学長・野風草だより

No.889

No.889 2018年9月14日(金)

卒業生に贈る言葉

「大経大PRIDE」
 本日は、皆さん、卒業、修了、おめでとうございます。ちょっとだけ遠回りしましたが、良かったですね。ご臨席いただきました保護者の皆さまはじめ、ご関係の方々にも心からお慶び申し上げます。
 1949(昭和24)年に新制の大学となった大阪経済大学の前身は、1932(昭和7)年に創立された浪華高等商業学校であり、その後1935(昭和10)年に昭和高等商業学校として再建されました。その初代校長となった黒正巌博士以来、「自由と融和」を建学の精神として受け継いできました。今年で創立86年となり、2032年には創立100周年を迎えます。本日卒業・修了する77名の皆さんを加えて、卒業・修了生は9万7千名ほどになりました。本日から、皆さんもその仲間です。どうか皆さん、これからの社会人生活において、大経大卒業生としての誇り、「大経大PRIDE」をもって、過ごしてください。
 皆さん、大経大での生活に満足されたでしょうか。私たち教職員は「つながる力。No.1」を掲げて、皆さんと接してきました。満足して卒業・修了していただければ、大変うれしいです。私たちは「大経大FAMILY」として、これまでもつながってきましたが、皆さんが卒業されてからも、つながりを続けていきたいと願っています。是非皆さんの母校を愛し続けてほしいと思います。

「天災」は私たちに問いかける
 さて、今年の夏は天災続きでした。6月18日の大阪北部地震、7月に入ってからは大雨が数日降り続き、岡山・広島はじめ各地に大きな被害をもたらしました。雨が上がって一安心かと思えば、猛暑、酷暑、炎暑が3週間、4週間と延々と続きました。
 私は熱中症で夏が越せるのかと本気で心配しました。もうこれで終わりにしてほしいのに、9月は台風21号による暴風雨です。本学でも大きな楠が1本根こそぎ倒れ、たくさんの枝が折れてしまいました。私は関空からタイ・バンコクへ3大学を表敬訪問する予定でしたが、すべてキャンセルとなりました。その後北海道では大きな地震があり、被害も甚大です。皆さん、大丈夫でしたでしょうか。本学の学生、家族で被災された方もいらっしゃいます。被災された方々に対し、心からお見舞い申し上げます。
 私にとっても、今年ほどの天災続きは初めての経験でした。地球環境の変化、異常気象がずっと言われてきましたが、今回ほどそれを実感したことはありませんでした。1995年1月17日の阪神・淡路大震災(死者6,434名)、2011年3月11日の東北大震災(死者15,985名、行方不明者2,539名)、フクシマ原発問題、近くは2016年4月の熊本地震と続いてきました。南海トラフ巨大地震の発生も予測されています。本学も避難所になっていますが「防災」が、そしてもっと根本的には自然との共存が身近で深刻な問題となってきました。
 現在は時代の転換期といわれますが、少子高齢化やAI人工知能、ロボット、第4次産業革命といった社会や経済などあり方だけでなく、地球、自然、生物種としての人類種の存続を根本的に問う転換期であることが明らかになってきました。人類種が永遠に続くわけではありません(加藤典洋『人類が永遠に続くのでないとしたら』2014岩波書店)。現在は「歴史の峠」(財政学:神野直彦『「人間国家」への改革』2015NHKブックス)に立っており、右肩上がりの成長の登山ではなく「下山の時代」(言語生態学:鈴木孝夫『日本の感性が世界を変える』2010新潮社)に入った「長い21世紀」(経済評論:水野和夫『資本主義の終焉と歴史の危機』2014集英社新書)です。これから「第3の定常化の時期」(公共政策:広井良典『ポスト資本主義』2015岩波新書)、「軸の時代Ⅱ」(社会学:見田宗介『現代社会はどこに向かうのか』2018岩波新書)を迎えようとするまさに歴史的転換期において、これから私たちはどのように生きていくのかが問われています。

