本村光江

人も動物も幸せな社会をめざしたい

不妊手術などによる地域猫の増減を調査

 私は現在、動物福祉(アニマル・ウェルフェア)に関する研究をしています。動物福祉という概念は特に第二次世界大戦後、ヨーロッパを中心に発展してきました。動物を食用や荷役など人間のために利用することを認めつつ、飢えや疾病、ストレスがなく快適性に配慮した飼育や管理を行うという考えです。
 日本ではまだ動物福祉という言葉は聞き慣れませんが、動物愛護の機運が高まるなか、動物園やペットの世界などへもその活動が広がりつつあります。
 最近の研究のテーマは「野良猫の個体群管理と福祉」についてで、特に地域猫活動について調査してきました。地域猫活動の中心となるTNR (Trap=捕獲して、Neuter=不妊去勢手術を行い、Return=元の場所に戻す)が、野良猫の数や苦情を減らす効果があるのかどうか、東淀川区などを中心とした大阪市のデータを分析しました。また不妊手術を行うことが野良猫の健康状態に与える影響なども併行して調査しました。
 データを分析した結果、自治体が行うTNRの数字だけでは明確な効果は認められませんでした。しかし保健所が引き取った野良猫の数と、その地域の社会経済的要因に関係性がみられました。

動物に関する研究で社会の役に立ちたい

 目指すのは、動物と共存できる社会の実現です。弱い立場の動物に共感できることで、人間の弱者、つまり子どもや障がい者、高齢者などに対しても思いが至るようになるのではないでしょうか?動物が幸せな社会なら、人間も幸せなはず。動物の福祉を高めることを通じて、人間社会もより良くなると信じています。
 この研究を始めたきっかけは、米国留学中にアニマルプラネットという動物専門チャンネルでみた動物に関するドキュメンタリー番組です。もともと動物好きだったこともあり、何か動物に関する研究ができないか、と刺激を受けました。そして英国のエジンバラ大学・大学院課程をオンラインで受講。昨年、'Efficacy of a trap-neuter-return (TNR) project on human-cat relations and cat welfare' (人と猫の関係および猫の福祉におけるTNRの効果)の論文でマスター(修士号)を取得しました。
 ゼミでは合宿やフィールドワークを積極的に行っています。そして毎年、3年生には動物福祉に関する調査と報告、学園祭でのパネル展示会をしてもらっています。グループで活動し、協力して何かを成し遂げ、自分の言葉で報告書を書くことは、将来の就職活動にも役立つと考えています。