橋谷聡一

人には交替可能性があることを前提に、法律をとらえる

受益者を守りたい

 私は信託法について研究しており、現在の研究テーマは「信認関係における受任者の義務」です。信託法の「信託」とは、文字通り「信じて託す」ということ。たとえば私が何らかの理由で、自身の財産管理ができなくなった(社会的・身体的弱者になった)時、信頼できる人(受託者)に財産を移転し、その人は私(委託者兼受益者)が設定した信託目的に沿って、お金・土地・建物などの管理・運用、処分などを行うという制度です。
 しかし財産管理においては、財産を預けた委託者・受益者と実際に管理を行う受託者には、専門的な知識や交渉力に大きな差があります。また財産の名義も受託者に移るため、不正行為や信託に違反する行為が行われる可能性もあり、私はそのような不正や違反を防ぐため、受託者にどのような義務を負わせれば良いのかを追究しています。

弱者に対する想像力に支えられた「法」を

 私の実家は不動産業を営んでおり、競争戦略のひとつとして最初は不動産証券化の研究を始め、その分野で多く用いられる信託法というものに興味を持ちました。また、自由でありながらも実質的な衡平を追究するイギリス法にも強く惹かれました。近代法は個人の自立・自律が前提ですが、私は、法律とは本来、「弱い立場の人を守るもの」であるべきだと考えています。人には「交替可能性」があり、社会的な成功や失敗なども実は紙一重。教育や経済環境などに左右されるものです。そのような偶然性により、弱い立場にある人を保護してこその「法」であり、自分も弱者であった(あるいは、将来そうである)かもしれないという想像力に支えられた法を作り上げることが、私たち法学者の存在意義だと考えています。

 私が現在担当している授業は「不動産法」と「民法」です。文学などと異なり、法律、特に民法は大学生になって初めて学ぶ学問です。まずは九九を習うような感覚で基礎知識を頭に詰め込み、そのあとでスパイラル式に専門知識を学んでいってほしい。張り巡らせた蜘蛛の巣のような法的知識があることで、社会の現場で起きた事柄に対して違法かどうかなどの直感が働き、自身や組織などを守ることに役立つと思います。