浅田拓史

管理会計を通じて企業経営を考える

未来志向、現場のための管理会計

私は管理会計に関する研究を行っています。企業の会計には、財務会計と管理会計の2種類があります。財務会計は、企業活動の成果を外部の利害関係者に向けて発表するという性質のもので、基本的にはオープンな情報であり、投資家が意思決定するために十分な正確性や他社との比較可能性が要求されます。一方管理会計は、いわば企業の家計簿のようなものだとイメージしてもらえればいいと思いますが、企業の内部の人のためにあるものです。社外の人の目に触れることは少なく、正確性や比較可能性よりは情報を利用する経営者や現場の人にとっての分かりやすさ、使い勝手の良さが優先されています。また決まった形式はなく、読む人は誰か、つまり経営者か、上層部までか、現場の担当者かなどが意識される点も大きな特徴です。

財務会計が扱うのは過去の成果であるのに対し、管理会計は企業がこれからどうしようかと考える時に必要とされる、未来志向の会計であるといえます。企業が管理会計を導入するときには、何らかのきっかけがあります。一般家庭でも、今までのどんぶり勘定をやめて家計簿で家計を管理しようと考えるようになるには、きっかけがあるはずです。例えば、一人暮らしを始めたとか、お金に余裕がなくなったとかいう場合です。企業の場合も同様で、規模を拡大したいとか、新しくメンバーが加わったなどということがきっかけで管理会計が導入され、変化していくことが多いのです。

このように管理会計が、企業の「これから」を考える時に威力を発揮することはしばしばあります。私はいくつかの企業を対象に調査研究を行い、管理会計が変化していくプロセスを、その企業が置かれている環境や経営戦略、人の意識の変化などとの関わりを考えながら明らかにしようとしています。

企業のダイナミックな変化を読み解く

その一例として、最近調査を行っているある企業の例をあげたいと思います。その企業は経営危機の時期に、社長がある管理会計の仕組みを導入しました。そのことにより、それまでは経理の専門家しかわからなかった数字の意味が、経営者にも従業員にも理解できるようになり、現場の従業員も数字に裏付けられた提案ができるようになりました。
会計の仕組みを変えることで、現場の経営への関わり方が変わっていき、トップも意図していなかった変化が働いて、新しい変革が生まれていきます。このようなダイナミックな組織の変化を、今後も追い続けたいと思っています。

応用可能な実践的研究を進めたい

私の研究分野は、特に欧州では盛んに研究されていますが、日本にはまだ、国際的な場で学術貢献できる人は多くありません。私は今後、日本の優れた管理会計実務を国際的に発信できるような研究をしていきたいと思っています。国内的には、日本の学会に貢献するとともに、金融機関や公認会計士、税理士、中小企業診断士など企業経営に関わる実務家が集まるプラットホームのような場を育てたいと考えています。調査研究で得られた豊富な事例と知見を、さまざまな企業への応用が可能な形で紹介していければ幸いです。

また、大学のゼミに対しても同様な思いをもち、企業経営に関する知識を若い人が総合的に学ぶ場として運営しています。概念的な話と実際の事例を同時に考えることで、より深い学びを実現してもらえればと願っています。