学長・野風草だより

No.858

No.858 2018年3月3日(土)

現れよ。森羅の生命―木彫家 藤戸竹喜の世界

 藤戸竹喜(ふじとたけき/1934-)は、旭川を拠点に「熊彫り」を生業として父のもとで、12歳から木彫を始めました。以来、父祖の彫りの技を受け継ぎながら、熊をはじめ狼やラッコといった北の動物たちと、アイヌ文化を伝承してきた先人たちの姿を木に刻み、繊細さと大胆さが交差する独自の世界を築いてきました。
 卓抜なイメージ力・構想力とともに、生命あるものへの深い愛情に根ざした生気あふれる写実表現は、他の追随を許さず、北海道を代表する彫刻家として国内外から高い評価を得ています。(チラシの紹介文より)

 万博記念公園の国立民族学博物館で開かれていましたので、見に行きました。70年にわたる創作活動を約90点の作品で一覧することが出来ます。写真撮影も可能です。「親子熊」(2004)では、親熊の優しいまなざしが印象的でした。「群れる鮭を追う熊―秋」(2002)は、川を泳ぐ鮭、川の流れ、飛びかかろうとする熊、すべてが動いてる感じのリアルさです。様々な熊、狼、魚、蟹などの生き物たちの姿は、まさに「現れよ。森羅の生命(いのち)」(ヤイクㇽサㇷ゚テ!カムイ ウタㇻ【カタカナはアイヌ語】)の世界を感じさせてくれます。

 「樹霊観音像」(1969)、この作品には驚きましたね。思わず心の中で祈りを捧げました。藤戸の制作風景がビデオで流されていました。「木は生きている」「木を削って、生命をいただいて(木彫り)をやっている」から、伐り倒す時には、樹の前でお神酒をあげて、お祈りを捧げていました。そして、工房でいよいよ制作に取り掛かる時にも、感謝の祈り(カムイノミ)を捧げます。頭の中で作品のイメージが出来上がれば、いきなりチェーンソーや電気のこぎり、まさかりなどで形を作っていきます。そして、一気にのみなどで仕上げていきます。
 「ヒビも、作品の一部だからな」、木目、ふし、割れ、こぶ、穴。すべてその木にしかない個性であり、生きてきた時間の痕跡であると言います。これって、法隆寺の宮大工・西岡常一の言葉と同じだなと思いました。「木を殺さず、木のクセや性質をいかして、それを組み合わせて初めて長生きするんです。」(西岡『木に学べ』17頁 1991 小学館)

 「ふくろう祭り ヤイタンキエカシ像」(2013)、奥の立像は父方の祖母で幼少時に藤戸を育ててくれた「藤戸タケ像」(1992)と「日川善次郎像」(1991)です。こうしたアイヌ文化を伝承してきた先人たちの立像も作っています。前に立つと、威厳さに心打たれます。
 藤戸竹喜氏の仕事などについては、図録『木彫家 藤戸竹喜の世界』(2017 一般財団法人千里文化財団)、在本彌生・村岡俊也『熊を彫る人 木彫りの熊が誘うアイヌの森 命を紡ぐ彫刻家・藤戸竹喜の仕事』(2017 小学館)があります。アイヌの歴史と文化については、瀬川拓郎『アイヌ学入門』(2015 講談社現代新書)、同『アイヌと縄文』(2016 ちくま新書)、同『縄文の思想』(2017 講談社現代新書)を読みました。いつか、阿寒湖畔の「熊の家」、そして工房をお訪ねしたいものです。