2024年11月18日、19日の両日、西洋経済史特論(担当:経済学部 浅野敬一教授)の授業に、東京証券取引所執行役員(上場推進担当)の林謙太郎氏を講師に迎え、「資本主義経済における株式市場の役割」をテーマに授業を行いました。西洋経済史特論は、現代アメリカ経済史を取り上げながら、資本主義経済の歴史とそこで生まれた種々の問題を検討しています。とくに、株式会社は、資本主義経済の資金調達とビジネスの展開を支える重要な仕組みといえます。

林氏からは、証券市場の基本的な機能を説明の後、アメリカと日本を比較する形でスタートアップの果たす役割と課題について講義がありました。アメリカは、1970年代に高金利を要因とする「株式の死」に直面します。しかし、1980年代から1990年代後半に上場会社数が急増する過程で、多くの新興IT企業が生まれてきました。これらの中から、GAFAM※1など、アメリカの新たな基幹産業を形成する企業が登場することになります。一方で、林氏からは、近年のアメリカでは上場会社数が減少していること、スタートアップが新規上場ではなく大企業に買収されるケースが増えていること、マグニフィセント・セブン※2と呼ばれる上位企業に株式時価総額が集中していることなど、アメリカの経済や株式市場を冷静に考察するポイントが示されました。
※1 IT企業を代表する5社 (Google、Amazon、Facebook(現Meta)、Apple、Microsoft)の頭文字を取った呼称
※2 米国株式市場を代表するテクノロジー企業7社(Alphabet(Googleの親会社)、Amazon、Facebook(現Meta)、Apple、Microsoft 、NVIDIA、Tesla)を指す呼称
さらに、林氏の30年にわたる上場支援の経験を踏まえながら、スタートアップ育成に向けた東京証券取引所の取り組みについても説明がありました。林氏からは、日本の上場会社数は毎年100件前後で順調に推移している一方で、上場後の成長は十分とはいえず、時価総額上位企業の顔ぶれにあまり変化がないなどの課題も明らかにされました。そのうえで、東京証券取引所としては、上場プロセスの整備などを中心に上場を支援する仕組みの強化に取り組んでいることが説明されました。

講義の後、林氏と浅野教授との対談形式にて学生からの質問に答えました(なお、質問多数だったため、後日、書面においても丁寧な回答が行われました)。学生からは、GAFAMのような企業を日本から生み出すためにはどうすればよいかなど、多くの質問がありました。これに対して林氏からは、例えば、ファーストリテイリングのように日本ならではの世界企業もあると新たな視点が提供されました。アメリカと同じを目指すのではなく、強みを活かして競争力を強化することは重要といえます。
また、証券取引所の存在自体は広く知られていますが、その具体的な機能まではなかなか理解されていません。そこで、全国を巡り、東京に集中する新規上場会社を他の地域においても増やすべく支援していることなど、林氏自身の業務内容についても説明がありました。

さらに林氏は、大阪経済大学と証券取引所との関係について話しました。野村証券副社長の後、東京証券取引所副理事長を務めた井阪健一氏(故人)は、本学の卒業生であり、林氏が東京証券取引所入職直後、副理事長だった井阪氏に直接「営業の極意」を尋ねた思い出話も。その後1999年から、井阪氏は大阪経済大学理事長を務めています。また、大阪経済大学の北浜キャンパスは大阪証券取引所ビル内にあることにも触れました。
受講生にとっては、株式会社制度や取引所の機能への理解を深めると同時に、取引所を少し身近に感じられた授業だったようです。