研究関連

大橋範雄

ドイツ労働法の原理を究め、日本の社会問題を解決へ 【大橋範雄】

なぜドイツ労働法を研究するのか

「ドイツ労働法の生成過程と発展」を大きなテーマとして、日本とドイツの労働法を比較研究しています。

明治以来、労働法だけでなく憲法や民法、刑法など日本の主な法律はドイツ法を参考にして整備されてきました。そして戦後、米国に占領されたことで、日本の労働法はドイツ法の基礎のうえに米国の制度を取り込んだものになっています。

一例をあげれば、労働組合法で禁止されている不当労働行為は米国で1930年代に制定されたワグナー法(全国労働関係法)にならったものです。一方で労組法にある「労働協約の一般的拘束力」など労働協約に関する諸規定は、戦前のドイツの労働協約法をもとにしています。不当労働行為という制度はドイツ法にはなく、労働協約法は米国法にはありません。

ある意味、日本の後進性をあらわしているのですが、労組法には基本原理が二つあるのです。労組法に限らず労働法はドイツ法により大きな影響を受けて形成されてきています。このため、基本原理の一つであるドイツ労働法を研究することは、日本の労働法理論の構築につながるのです。

深刻な社会問題と密接につながる労働者派遣法

ドイツの派遣法の研究を約30年続けています。私はかなり早い時期から「みなし雇用(2012年法改正により導入)」すなわち私の用語によれば「擬制労働関係」を研究し、正規と派遣労働者の「均等待遇」に関する本格的な論文も日本で初めて発表しましたが、法改正に際して衆議院調査局からヒアリングを受けそれに私が『大阪経大論集』に発表したものを合わせて内閣提出の参考資料として国会に提出されたり(1999年法改正時第145国会)、参議院厚生労働委員会での有識者意見陳述(2003年法改正時第156国会)、厚生労働省政策審議会部会での有識者ヒアリング(2007年第96回労働政策審議会職業安定分科会労働力需給制度部会)等の経験を通して、自分の研究と現実社会の結びつきを実感しました。

先日、日韓の法学者によるシンポジウムに初めて参加したときに、韓国憲法裁判所責任研究官という肩書の韓国人学者が、私の著書を勉強し、韓国法に大変参考になったとの話をされ、私と会いたかった旨の話を聞いて、私の研究成果が韓国でも利用されていることに驚くとともに研究者としての社会的責任を痛感しました。研究は普遍性を有するものだということを再確認しました。

基本的人権の尊重を大前提とした今日の社会において、派遣法が承認したいわゆる「人間のレンタル」をその本質とした「雇用」と「使用」の分離した派遣労働関係が許されるのか否かについて今後も研究を続けていくつもりです。

これらの問題については講義の中で触れることもあります。そのせいか、最近も卒業生から「派遣切りされましたが、どう対応すればいいですか」と相談を受けました。就職前の学生が労働法を理解することは難しいかも知れません。でも、しっかりと学び、自分の頭で考える習慣をつければ、社会に出てから役立つ時が必ず来るはずです。

主要著書

『派遣法の弾力化と派遣労働者の保護』(法律文化社、1999年)
『派遣労働と人間の尊厳』(法律文化社、2007年)
『<資料>激動期終焉期のドイツ民主共和国(DDR)労働法』宮崎鎮雄/大橋範雄(創士社、2001年)