学長・野風草だより

No.859

No.859 2018年3月17日(土)

卒業生に贈る言葉

“大経大PRIDE”のバトンを受け継ぐ
 各学部の卒業生の皆さま、そして各大学院研究科の修了生の皆さま、卒業・修了おめでとうございます。また、本日ご臨席たまわったご父母、学費負担者の皆さまに心よりお慶び申し上げます。皆さん、4年間の大経大でのキャンパスライフはどうでしたか?満足出来たでしょうか。
 本学は、1932年の浪華高等商業学校に始まり、昭和高等商業学校、女子経済専門学校などを経て、1949年に現在の大阪経済大学となり、2012年に創立80周年を迎えました。卒業生は今日卒業される学部生1,627名、大学院を修了される皆さん55名を加えて、 97,086名となります。2年後には10万名を越えます。学部生の皆さんは第84期生にあたります。今年で86年の歴史、すごいもんだと思いませんか。先輩たちからのバトンをしっかりと受け取ってほしいと思います。そのバトンには、“大経大PRIDE”と書かれていると思います。これからは大経大の卒業生であることに誇り、PRIDEをもって生きていってほしいと思います。

「なりはひの 道はかはれと・・・」
 皆さんはこれから社会に旅立ちます。進まれる道は、就く仕事はみんな違います。初代学長の黒正巌博士は、こんな歌を残しています。「なりはひの 道はかはれと さして行く 高嶺の月は 一つなりけり」。なりわいとは生業のことです。生活をしていくための道は、みんな違うけれども、目指していくべき高嶺の月、つまり目標というのは、一つなのだという意味です。富士山の頂上への登山道は幾つもあるけれども、登れば日本一高い頂上は一つなのです。

「道理は天地を貫く」
 それでは、「高嶺の月」、目標とはいったい何でしょうか。1935年に再建された昭和高商の初代校長となった黒正巌博士は、「道理貫天地」、「道理は天地を貫く」と言われました。さらに「研学修道」、「学を研いで、学問に研鑽して、道を修める、道理を究めよう」と訴えられました。これらは世界で、日本でオンリーワンの大経大オリジナルの言葉です。道理、道とは何か、人の生きる道、理。いかに生きるか、いかに死ぬるか。これまた難しいですよね。正解はありません。各人各様の解釈でかまいません。
 でもきっと古今東西そんなには変わらないものでしょう。中国の孔子は「一を以て之を貫く」、ギリシアの哲学者ソクラテスは「よりよく生きる」と言いました。
「一」「よりよく」が「道理」「道」にあたるでしょう。それでは、「一」「よりよく」とは何か、さらに考えてみなければなりません。
 皆さんがこれから生きていく社会では、「無理が通れば道理が引っ込む」ようなことが一杯あるでしょう。でも、結局は人の生きるべき道理は、孔子の言う「一」、ソクラテスの言う「よりよく」は、この世界を貫いているのです。そんなことあるかいなと、今は確信が持てないかもしれません。しかし、これから社会人として人生を歩みながら、大経大オリジナルの世界で一つしかないこの言葉、「道理は天地を貫く」を胸に刻んでおいてください。きっと皆さんの人生を支えてくれることと思います。
 正門の守衛室の横には、黒正博士の胸像と「道理貫天地」の石碑があります。是非、卒業する最後に見て帰って下さい。バックにある大きな樹は、本学のメモリアルツリーである大樟の樹です。あとでみんなで一緒に歌う学歌の2番で「学徒師弟が幹負いもちて諸汗に、しっかと植えた融和のシンボル」というのは、この樹の事なんです。創立以来86年間、私たちを見守り続けてくれたのです。どこにあるか、ご存知ですか?J館とB館の前にある大きな樹です。4年間通りすがりによく見てきたと思いますが、最後にありがとうと声をかけてあげてください。

