山本 正

アイルランドの歴史を通じて、現代の世界や日本を考えています。

イギリス帝国=コモンウェルスとの関連でアイルランド史を考察

私の専門は西洋史学。研究テーマは「イギリス帝国・コモンウェルス史の観点から見たアイルランド史」です。大学の専門課程(当時3年次から)に進んだ当初は漠然とイギリス史を研究したいと思っていたのですが、卒論に取り組むにあたって、高校時代の恩師である世界史の教諭に相談したところ「アイルランドが面白いのではないか」と勧められたのがきっかけです。

アイルランドは、かつてイギリス帝国・コモンウェルスの一部でした。長年、16~18世紀のイギリス帝国におけるアイルランドという観点から研究していましたが、2009年度から科研費による共同研究「帝国=コモンウェルスの総合的研究」の代表者として、研究対象を20世紀に移行。イギリスとの独立戦争の結果、アイルランド自由国として自治領の地位を獲得(1922年)し、さらにエール憲法制定(1937年)による事実上の共和制樹立、そしてアイルランド共和国としてコモンウェルスを離脱し、完全な主権国家になる(1949年)までの、コモンウェルスとアイルランドとの相互関係を考察しました。アイルランドが主権を確立し、あるいは自らの国際的地位の向上を図っていった行動が、イギリス帝国・コモンウェルスの中でどのような意味を持っていたのか。それらの研究を通じて、当時のイギリス帝国・コモンウェルスの特性も明らかにしたいと考えました。今後は、イギリス帝国・コモンウェルスだけでなく、グローバルな国際体制も視野に入れて、アイルランド史の研究をさらに深めていきたいと思っています。

現在への関心があってこその歴史学

よく言われるように歴史は「現在と過去との対話」です。過去を通じて現在を理解するのが歴史学の持つ意味です。異なる国の歴史を学ぶことは、過去を鏡に、あるいは過去と現在のつながりを通して、現在の日本のポジションや国としてのあり方などを考える機会ともなります。

私は授業では「歴史学入門」と「ヨーロッパの歴史」を担当していますが、いつ、どこで、何が起きたかを覚えることが歴史学なのではありません。歴史上の事実を覚えるのは、算数で九九を覚えるのと同じです。九九を知らずに算数や数学はできませんが、九九を知っているからといって算数・数学ができるわけではありません。過去の事実が現在の我々にとって、どういう意味を持っているのか。現在への関心抜きで歴史学は成り立ちません。歴史学は単なる好古(昔の事物を好むこと)ではないのです。