Column

2023.12.22

【高知県黒潮町】               第3回 防災意識向上に取り組む大方高校

国際共創学部の「ありえない、を超えよう。」というテーマを具現化した科目が「ローカル・リサーチ」で体験するフィールドワーク先、高知県黒潮町のレポート最終回は、地域住民の防災意識向上に一役かっている高知県立大方高校の取り組みについて、大方高校の泥谷耕二校長と地域学担当の浦田友香先生にお話いただきました。

地域住民の防災意識向上に貢献する大方高校

2012年3月に、南海巨大トラフ地震が起きた場合「最大震度7、最大津波高34m」という被害を想定された黒潮町。様々な対策と取り組みを第1回・第2回で紹介しましたが、そこに加えて特筆すべき取り組みの一つに「防災教育プログラム」があります。町内の全小中学校で系統性のある学習を実施しており、義務教育の9年間を通して自然の恵みと災いの二面性を理解し、継続的に行うことで防災文化を育んでいこうと考えています。

そうした中、積極的に防災教育に取り組んでいるのが町内唯一の高等学校である高知県立大方高校です。高台にあり、地域住民の避難所に指定されていることから、災害時の避難はもちろん、その後の避難所生活にも目を向け、地域に根ざした防災活動を行っています。

避難所運営ゲーム「HUG」の作成・実践

大方高校には「地域学」という非常に珍しい科目があります。この「地域学」では、高校生を地域の防災の一端を担う存在と位置づけ、防災意識と知識の向上、それらを活かして行動する力と地域に貢献したいという思いの育成を目指した防災教育を実践しています。
 
具体的にはどんなことを行っているのか、地域学担当の浦田友香先生に話をうかがいました。

「津波から逃げる、地震で命を落とさない、犠牲者ゼロという黒潮町の防災理念に基づき、地域住民への避難路や備蓄品の提案、小中学校への防災出前授業、役場や企業と連携して空き地を避難所にする取り組みなど様々な活動をしています。その一つに避難所運営ゲーム『HUG』があります。

『HUG』は2007年、静岡県が開発した避難所の運営を疑似体験するカードゲームです。これにヒントを得て、まず住民からの聞き取りや避難路や津波避難タワーの調査など、地域の情報を収集。そして、東日本大震災を経験した宮城県多賀城高校との交流で、実際に避難所で発生する事柄や災害への心構えを学び、黒潮町のオリジナル『HUG』を作成しました。完成後、中学生や地域住民、役場職員等と『HUG』を実践。回を重ねる毎に改良されていきましたし、住民と共に防災について考える機会になっています。コロナ禍で中断していたのですが、そろそろ再開を検討しているところです」(浦田先生)。

また、津波避難訓練アプリ「逃げトレ」を使って保育園や小中学校、近隣住民と一緒に避難訓練もひんぱんに行っているとのこと。

2023年4月に大方高校に着任した泥谷耕二校長は、地域学での取り組みを目の当たりにして、「大人から打診されて行うのではなく、大方高校では生徒たちが自ら中心になり、当事者意識を持っていろいろ意見を出し合いながら、地域の防災に取り組んでいるのが素晴らしい。そのことによって知識的な学力ではなく、考える力、新しいものを創造する力が生徒たちに身についていると感じました」と言います。

担当の浦田先生も生徒たちの成長を実感しつつ、「地震はここだけで起こるわけではないので、ここでの学びを活かしてそれぞれの就職先などで防災を担う人材になってほしい。防災だけでなく、社会の様々な課題を自分事としてとらえて行動に移していける人になってほしいと思っています」と語ります。
 
6、7年前から続けている活動の一つに地元の小中学校への「防災出前授業」があります。実は、この授業を受けた小中学生が大方高校へ入学するケースが年々増えているそうです。「こういう活動をやりたいのだと意欲を持って入ってきてくれています。これまでの活動の手応えを感じています」(浦田先生)。

大学生に期待することは

大阪経済大学国際共創学部の科目「ローカル・リサーチ」では、大方高校の生徒との交流を通して、黒潮町の現状と課題について取り組むことが予定されています。そこではただ楽しいことだけでなく、現実の厳しさにも触れてもらえたらと浦田先生は考えています。

「地域連携、地域を動かすという活動には非常に難しい面があります。大方高校の活動に賛同してくれる住民ばかりではありません。実際、高齢者に『家が潰れたら逃げるなんて無理だろう』と言われた生徒もいます。でも、実社会を動かす難しさにも触れてもらうことこそが大学生にも大事だと思いますし、今後の人生に何かしらのカタチで活きてくると思います」。

そう語る浦田先生自身、大方高校へ赴任して“ありえないことだらけ”を経験しているそうです。
「前任校ではただ自分の教科を教えているだけでした。でも、ここでは地域学という教科のカリキュラム設計からすべて任せてもらえるようになりました。当然、大変なことも多々在りますが、生徒がモチベーションを持ち続けて地域防災に取り組めるようにと考えることが、私にとってのモチベーションになっているところもありますし、何より生徒と動くことが楽しみにもなっています」

その話をそばで聞きながら泥谷校長は「大方高校の防災教育を通して高校生はグングン成長しています。一緒にフィールドワークを体験してくださる大学生にも、防災に関する知識とともに、いろいろな力が身についていくはずですよ、きっと」と話してくれました。