「自由と融和」
 本学は「自由と融和」を建学の精神に掲げていますが、私はこう思います。現在の21世紀において、「自由」とは自然環境、人間社会における「多様性の承認」ということではないでしょうか。みんな違っていい、それを認め合い尊重し合う、大阪経済大学もまた、このような方向をめざしていくべきです。「融和」とは生物種すべてが「共存共栄」をめざしていくことです。私たちはえてして自分の地位や名誉、お金を追い求めて周りを傷つけ貶めていくオレガオレガの「我の世界」の負のスパイラルに陥り、おかげさまと感謝して祈り、「おたがいさま」と労り合うことを忘れてしまったのです。「多様性の承認」と「共存共栄」、この二つの原理は生命が誕生して40億年にわたる揺らぐことのない原理だったのです(本川達雄『生物多様性』2015中公新書、同『生物学的文明論』2011新潮新書)。それをこの20万年のホモサピエンス、現生人類、そしてわずか3,4百年の資本主義社会が歪めてきたのです。今再び、「自由と融和」の21世紀バージョンである、「多様性の承認と共存共栄」が問われているのです。

「道理は天地を貫く」
 私たちは、いったいどこに立ち戻るべきなのでしょうか。本学の前身である戦前の昭和高等商業学校の校長先生で、戦後1949年に本学の初代学長を務めた黒正巌博士の言葉に「道理貫天地」というのがあります。これは世界で、日本でオンリーワンの大経大オリジナルの言葉です。各教室で卒業証書を授与される時に、黒正博士のチラシが入っています。是非、手元に置いていてほしいと思います。
 道理とは何か、人の生きる道、理。いかに生きるか、いかに死ぬるか。古今東西変わらないものです。道理は、世界をそして目に見えない天地をも貫いているんだ、と黒正博士は言われたのです。各人各様の解釈でかまいません。正解はありません。
 「道理は天地を貫く」、大経大でしか学べないこの言葉を、頭の片隅でもいいから覚えていてほしいのです。必ず、皆さんのこれからの人生を支えてくれる芯柱になってくれると思います。「道理は天地を貫く」。そして「研学修道 学問を研究、研鑽して、道を道理を修めよ」、黒正博士はそう言われました。皆さんの学生生活は、まさに「研学修道」だった、はずです。

黒正イズムの4つの眼
 黒正博士は当時の多くの学生、教職員から慕われ、その言動は「黒正イズム」として記憶されてきました。その黒正イズムは次の4つの眼にまとめられると思います。
 
鳥の眼:鳥が大空から大地を眺めるように、広く空間認識のもと、国際的な視野をもっていました。たとえば戦前において、敵性言語であった英語を推奨したのは、今後の世界を見据えていたからでしょう。

虫の眼:虫が地面をはいつくばって動きまわるように、地道に現場に即して考える姿勢を貫きました。身近な学生たちを愛し、日本文化の伝統を尊重しました。

魚の眼:魚が河や海で流れを読みながら水中を自由に泳ぎまわるように、永いスパンで時代の流れを読む先見性を持ち合わせていました。1930年代日本での社会経済史学の樹立に貢献し、いち早くマックス・ウェーバーを日本に紹介しました。最後にもう一つ強調したいのが、

こころの眼:目に見えるものだけでなく、こころ(情・心)で感じるものへの気づきです。和を尊び、利他の精神、感謝の心を大切にしました。

 こうした4つの眼をもった黒正イズムは本学の芯柱であり、黒正イズムに基づく学生一人ひとりに気遣い心配りをした、きめ細かい教育こそが、本学の教育の特徴です。いつも皆さんに言っていた「つながる力」です。黒正イズムの継承・発展こそが、2032年の100周年、さらには200周年の礎です。皆さん、この黒正イズムの4つの眼を大切にして、これからの社会人生活を送ってください。

 あらためて卒業生、修了生の皆さん、おめでとう。以上で、皆さんへのお祝いのメッセージといたします。ありがとうございました。