2024.10.15
学部・大学院
経営学部セミナー「どうなる不動産市場-展望と課題-」
不動産市場の現状と今後について、3人のプロに学ぶ

9月4日(水)、経営学部セミナー「どうなる不動産市場-展望と課題-」を開催しました。実務的な内容とあって、宅建業者や不動産関連士業、ビジネスパーソンなどの参加が多く、学生・院生とあわせて80名ほどが集まりました。セミナーは江島由裕経営学部長の挨拶からスタート。「2024年は、本学経営学部創設60周年、経営学部ビジネス法学科創設20周年となる記念すべき年です。これまでスタートアップやダイバーシティなどのテーマでシンポジウムを開催してきましたが、今回は、今注目されている不動産市場について情報発信をしたいと思います」と話しました。

経済指標から読み解く最近の不動産市場動向

最初に登壇した本学経営学部の橋谷聡一教授のテーマは「2024年 不動産市場の動向-最近の不動産市場動向を概説」。主に不動産に関する経済指標を取り上げ、その数値の意味や注意点などを説明しました。

[プロフィール]
橋谷聡一(大阪経済大学経営学部ビジネス法学科教授)
筑波大学博士(法学)、明海大学修士(不動産学)。不動産証券化協会認定マスター。不動産会社、一般社団法人不動産証券化協会業務部主任調査役、広報部広報課長を経て本学入職。専攻は、民法、不動産法、信託法。著書(共著)に『民法・商法からはじめるビジネス法入門』(税務経理協会、2023年)、『「福祉型の信託」を基礎づける』(日本評論社、2021年) などがある。

例えば、国土交通省の地価公示を見ると、令和6(2024)年には三大都市圏(東京・大阪・名古屋)で全用途平均・住宅地・商業地いずれの地価も3年連続で上昇し、上昇率が拡大しました。一見順調のようでも「忘れてはいけないことがある」と橋谷教授。
「令和3(2021)年の地価公示では、全国平均の全用途平均が平成27(2015)年以来6年ぶりに下落しました。堅調には見えますが、コロナ禍のような事象が起こると、一気に風向きが変わってしまいます」

その他、不動産に関する経済指標は路線価、建設総合デフレーター、建築着工戸数と床面積はもちろん、GDP(国内総生産)、日銀短観、求人倍率、消費者物価、実質賃金、株価など。それらを総合的に、かつ時系列で見て、不動産市場の動向を判断する必要があるといえます。

「今年は『物流の2024年問題』があり、さらに大阪では大量のオフィスの床供給があります。不動産市場にとって大きなターニングポイントのひとつだと考えています」と、要注目の年になると話しました。

今後、物流不動産マーケットはどう変わるかを考える

続いての講演は、大手物流会社勤務で本学非常勤講師でもある井門晃氏による「2024年を迎えた物流業界と物流不動産マーケットについて-経済産業・社会構造の変化が物流の賃貸市場・投資売買市場・建設市場に与える影響を解説」。物流不動産とは、倉庫や物流センターなど物流に関わる施設のことです。茨木市に最先端の物流拠点「GLP ALFALINK茨木」の第一弾が2024年8月に完成したというタイムリーな話題からスタートしました。

[プロフィール]
井門晃氏(不動産鑑定士・大阪経済大学非常勤講師)
早稲田大学修士(国際経営学MBA)。不動産証券化協会認定マスター、司法修習生選択型プログラム(不動産・借地借家の実態)講師でもある。外資系の不動産会社やアセットマネジメント会社などでブローカレッジ、バリュエーション、アンダーライティング業務などに従事し、現在は大手運送会社勤務。著書(共著)に『不動産賃貸借における共益費Q&A』(民事法研究会、2023年)がある。

「『GLP ALFALINK茨木』にはカフェテリアやコンビニ、シャワー、屋外コートなどがあり、住めるくらい居心地のよい施設になっています」と、実際に現地を見た井門氏。物流の2024年問題といわれるようにドライバー不足は非常に深刻で、地方ではすでに荷物が届かないという事態も起こっているとのこと。人手不足解消の対応のひとつとして、労働環境の改善が求められているのです。
「不動産と物流・運送業界のニーズがマッチして、このような施設が生まれました。ディベロッパーが単体で事業を行うのではなく、行政と組んで再開発事業や区画整理事業として街を活性化させる仕組みも特徴的です。昔の“倉庫ビジネス”とは大きく変わっています」と話しました。

