2025.10.15
就職・キャリア
能登半島地震の現場で学ぶ “実践起業研修”―ENT塾サマープログラムを実施

起業や事業創造を志す学生のための課外プログラムである**大経大ENT塾(アント塾)**が主催する「ENT塾サマープログラム」が、2025年夏に実施されました。本研修は、能登半島地震の被災地・石川県志賀町を舞台に、現地の課題解決と地域の魅力発信を目的とした全6日間(うち現地3泊4日)の合宿型プログラムです。学生たちは復興に取り組む人々と直接関わりながら、地域社会に新たな価値を生み出す“実践的な起業研修”に挑みました。

大経大ENT塾とは

大経大ENT塾は、起業や事業創造を志す学生のための課外プログラムです。単なる起業ノウハウの習得にとどまらず、「守りではなく攻め」「分析より行動」「既存より新規」「正確さよりスピード」といったアントレプレナーシップ・マインド(起業家精神)の育成を重視しています。講義や起業家との対話、ビジネスプランづくり、実践的な挑戦を通して、自ら考え行動する力を磨くことを目的としており、スタートアップから個人事業まで幅広い挑戦をサポートしています。

地域とともに歩むリアルな学び

今回の研修では、地震発生直後から復興支援を続けるNPO法人LOVE EAST(代表理事:天野真信 氏、理事:三浦灯 氏)および志賀町社会福祉協議会(茂尾和弘 氏、山崎美里 氏)の協力のもと、学生たちが現地住民と交流しながら、地域課題の解決を目指したビジネスプランを構想しました。
仮設住宅では、住民が集うカフェの開催や交流イベントを通して、コミュニティづくりを支援。日々の暮らしの中で生まれる声に耳を傾けながら、被災地の“いま”を肌で感じ取りました。ある学生は「テレビやインターネットで見ていた被災地のイメージと、実際の現場はまったく違っていた」と語り、また別の学生は「誰かのために行動するには、まず自分が楽しく取り組むことが大切だと気づいた」と振り返りました。現地での経験は、支援活動を超えて、他者を理解し共に未来を描く、実践の学びへとつながりました。

多様な学生が集い、視野を広げる

研修には本学の経営学部の学生8名に加え、和歌山大学・大阪工業大学の学生各1名が参加し、大学の枠を越えたチームで議論を深めました。学生の一人は「異なる背景を持つ仲間との議論が、自分の発想を何度も更新してくれた」と話し、多様な価値観が交わることによる刺激を実感した様子でした。
中間発表では、NPO法人LOVE EASTの天野氏・三浦氏に向けて現地でプレゼンテーションを実施。最終発表には、両氏と志賀町社会福祉協議会の関係者がオンラインで参加し、学生たちの提案に対して実践的な助言や講評が寄せられました。

最終発表で示された、志賀町の未来を描く2つの提案

グループA:「経由地としての志賀町」―地域の意識変革をめざして
「志賀町を通過する町から、立ち寄りたくなる町へ」をテーマに、観光ルートの再設計と地域発信の仕組みを提案しました。金沢から輪島へ続く観光ルート上に位置する志賀町を“能登の中継点”として再定義し、日本一長いベンチや義経の舟隠し、トトロ岩などの地域資源をつなげて紹介するルートを構想。その体験をSNSや新聞、映像などで発信することで、外部からの反応を町の内側に還元し、住民が自らの地域価値を再発見することを狙いました。学生たちは「外からの視点が、内側の意識を変えるきっかけになる」と強調し、情報発信による意識変革の可能性を示しました。

グループB:「再生の鍵は、君の手に」―謎解き観光による復興支援プロジェクト
「再生の鍵は、君の手に」をタイトルに、町全体を舞台とした“地域密着型の謎解き観光イベント”を提案しました。参加者が謎解きキットを購入し、観光スポットを巡りながら物語を進める仕組みで、町内の飲食店や宿泊施設への誘客を図ります。地域住民との交流や特産品との出会いを通して、復興と観光の両立を目指す点が特徴です。提案の中では、協力施設への利益還元、LOVE EASTの活動認知拡大、参加者の学び体験など、多方面への波及効果が整理されました。一方で、交通手段や運営体制など現実的な課題の議論がありました。

現地で得た気づきを、次の行動へ

多くの学生が「現地に行かなければ分からなかった」と口をそろえます。仮設住宅で出会った人々との交流を通して、“地域を支えるとはどういうことか”を自らの体験として考えるきっかけとなりました。中には「就職活動を一時中断して参加したが、新しい価値観や人との出会いが自分を大きく成長させてくれた」と語る学生もおり、能登での時間は、社会と向き合う原点を見つめ直す機会となりました。
最終発表後、LOVE EASTの天野氏は「SNSでの発信力がこれからの復興を左右する。若者の感性を活かして一緒に情報発信をしていきたい」とコメント。この言葉を受け、ENT塾内で「SNS発信チーム」を新設し、学生の視点から志賀町やNPOの取り組みを継続的に発信していく構想も立ち上がりました。
地域に寄り添い、行動を通じて学ぶことの意味を体感した6日間。「ENT塾サマープログラム」は、学生たちにとって“現場で育まれる起業家精神”を実感する貴重な機会となりました。

指導教員の声

大経大ENT塾塾長補佐 水野未宙也講師(経営学部)
起業家精神とは、難しい課題と向き合い、自ら考え行動する姿勢、そして挑戦の過程を楽しむ心構えでもあります。今回の研修では、学生たちが地域の方々との交流や現場での体験を通じて、多くの気づきと刺激を得ることができました。この経験を通じて芽生えた起業家精神が、今後のキャリア形成や新たな挑戦へとつながっていくことを期待しています。

この記事のキーワード
この記事をシェア