2026年10月22日(木)のプロ野球ドラフト会議で、阪神タイガースから3位指名を受けた硬式野球部の常深颯大投手。学業では、3年次を終えた時点で卒業に必要な124単位をすべて修得。平均成績も88点でした。野球でも、勉強でも、常深投手の取り組み方には共通するものがあります。「僕、充実感が好きなんです」高い目標を置く。ただ、毎日考えるのは「今日、何をするか」。自分で決めたことを一つずつやり切り、昨日より成長したことを実感する。4年前、大阪経済大学へ入学した頃には、プロ野球はまだ現実的な目標ではありませんでした。そこから、阪神タイガースのドラフト3位指名へ。常深投手は大学4年間で、何を見て、何を学び、どう変わっていったのでしょうか。
入学当時、常深投手が思い描いていたのは、大学卒業後も社会人野球でプレーを続けることでした。
「プロは夢ではありましたけど、現実的には考えていなかったですね」
高校ではある程度結果を残してきたこともあり、「大学でも通用するだろう」という感覚もあったといいます。しかし、入学してすぐ、その考えは変わりました。
「きっかけは、津田淳哉さん(2023年度卒業、現・阪神タイガース)、林翔大さん(2024年度卒業、ENEOS野球部)、柴崎聖人さん(2024年度卒業、王子野球部を経て中日ドラゴンズからドラフト2位指名)の3人でした。投手の津田さん、林さんとは、キャッチボールをしただけで衝撃を受けました」
「初めてキャッチボールをして、『怖い』と思ったのが津田さんと林さんでした。それまで、人のボールを受けてそんなふうに思ったことがなかったんです」
打者の柴崎さんとは、実戦形式の練習で対戦。自分では悪くないと思ったボールを簡単に打ち返されました。
「こんなバッターを、どうやって抑えるんだ」
「大学でも余裕で通用するだろうと思っていたんですけど、全然違いました。『やばい、頑張らないと』と思いましたね。レベルが違いすぎました」
そして、驚いたのはプレーだけではありません。3人は、調子が良い日も悪い日も、練習後まで残ってトレーニングを続けていました。
「面倒くさい日もあると思うんですけど、それでもいつも遅くまでやっていました」
常深投手も次第に最後まで残るようになり、4人で話をしながら練習する時間が増えていきました。
「そういう人たちが近くにいたので、『僕も努力しないといけないな』と思いました」
自分よりうまい人たちが、自分より練習している。そんな毎日を過ごすうちに、常深投手にとっても、練習を積み重ねることが当たり前になっていきました。
大学4年間で出会った3人の指導者に共通していたのは、大学野球の「その先」を見ていたことでした。故・髙代延博前監督から教わったのは、マウンドでの「余裕」です。
「一点ぐらい取られてもいい」
一点も許さないと力むのではなく、一つの結果に一喜一憂せず、試合全体を見る。この考え方を持てるようになってから、立ち上がりやピンチでも気持ちが楽になったといいます。もう一つ、繰り返し教えられたのが礼儀でした。「一流の選手ほど礼儀がしっかりしている」。野球選手である前に、一人の社会人としてどう振る舞うか。その教えも強く残っています。
1年生の頃から常深投手を見続けてきた平川隆亮監督については、こう話します。
「自分では気づいていないところを、一番気づいてくれるのが平川さんです」
調子が良かったときとの小さな違いに気づく。一方で、「こうしろ」と答えを押しつけることはありません。必要なときにヒントを伝え、その言葉を手がかりに常深投手自身が考え、修正していく。
そして、元プロ野球選手の藤谷洸介助監督から教わったのは「プロの基準」です。大学では高めの速い直球でも打者を抑えられる。しかし、それだけでは上の世界では通用しない。特に繰り返し求められたのが、低いコースへ正確に投げることでした。技術、メンタル、人としての在り方、そして自分で修正する力。
目の前の大学野球で結果を出すだけではなく、その先でも戦える選手になるための考え方を、常深投手はそれぞれの指導者から学んでいきました。
それでも、プロ野球はまだ「夢」に近い存在でした。それが初めて、「自分も目指せる」と感じられたのが3年生の秋です。