元学長鈴木亨博士の言葉
 元学長である鈴木亨博士は、西田幾多郎の日本哲学の後継者として著名な先生ですが、めでたくも今年白寿、99歳を迎えられます。鈴木博士は、「存在者逆接空・空包摂存在者」と言われ、「響存的世界」を主張しました。これもまた難しいですね。
 一つ、私の小さな経験をお話します。私の敬愛する兄が2015年8月に64歳で亡くなりました。2002年に腎ガンが発見され、以後各所に転移し、抗ガン剤治療を続けて、2010年には大きな手術を行いました。兄は工業エンジニアでしたので、現代の西洋医学に絶対の信頼を寄せ、最先端の治療を受ける努力を続けました。
 すべての先端治療が終わり、2015年にターミナルケアに入った病院でも、残される家族のために生きようとする強い意志を持ち続けました。2002年の発病後あと数年と言われ、いつ亡くなってもおかしくない状況で、死と真正面に向き合い続けて13年間、死の20日前に見舞った時、それまでと全く違う兄に出会い、驚きました。闘病記録には、その時の気持ちの変化を次のように書き留めていました。
 「自然の存在をすべて知るには、人間の五感だけでは足りない」、「物質には人間の感性・悟性にいまだ反映されない諸性質があるかもしれない」、「人間の感覚すべてをなくしてもまだ、ザワザワと人間に響く反映すべき何かがある」。
 兄が第6感で直観した「ザワザワと人間に響く反映すべき何か」こそが、鈴木博士の言われる空でしょう。空は空っぽという意味ではなく、仏教用語ですが、すべての存在を産み出す根源、いのちの源です。地球上のあらゆる存在者は、すべて空から分節化した、産まれ出たものです。存在者のほうから空へと行くことは決してなく、不可逆的に一方向というのが「逆接」の意味です。つまり空はあらゆる存在者を包摂しているのです。そして、空はすべての存在者に向けて響き続け、兄は死を目前にしてシンクロナイズしたのです。あらゆる存在者は響きあいながら、共存共生しているというのが「響存的世界」の実相です。

「おかげさま」「おたがいさま」
 しかし、この「空」を自覚できるかどうか、兄は科学・技術とともに生きながら、死の20日前に自覚しました。私は、理屈ではというか頭ではわかっていますが、本当に自覚できているかどうかは正直自信ありません。私は常日頃、「おかげさま」「おたがいさま」と言っています。故郷の松山で2014年に89歳で亡くなった母にいつも言われていた言葉です。私は「おかげさま」の「かげ」こそが「空」であり、目に見えないから「かげ」という日本語で表現したのだと思います。空の側からすれば、反転して仏像の光背のように光り輝くものでしょう。「おたがいさま」の「たがい」というのが、「響存」とはいうことではないかと考えています。難しい言葉ではなく、この母の教えのほうがぴんと来ます。
「おかげさまで、何とかやれてます、生きて活かされています」と感謝し祈る。おれがおれがの「我」ではなく、「おたがいさま」と認め合い、労わりあう。これが私にとって生き方の原点であり、研究や教育の基本軸であり、学長としてのスタンスです。
 今日帰ったら、大学に行かせてもらったお父さん、お母さん、学費を負担していただいた方に、卒業証書を見せて、「ありがとうございました、おかげさまで卒業できました」と、感謝の言葉を述べて欲しいと思います。これから各教室で、卒業証書をもらうことと思います。卒業関係の書類とともに、スクリーンに映している黒正博士の言葉をチラシにして、一人ひとりに用意しています。卒業証書とともに大切にしていただければ、大変うれしいです。
 
 私たち大阪経済大学は、「つながる力No.1」と言ってきました。「つながる」、つまり「おたがいさま」です。「道理」は「つらぬく」、「おかげさま」です。「つながる」と「つらぬく」、私もまた「おたがいさま」「おかげさま」と唱えることで、黒正博士、鈴木博士が作り上げた本学の学問的伝統、道理を受け継いでいきたいと思います。本学は2022年に90周年、2032年に100周年を迎えます。是非、その折には母校を訪ねてみてください。本学は皆さんにとって第2のホームです。ほんまに待ってるよ。
 皆さん、卒業おめでとう。以上で私からのお祝いのメッセージと致します。ありがとうございました。