絵の会」を開かれていることが書かれていました(同書188頁)。大経大がこうした「文化」につながっていることを、大変うれしく思いました。
 「ただ古いものをひっぱってくるだけじゃなく、日本の心を、古代の心を線に託し、新しい感性でそれを生き生きとした世界で蘇らせたいという意識です。」「私は伝統や時間のかなたから運ばれてきた光を大切にしたいと思いますし、それをこよなく愛しています。」展覧会の展示、第8章「祈り」の「無著・世親」、「金剛蔵王権現像」など、第9章「新たなる日本の風景画」の諸作品、こんな世界があってもいいんだ。マイッタ、まいった、参った。私も訪ねたことがある「渡岸寺十一面観音」、京都の神社仏閣に跳梁する龍神の連作シリーズ、私の散歩道にある黒谷さんの「黒谷光明寺降臨文殊菩薩Ⅰ」などなど。ここでも3Dのバーチャル映像で、最近の「祈り」や「新たなる日本の風景画」を見せてくれました。梅田のスカイビルにある絹谷幸二天空美術館に行ってみよう。

 京都・東山七条の京都国立博物館での「国宝展」、まあすごいわ。まずは人の行列に驚かされます。現在国宝に指定されている885件の内、約4分の1にあたる200件が大集合しているのですから、この人混みもしよいうがないか・・・4期に分けて行われ、そのうち3つを拝観しました。中学や高校の教科書で見ていた美術品が、これでもかこれでもかと展示されています。有名なものは館内でも行列です。今まで見たことがないもので、これだけは見ておこうと思ったのは、「縄文のビーナス」「火焔型土器」など、如拙の「瓢鮎図」、雪舟の四季山水図、「曜変天目茶碗」、等伯の「松林図屏風」、光琳の「燕子花図屏風」などです。大いに満足と言うか、これでもかこれでもかと出てくるので、少々疲れました。
 新たに知って感動したのは、大阪・金剛寺の3mを越える金色に輝く木造の大日如来坐像の荘厳さ、円山応挙の「雪松図」の松に積もった雪の美しさ。もうこれからは見ることもないだろう。入場者はなんと60万人を越えたそうです。

 最後は、あべのハルカスでの北斎展です。こちらもすごい人出でした。26万6千人の入場者があったそうです。有名な「富嶽三十六景」の版画シリーズはもちろん、とくに晩年30年に焦点を当てて、肉筆画を中心に200点余りが展示されていました。富士の高みを超えて、最晩年の「李白観瀑図」、「雪中虎図」など、どうしましょう。「百」の印を押して、百歳まで生きて「神の領域」に達して「1点1画にして生けるがごとく」描きたいという北斎の強い意志が込められているそうです。そう、前に立ちじっと見つめていると、何かが伝わってくるのです。いいねいいね。もちろん図録を買いました。
 有名な「濤図」。長野県の小布施の祭屋台の天井図です。実は私は2・3年ゼミの旅行で、2007年5月に小布施を訪ね、屋台と濤図を見たことがあったのです。小布施の町おこしをしていたアメリカ人の「台風娘」セーラ・マリ・カミングスさんともお会いすることができました。その時に買い求めた2枚の「男浪」「女浪」のハンカチ、壁に掛けています。
 今回の展示のもう一つの目玉は、娘の「応為」の作品が展示されていることです。父との共同制作、代筆などをしていた応為の作品は、単独と確定できるのは数点しかないらしいですが、「吉原格子先之図」など驚くような陰影の美しさです。この絵は、朝井まかて『眩(くらら)』(2016 新潮社)の表紙カバーになっています。北斎と応為の親娘、一門の様子がよくわかる小説です。梶よう子の『北斎まんだら』(2017 講談社)、カナダ人の女性作家キャサリン・ゴヴィエの『北斎と応為』上下(2014 彩流社)、そして応為を描いて話題になった杉浦日向子のマンガ『百日紅』(1987 実業之日本社)など、娘の応為も注目されているようです。久保田一洋編『北斎娘応為栄女集』(2015 藝華書院)によれば、12点が応為単独と確認できるらしいです。幸せな気分になり、帰りに一杯・・・・2018年の北斎・応為のカレンダーを早くも壁に掛けて、1月の赤富士「凱風快晴」を眺めています。