全国の有力な大学野球選手が集まる大学JAPAN代表候補合宿に参加し、全国トップレベルの打者たちと実際に対戦。抑えることができました。
「現実になったのは3年生の秋ぐらいです。代表候補合宿に呼ばれて、周りの選手を見て、『いけるな』と思いました」
そこから進路はプロ一本に。ただし、目標は「プロ野球選手になること」ではありませんでした。
目指したのは、ドラフト上位で指名されること。届きそうなところを目標にしていては、自分をそこから先へ引き上げられない。より高いレベルを目指すために、あえて一段上に「ドラフト上位」という目標を置きました。その目標に向け、練習にも妥協しませんでした。
「大学生の中でも、自分が一番練習をやったと思います」
調子が良い日も、悪い日も続ける。
「継続することに関しては、負けない自信があります」
ドラフト上位という大きな目標を掲げながら、常深投手が毎日考えていたのは、もっと目の前のことでした。
「目標設定というより、毎日計画を立てていました。大きな目標をずっと考えるというより、『1日をしっかりやる』という感じでした」
その日の練習で何をするかを自分で決める。決めたことをやり切る。そして、「今日もできた」「少し良くなった」と実感する。常深投手が「充実感が好き」と話すのは、その感覚です。
「僕、充実感が好きなんです。計画を立てて、それをやって、『今日も頑張れたな』とか、『身体も良くなっているな』とか。それを実感するのが好きなんです」
この感覚は、大学に入ってから芽生えました。高校までは、与えられた練習にがむしゃらに取り組むことが中心でした。一方、大阪経済大学では、投手自身が自分の状態を考え、必要な練習に取り組むことを大切にしてきました。常深投手自身も、「僕は、自分で予定とか全部決めたいタイプなんです」と話します。
誰かにすべてを決めてもらうのではなく、自分の状態を見て、今の自分に何が必要なのかを考える。そうした投手育成の考え方は、常深投手の性格にも合っていました。
何を目指し、そのために今日は何をするのか。自分で考えたことをやり切り、成長を確かめる。その繰り返しが、常深投手の毎日になっていきました。
その取り組み方は、野球だけではありませんでした。3年次を終えた時点で、卒業に必要な124単位をすべて修得。平均成績は88点で、学年の成績上位者に給付される「大樟奨学金」も受給しました。ただ、試験前に長時間勉強するタイプではありません。一夜漬けのような勉強は、ほとんどしなかったといいます。その代わり、徹底していたのが毎回の授業でした。
「要点は絶対に聞き逃していない自信があります」
授業で大切だと思ったことは、その日のうちに整理する。試験前までため込まず、その日に学んだことを、その日のうちに理解する。
印象に残っているのは、サプライチェーン・マネジメントやベンチャービジネス論、企業論などの授業です。
「先生がめっちゃ熱い人なんですよ」
先生の熱量に引き込まれ、厳しい授業であっても「楽しかった」と振り返ります。野球では、今日やる練習を決めて、その日のうちにやり切る。勉強では、今日学んだことを、その日のうちに整理する。やるべきことを先送りせず、一日ずつ終わらせていく。そこにも、常深投手らしさが表れていました。
2026年10月22日。目標にしていたドラフト上位指名は、阪神タイガースからの3位指名という形で現実になりました。4年前には、まだ自分が行けるとは思っていなかったプロの世界。そこへ進む今、不安はないのかと尋ねると、常深投手はこう答えました。
「楽しみしかないっすね。自分、練習好きなんで。プロではどんな練習ができるんだろうって。それがうれしいっすね」
目標は、40歳を超えてもプレーすること。
PROFILE
常深 颯大(つねみ そうた)
硬式野球部4年/明石商業高校出身。左投手。1年次から関西六大学野球リーグ戦に登板。2024年春季リーグで新人賞にあたる「平古場賞」、2026年秋季リーグで投手部門のベストナインを受賞。大学4年間でリーグ戦通算18勝。入学時133キロだった直球は最速149キロまで伸び、2026年プロ野球ドラフト会議で阪神タイガースから3位指名を受けた。