学長・野風草だより

No.872

No.872 2018年6月17日(日)

南画・絞り染め・結晶体のアート魂

 玄関の植木鉢で黄色いマリーゴールドが咲き続けます。近くのスーパーで「残品処分」の安売りしていたものですが、けっこう強くて次々と咲いてくれます。蝶がやってきました。おそらくタテハチョウ科の蝶でしょうか。シジミ蝶もきました。春から夏へと季節が動きます。

 国立京都博物館へ、池大雅展を見に行きました。池大雅(1723~1776)は、伊藤若冲(1716~1800)や円山応挙(1733~1795)と同時代に京都画壇で活躍した画家で、「南画の大成者」と言われています。私は大雅の作品はあまり知りませんでしたが、初期から晩年までの代表作を集めていて、彼の生涯を一望できました。面白いのは、画風が次々と変わってくことでした。初めは中国の文人画を習っていき、その後指を用いて描く「指墨画」で独自の境地を開いていき、西洋画の表現方法をも取り込んでいきます。旅と登山が好きで、富士山・立山・白山の3霊山を登っての絵もあります。
 画風が変わっていきながらも、一貫して伸び伸びとした雰囲気が伝わってきます。いい気持ちです。若冲や北斎などに見られる「オオッー」といった印象はありませんが、静かに伝わってくる何かがあります。紹介のチラシには、「天才南画家、85年ぶりの大回顧展 天衣無縫の旅の画家」と見出しにあり、解説には「その作品は、寡欲で恬淡、きわめて謙虚だったと伝えられる人柄を象徴するかのような、清新で衒いのない明るさに満ちています。」とあります。ウーーン、こんな感じかな・・・池大雅は、書にも通じていました。今回は図録の替わりに、写真のように書と絵が一体となった扇子を買いました。彼は若い頃はこうした扇子を作って生計を立てていたそうです。

 染・清流館(室町通錦小路上る)で開かれている「絞る・締める・染める」展に出かけました。2006年に開館してから、絞り染めの作品を集めた展示は、初めてだそうです。絞り染めは、布を糸で括ったり板で挟んだりして、染料に染まらない部分を設け、文様を絞めだす技法です。今回は19名の作家の作品が展示されていました。伝統的な作品あり、実験的な作品もあり、とくに驚いたのは立体的な作品が幾つかあることでした。私がいいなと思ったのは、右の写真の左端の石塚広の作品、右端の福本潮子の作品、そして羽毛田優子、八幡はるみの作品でした。
 私がネクタイを購入している片山文三郎さんも(野風草だよりNo.824)、ポリエステル素材で唄(ばい)絞りの「SHIBORI AKARI 海月」を出品されていました。大きな立体的な灯りです。帰りに蛸薬師通烏丸西入ルのお店に寄りました。以前にお訪ねした時、和紙の小物でデザインがすばらしかったので、こんな感じでネクタイが出来ませんかねと、冗談半分でお願いしてみました。びっくり仰天、ほんまに出来ていたのです。大剣(ブレード)は丹波の黒谷和紙を素材に、なかつぎと小剣(スモールチップ)はインドの森林地帯で産するタッサーシルクで作られています。黒谷和紙は、古くから紙衣(かみこ)として使われたりして強いので有名です。タッサーシルクは、ヤママユガ科の野蚕(やさん)から手作業で紡がれた絹織物です。私は以前に日本で唯一のヤママユガから紡いだ天蚕の有明紬を入手できました(野風草だよりNo.850)。これまでと違った締め方で、しわにならないように気をつけながら愛用しています。
 右のネクタイは、麹塵(きくじん)染のネクタイです。麹黴(こうじかび)のようなくすんだ黄緑色で、昔から皇族のみが使用を許された高貴な色とされていました。角度や光線によって色が変化します。ちょっとしたアソビ心ですね。右端は麹塵染の扇子です。素材はインドのアッサム地方で産するムガシルクで、同じく野蚕です。絹織物ですので、あおぐと柔らかい風を楽しめます。絞り染めでファッションとアートの融合をめざす片山文三郎商店は、2015年に創業100年を迎えた京の老舗です。

 本学卒業生の倉貫徹さんが(野風草だよりNo.362492789など)、京都で個展を開かれましたのでお訪ねしました。案内状には次のように倉貫さんの紹介があります。「1948年、大阪生まれ。1971年、大阪経済大学卒業後、家業の宝石商を継ぐ。また、1968年以降、個展やグループ展にて作品を発表し続けている。・・・幼少期から貴石、宝石など鉱物世界に親しみつづけてきたその圧倒的なキャリアは、倉貫徹作品への他のアーティストの追随を容易ならざるものにしている。また、鉱物をはじめ素材全般の原形質を損なわぬ注意深さは、倉貫の「自然へのオマージュ」に貫かれた高い精神の現われといえよう。」
 四角いアクリル樹脂の中に水晶の原石が閉じ込められ、また突き出しています。2度訪ねて鑑賞しましたが、正直どう表現したらいいのでしょうか。会場のギャラリーである「弱法師」(よろぼし)は、河原町三条上るの屋根裏部屋です。古い柱やはがれかけた壁に囲まれて、結晶体が輝きます。水晶はじめ鉱物は美しいです。それらが閉じ込められいるのを見ると、何となく奇妙な感覚に襲われます。まだ適当な言葉をよう見つけれません。
 南画の池大雅、絞り染めの片山文三郎商店、結晶体の倉貫徹、共通するのは新しいものへの飽くなき挑戦、オリジナリティへのこだわりアート魂のように思いました。