小川雅弘

現代社会の実情を正しく反映できる「統計体系」を追究しています

公表される統計データを疑ってみる

私はテレビや新聞などで報道される、いろいろな統計データが気になって仕方ありません。その数字が本当に国や社会、組織などの実情を反映しているのかどうか疑ってみることが、「経済統計学」の研究者としての習慣になっています。
例えば、大学生の就職内定率。毎年「大学等卒業予定者の就職内定状況調査/文部科学省・厚生労働省」が実施されていますが、公表されている就職内定率は実際より高すぎるのではないか。疑問を持った私が昨年、それらのデータを詳細に検討した結果、両省の調査方法や対象には欠陥があることがわかりました。


一方で私が長期の研究テーマとして取り組んでいるのが、「非市場的な経済活動の計測」と「所得・資産の平等などに関する経済統計指標」です。「非市場的な経済活動の計測」とは、家庭内の家事労働や介護労働などを、どう経済活動の一つとして評価して国民経済計算のなかに取り込み、経済全体への影響を計るかという研究。もう一つの「所得・資産の平等などに関する経済統計指標」の研究では、最近話題の貧困率を示す指標などに注目し、調査を続けています。

経済統計は「具体論」だから面白い

こういった私の研究の目的は、官公庁などが実施して公表するいろいろな統計を根本から検討して問題点を指摘し、実情を正しく反映できる統計体系を作り上げること。そして公表されている統計データは偏っている場合もあるという事実を、政策立案者はもちろん、一般の人にもしっかりと認識してもらうことです。


地道な調査が求められる研究ではありますが、経済統計学の面白さは、抽象論ではなく、最も基本的な部分を追究していく具体性のある学問だというところでしょうか。私が担当している授業「国民経済計算論」でも、GDP(国民総生産)や国民所得とは本当はどういうものなのかや、統計指標の実際の意味などを詳しく学ぶことができます。また「経済情報処理」の授業では、経済成長率や労働分配率といった国民経済計算のデータを使用してコンピュータで指標を作る実習を行っています。受験勉強のような丸覚えではないところが大学の授業の面白さといえるでしょう。