髙橋 亘

金融市場統合の研究活動により、アジアの平和に貢献したい。

アジアにおいても金融面の結びつきが重要

私の専門は金融論で、「アジアの金融市場の統合」を研究テーマの一つとしています。2011年に日本銀行のシンクタンクである金融研究所長を退官するまで前職の日本銀行では主に研究・調査に携わりましたが、2002年から5年間は国際担当としてアジアや世界の中央銀行総裁会議(EMEAP、G20)などの国際会議を担当する貴重な経験もしました。

昨今、多くの日本企業がアジアに進出するなど、日本とアジアの経済の結びつきが非常に強くなってきています。また日本銀行とアジアの国々の中央銀行も、1997年に始まったアジア通貨危機をきっかけに協力関係を強化しています。しかし企業の結びつきなどに比較して、金融面の結びつきは未だ弱いのが現状です。私は、アジアは各国で金融産業を発展させると同時に国境をまたがる決済制度や債券市場の育成などの金融統合を通じたクロスボーダーの金融サービスの向上が今後のアジアの発展に不可欠だと考えています。これらの分野では今ならまだ日本がその英知でリードできます。また金融は相互の信頼が基本ですから、金融面で国同士の結びつきが強まれば人々の理解も深まり、政治的な難しい問題も解決していくのではないかという大きな夢を持っています。

日銀時代の視点を駆使して金融統合を議論

現在、日銀時代に知り合ったアジア各国の金融の専門家や学者などと、アジアの金融市場統合を目指したシステム作り・制度整備の議論を重ねています。金融は経済学だけでなく、法律・会計・情報技術などの綜合的な分野です。そのため金融市場の統合には多角的に制度を検討すること重要で、実務経験に根ざした視点や方法論、人脈を駆使して研究活動を進めています。
前例となる欧州の金融統合は「ユーロ」という通貨統合面では危機に直面していますが、決済システムの整備など、制度の整備などでは学ぶべき点が多くあります。政治体制や経済発展のレベルが大きく異なるアジアに適用できる部分・できない部分などを詳細に調査分析し、実現に向けたアジェンダセッティングに取り組んでいるところです。

世の中の経済活動の半分以上は金融ですから、金融を見れば経済全体を見ることができます。また国際会議はもちろん企業の財務関係の仕事などにおいても、金融に関する知識を持っていなければ基本的な会話が成り立ちません。金融は難しいというイメージが強いようですが、「実学としての金融」に、ぜひチャレンジしてみてください