研究関連

木村俊郎

民法は生涯のトランスアクションとセルフディフェンスのアイテム

民法とはどんな法律か

学生(特に新入生)のみなさんは法律というと刑法を思い浮かべます。「・・・をしたら警察に捕まる」とか「・・・をしたら懲役・・・年だ」とか。少し考えて見ましょう。わたくしたちの持っている大切なもの中で一番大切なものは「わたくしたちは助け合ってしか生きて行けない。ということを知っている」ことです。キャチフレーズは「社会関係(秩序)の大切さ」ということでしょう。この社会関係(秩序)は取引関係(秩序)と家族関係(秩序)に分類できます。民法はこの関係(秩序)をルール化したものです。ちなみに刑法は民法のルールを守護する法律です。

法律はすべて大切です。しかし、その法律を勉強するには効率の良い勉強方法が大切です。それは、先人が築きあげた法制度の発展史をトレースして勉強することです。この勉強方法の中で一番中核になる法律が民法なのです。基本中の基本としての法律です。世界最古の現存する法典はハンムラビ法典です。今様に表現すると刑法典です。しかし、古代バビロニア社会にも取引や家族が存在しおり、それに対してなにがしかの掟(ルール)が支配していたといえます。つまり「暗黙の知としての掟である民法(当時はそのように認識されていなかった。)」が存在していたのだと言えます。

「憲法はどうなのだ」という疑問が聞こえます。「やはり一番大切です。」と答えると「矛盾しているでしょう」と第二の質問の矢が飛んできそうです。それは各法律(制定法)のもっている役割が違うため、同じ次元の評価ではないから並存してよいのだと考えてほしいのです。憲法の主たる役割は国家のスタイルをどのように決めるかというものです。国家目標を掲げてシステム化を目指す法律(制定法)です。国家は途方もない無制限のパワー(国家権力:立法権力、行政権力、司法権力がフュージョンしたもの)とエナジーを持ったモンスターです。それらはわたくしたちを幸福にしますが不幸にもします。だから、わたくしたちはそれをコントロールして自らの幸福を実現するのです。このパワーとエナジーをコントロールするアイテムとして憲法が必要なのです。憲法は、わたくしたちが国家という怪物の存在を意識したときから必要になったアイテムだと思えばよいのです。

むかしむかしの日本の法律

民法はわたくしたち一般市民にとっては、必要不可欠なものなのですが馴染みの薄い法律です。いろいろな理由があるのですが、その一つとして民法が日本に登場したのは明治29年です。それまでは取引関係(秩序)や家族関係(秩序)は明文化されていませんでした。市民間の「暗黙の掟」であり「倫理そのもの」でした。具象物としては一般市民の法意識の圏外にあったのです。たとえば奈良朝の法システムの基本は律令です。「律」とは刑事法のことです。「令」とは行政組織法のことです。統治権をもった人たちの統治目線で作られてきました。律令制度は平安朝に崩れて行きますが、法律に対する統治目線は幕末まで続きます。取引関係(秩序)は商人間の掟で、家族関係(秩序)は朱子学(儒教の支流:武家家族の話、民衆はもっと自由)の掟だったのです。

民法デビュー前の明治社会の「苦悩」とデビューした「理由」

明治社会に民法典がデビューした原因は、幕末に端を発しています。安政五か国条約(1858年)の締結です。たとえば日米修好通商条約などです。一般に自由貿易を基調とした不平等条約だと言われています。その根拠は関税自主権がわが国に認められていない点、そして相手国に領事裁判権を認めなければならなかた点です。とりわけ関税自主権の不承認は以後、日本(当時、農業三等国でした。)が工業・産業立国として生きていく上で大きな手枷足枷になります。

したがって、この不平等条約の撤廃が明治政府の緊急の政治課題でした。ただ「日本が文明国になること(取引法としての民法の制定)」が撤廃に繋がる要件でした。明治政府は民法典編纂に総力を上げるのです。もう一つの原因は、明治政府により廃藩置県が断行されるまで日本には約270程の藩という行政組織体が存在していました。それぞれが非常に独立意識の強いものでした。つまり日本は一つの経済的組織体、今様に表現すると統一された取引ルールが支配する取引市場マーケットではなかたということです。これは経済の発展を大いに阻害します。この内部的原因を取り除く方法が、日本における取引統一法の制定です。ここに民法のデビュー前の苦悩とデビューが強く強く求められた原因があります。

わたくしたちにとって法社会における民法(法律)とは

将来、法律実務を仕事にする学生は多くありません。したがって、難しい法理論をはじめから覚える必要はないと思います。まず、なぜ権利(法益)という用語を基にして取引関係や家族関係を考えるのか。社会にはどのような権利(法益)があるのか。その権利(法益)の内容を知る。権利(法益)の使い方を学ぶ。そしてその権利(法益)をどうしたら入手できるのかを学べばよいのです。これが民法(法律)を勉強する第一目標です。これで社会に出てもまずは大丈夫です。さらにいろいろな使い方のバリエーションは社会で身につけられます。だから大学での勉強はこれらのアウトラインを身に付けることです。国家あるいは社会は発展し変化します。その時期ごとに法の担い手(主人公)は異なります。法導入社会(国家創生期):官僚が法の担い手、法化社会(国家成長期):法実務家(裁判官、判事、弁護士)などが法の担い手、法社会(国家成熟期):一般市民が法の担い手。現在わが国は「法社会」の段階です。この社会に対応した法の学び方が大切だと思います。
最後に一言、民法のフレームと目的を知って他の法律の関係を知ればそこで獲得した「知」はあなた自身、あなたの家族、そして友人の命を守ることになります。そしてあなたの行動の範囲を確実に広げることができます。多くのチャンスに出会うことになります。