Column

2025.07.17

Specialインタビュー vol.5 ~「ありえない、を超えよう。」を実現する人を訪ねて~鈴木大輔さん

鈴木大輔(すずき・だいすけ)さん
株式会社アートローグ代表取締役CEO / 大阪経済大学 客員教授
【プロフィール】
1977年生まれ。Study:大阪関西国際芸術祭の創設者・総合プロデューサーであり、本学客員教授。2014年グッドデザイン賞を受賞。2015年度京都大学GTEPプログラム(文部科学省)のファイナリストに選出されるなど、数々のイノベーションアワードを受賞。2017年に株式会社アートローグを設立し、アートを社会に活かすアートイノベーターとして活躍中。

スノーボード選手を目指した青春時代から、デザインの世界へ。地域芸術祭を軸に、アートの新たな可能性を探求してきた鈴木大輔さんにお話を伺いました。共創の重要性や学生へのメッセージも交えながら、アートと社会のつながりについて語っていただきました。

スノーボードからデザインの世界へ

――デザインに興味を持ったきっかけについて教えてください。

若い頃はスノーボード選手を目指し、北海道で住み込みながら大会に出場していました。オフシーズンは山梨県の室内ハーフパイプ施設で練習を重ねていましたが、20歳を過ぎた頃に競技の道を断念し、進路に迷う時期がありました。
そんなとき、ふと本屋で手に取ったグラフィックデザインの本が、自分の中にあった“かっこよさ”への漠然とした興味を呼び起こしました。もともとフライヤーやCDジャケットを部屋に貼って楽しむのが好きだったのですが、「見る側ではなく、作る側になりたい」と強く思うようになりました。巨匠たちの作品に触れ、哲学的な深みを感じ、デザインを生涯かけて取り組むべき仕事だと確信しました。

――その後、どのようにしてデザインのスキルを身につけたのでしょうか?

ひとまず地元・大阪に戻り、未経験ながら印刷会社でアルバイトを始めました。現場で実践を通じてスキルを身につけ、約半年後にはフリーランスのデザイナーとして独立。デザイン領域の幅広い案件を手掛けるようになりました。

多様な視点を得たアートとの出会い

――アートにも興味を持つようになったのは?

WEBデザインの仕事を続ける中で、さらに多角的な視点を持ちたいと感じ、IMI大学院スクール(現在のEスクール)に進学しました。そこでは、アート・デザイン・建築・メディアなどを横断的に学ぶことができ、一流のクリエイターや建築家との出会いもありました。多様な分野が共通の時代性や社会課題とつながっていることを実感し、「横断的に学ぶ」ことの価値を深く理解することができました。

Kazu Hiro 《Andy Warhol》 2013 Collection of the artist
© Kazu Hiro Courtesy of the artist and Institute forCultural Exchange, Tübingen

――その経験は、国際共創学部が掲げる“多様な視点の融合”とも重なりますね。

まさにその通りです。私は、自らの専門性を深めながら、他分野とも積極的につながる「T型人材」の育成が重要だと考えています。IMIでの経験を通じて、異なる価値観や知見を持つ人々と交わることの大切さに気づきました。視野を広げることで、自分の専門性をより社会に活かすことができるようになります。

アートローグ設立と芸術祭への発展

――アートローグ設立までの道のりについて教えてください。

大学やNPOとのプロジェクトに関わる中で、大阪市立大学(現・大阪公立大学)の中川眞教授との出会いが大きな転機となりました。教授の依頼で「アート&アクセス研究会」のデザインに携わったことをきっかけに、「アートNPO」ではなく、社会に変化を起こす「アートベンチャー」を立ち上げたいと考えるようになりました。
2010年には、ギャラリートークをWEBで配信する「CURATORS TV」をスタート。当時は前例のない挑戦でしたが、アート界の重鎮たちの協力もあり、プロジェクトを推進しました。身体的・経済的な理由で美術館に行けない人にもアートを届けたいという思いが、この活動の原点です。そして2017年、アートローグを設立しました。

――アートローグではどのような事業を展開されていますか?

東京一極集中の構造に対抗し、地域から情報を発信することを重視しています。たとえば「アート版食べログ」のようなレビューサイトの立ち上げや、アート作品のレンタル事業など、さまざまな構想に取り組みました。ただ、スケール化の難しさや新型コロナの影響もあり、当初の計画通りには進みませんでした。
その後、大阪・関西万博の開催決定もあり、地域に根ざした芸術祭の開催に注力するようになりました。いまでは、アートローグの中心事業となっています。

檜皮一彦 "HIWADROME: type_ark_spec2"2025@大阪・関西万博会場

――芸術祭を開催する意義について、どのように考えておられますか?

芸術祭を関西で始めると、地域にとっての価値を感じていただけるようになり、支援の輪が広がっていきました。2022年に「Study:大阪関西国際芸術祭」を初開催し、これまでに3回の開催を実現しています。
芸術祭という「地域のお祭り」を基盤にすることで、大手企業との競争を避け、独自の強みを発揮することができます。ITやWEBだけの事業は資本力が物を言いますが、地域密着型の取り組みには別の力が働くのです。そうした地域発の動きを、グローバルな視点と掛け合わせることで、強いビジネスモデルが築けると感じています。

前回のアートフェア(Study:大阪関西国際芸術祭)の様子

アートがつなぐ社会と未来への共創

――「グローカル」な視点は、国際共創学部の理念とも通じますね。

まさにその通りです。地域に根ざしながらも、グローバルに展開する視点が必要です。都市や地域を、ITやアートの力で活性化していくことが、これからの社会には欠かせないと考えています。

――アートが持つ力についても伺いたいです。

アートは、古代から続く人類の表現活動です。ひとことで定義するのは難しいですが、アートには未来を切り開く「創造力」と、人や社会を思いやる「想像力」が身につくと言われています。
社会への問題提起を促す力もあり、現代社会の中でも必要とされる存在です。
また、経済効果の面でも注目されており、誰かに求められなくても、新しい価値や時代を生み出す原動力となります。こうしたアートの力を、日本の成長戦略にも積極的に取り入れるべきだと考えています。

金氏徹平"海のパビリオンセルビル"2023-25@船場エクセルビル

――最後に、国際共創学部の学生にメッセージをお願いします。

「アートは難しい」と思う人もいるかもしれませんが、まずは身近なところから触れてみてほしいです。みなさんと同年代で好きなアーティストを探すのも楽しいですし、アートの歴史や、いま活躍しているアーティストの名前をさらっと知っておくだけでも、視野が広がります。
アートを学ぶことは、グローバルなネットワークを築く上でも大きな助けになります。日本のアーティストや文化は、世界から高い評価を得ています。自国の文化を知ることは、自分自身の強みにもなります。
アートを通じて多様な価値観を学び、世界とつながり、共創していってください。

――貴重なお話をありがとうございました。