また、井門氏は、「Wheatonの四象限モデル」を用いて、不動産マーケットのメカニズムを解説。不動産マーケットは単独で成立するのではなく、賃貸市場(賃料が決まる)・資産市場(価格が決まる)・建設市場(新規供給量が決まる)・床ストック市場(床ストックが決まる)が相関していると説明しました。資産としての側面を持つ不動産は、需要と供給だけでなく、利回りとの関係や建築着工数、空き物件など、さまざまな点から分析することが必要になるのです。

さらにその背景には、気象や地勢などの「自然的要因」、人口・世帯数や産官学連携の状態などの「社会的要因」、金利や技術革新などの「経済的要因」、規制緩和などの「行政的要因」があり、それらを評価した上で物流不動産の価格が決まるといいます。
「特に、物流不動産市場の場合、洪水など災害発生の危険性をしっかりと評価します。また、快適な施設や通勤の利便性といった人材確保のための施策も、AIやDXといった技術革新の状態も重要な要因です。これらの課題は、適切に対応できればビジネスチャンスに変わります」と、物流業界や物流不動産市場の方向性を示しつつ締めくくりました。

大阪オフィスビル2024年大量供給問題は“問題”なのか

不動産業界歴約33年という深澤俊男氏は、「注目される大阪都心賃貸オフィスビル市場-2024年夏 過去最高水準のビル供給でどうなるオフィスマーケット?」と題して、「巷で叫ばれている“大阪オフィスビル2024年大量供給問題”は本当に問題なのか」を主な論点に話しました。深澤氏によると、「例年に比べて供給は多いが極端なものではなく、需給バランスも崩れていないため、結論としては“騒ぎすぎ”」とのこと。その根拠について、2024年に竣工した大規模なオフィスビル事例をもとに説明しました。

[プロフィール] 深澤俊男氏(不動産鑑定士・大阪公立大学院非常勤講師・近畿大学非常勤講師)
大阪市立大学大学院創造都市研究科修士。CBRE総研を経て、2009年に深澤俊男不動産鑑定士事務所を開業。現在は株式会社アークス不動産コンサルティング代表取締役。不動産業界で約33年の経験を持つ。独立後15年で、上場企業、自治体、各種団体、大学などを対象に行った講演・講義は通算300回を超える。宅建法定講習講師の経験に加え、宅建登録実務講習講師も務める。

2024年には、大阪駅界隈で1フロア1,200坪の貸室面積が特徴である「JPタワー大阪」が竣工。その他にも「イノゲート大阪」、御堂筋界隈にて「アーバンネット御堂筋ビル」や「大阪堂島浜タワー」が相次いで竣工するなど、年前半においても“大阪オフィスビル2024年大量供給”はみられたのです。

「コロナ禍を経てオフィス市場は不透明な状況になっています。ポイントは需要と供給のバランス、つまり空室率に注目すること。均衡ゾーンの目安は概ね4~6%で、6%を超えると供給過多といえます。大阪のビジネス地区の空室率は現状4.3%なので、オフィスが余っているわけではなさそうです。需要は不透明ですが、供給は近々の着工数や延床面積などからある程度把握できます。ただ、延床面積にはホテルや商業施設などオフィス以外も含まれるので注意が必要です」
その上で、この9月には「グラングリーン大阪」の一部で先行まちびらきが行われました。開発全体で、延床面積約170,000坪もあったことから、計画発表当時は不動産業界で騒がれましたが、そのうちオフィス貸室面積は約34,000坪でした。

「今、四大都市圏のオフィス空室率はすべて均衡ゾーンに入っています」と深澤氏。
「賃貸オフィスマーケットについては、惑わされすぎず、地道に、建築計画や供給量といった客観的な事実を掴むことが大切です。コロナ禍では“オフィス不要論”の報道が目立ちましたが、私見としては「否」です。そもそもオフィス面積は減っていない事実があることに加え、GAFAのような企業でも出社を推奨しています。大阪オフィスビルの大量供給も、多少の混乱があっても近く落ち着くとみています」と、“オフィス不要論”の是非について触れて終わりました。

3つの講演の後、橋谷教授の総括があり、「働く場所や生活する場所、物流の場所などをどう捉え直していくか。それが今後大切になると改めて実感しました」と話しました。不動産に関する経済指標、物流不動産、大阪のオフィス市場と、それぞれの観点から展開した本セミナーは、最後に登壇者へ大きな拍手が送られて終わりました。

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