学長・野風草だより

No.104

No.104 2011年6月11日(土)

学問の醍醐味と楽しさを満喫した二つの出版記念会

私は、大学院生であった1977年から現在まで34年間、「関西農業史研究会」をお世話しています。農業史研究が好きというだけで、毎月15人ほどが集まって議論し、酒論を繰り返してきました。私の研究の原点であり、今もなお研究を続けていく原動力です。4月に、研究会のメンバーである伏見元嘉さんが本を出版されました。偶然な機会でお知り合いとなり、その後毎月研究会に来られ、遂には日本最古の農書である「清良記第7巻-親民鑑月集-」に関する大著を出されました。早速みんなで書評会をしてコテンパンにやっつけ、その後近くでお祝い会をしました。

右の写真は、伏見さんが、「清良記」を初めて全巻復刻された農業改良普及員の松浦郁郎さんを愛媛の三間町に訪ねて、出版の報告をされた時のものです。松浦さんのような方のご努力で研究の基礎が築かれ、大学に勤めてなくても伏見さんのように素晴らしい研究書を公刊することが出来ます。研究会では、2008年に谷弥兵衛さんが『近世吉野林業史』(思文閣出版)を出されました。3冊目も準備中です。以下は、伏見さんのコメントです。

思文閣出版から『中近世農業史の再解釈―『清良記』の研究』を、刊行していただきました。私は、学問とは全く無縁の人生を送っていました。ふとしたことで宇和島に伝わる軍記『清良記』と出会い、暇潰しに物語の真偽を調べ遊んでいました。
 平成11年7月29日に大きな出会いがありました。それは、大阪経済大学日本経済史研究所が主催する「寺子屋-史料が語る経済史・農書が語る江戸時代の農業」を聴講させていただき、『日本農書全集・清良記(親民鑑月集)』を執筆された徳永光俊先生と出会ったことです。以来、「寺子屋」、春秋の「学術講演会」の聴講や、図書館の豊富な史料を拝見させていただいたことが基になって、刊行に至りました。
大阪経済大学と徳永先生をはじめ、諸先生方のご好意によって成し遂げたもので、篤く御礼申し上げます。

一週間前の6月5日には、「いのち」にかかわる東洋医学、心理学、教育学、農学など学際的な研究仲間である「プロジェクトいのち」の共同主宰者である明治国際医療大学の渡邉勝之さんの『医療原論 いのち・自然治癒力』(医歯薬出版)の出版記念会を行いました。「経絡は常に存在するものではなく、病態に応じて一人ひとり異なる場所に発現または消失する」。それまでの何千年と信じられてきた東洋医学の常識を根底から覆す『始原東洋医学』(有川貞清 2008)の原論です。東洋医学の明治国際医療大学・矢野忠先生、脳外科の筑波大学・鮎沢聡先生、宗教哲学の京都府立医科大学・棚次正和先生からお祝いの言葉とコメントが寄せられました。私は、ないものねだりですが厳しいコメントを行いました。こうした幅広い研究仲間たちと、そして若い人たちと議論できるのは、ありがたいことです。以下は、渡邉さんの本の内容説明です。

本書はいのち・自然治癒力を共通基盤とした医療原論の構想をまとめたものである。
東洋医学と西洋医学の補完・融合、CAM(補完・代替医療)、IM(統合医療)を実践する立場から、暗中模索してきた。その結果「統一に向かうのではなく、統一から出発する」という発想の転換を図ることにより、医学・医療のCOREをいのち・自然治癒力と捉え、これまでのPHC・統合医療・セルフケア(養生)、保健・医療・福祉を包含した新たな医療システムである CORE medicineを提唱した。
た、医療従事者だけではなく生活者(患者)一人ひとりが、いのちする、自感・自覚・自証を出発点とした時、これまでの生活スタイルが変化し、医学・医療を必要としない世界に一歩ずつ近づけるのではないだろうか。本書は、終着点ではなく医療原論を構築し、CORE medicineを実践してゆくための始発点と捉えている。皆様と協働し共創してゆければ本望である。皆様の智恵と力を合わせて、より良い世界ならびに医学・医療を自証してゆきましょう。

こうして2つの出版記念会を主催して、学問の醍醐味と楽しさを満喫したとともに、研究仲間のありがたさをしみじみと思いました。あと何年出来るかわかりませんが、出来ることならば死ぬまでこうした仲間たちと、農家の視線に立った21世紀に希望の持てる農業史、「いのち」に立脚した日本農業原論、比較農法論を構築するために、精進していけれることを念願しています。今後とも、厳しく議論して、楽しくお酒を飲んでワイワイガヤガヤ、お願いします。