2025.04.01
学部・大学院
企業取材で紐解く「謝罪」の本質 ~企業活動の視点から考察・発表~
企業の協力を得て、企業活動に関わるテーマを考察・発表

経営学部 稲岡大志准教授と中村信隆講師が担当する「地域企業連携実習」は、企業を取り巻く社会的・倫理的課題について、企業取材や成果発表を経て、テーマへの学びと理解を深めることを目標とする授業です。大学と地元企業を結びつけて地域人材の育成を目指す「志プロジェクト」と連動した演習で、参加企業の協力を得て授業が進められます。今回は「謝罪」をテーマとし、企業活動に関わる失敗・不祥事と謝罪についてリサーチ。2月13日に行われた成果報告会には企業の方々にも参加いただき、各チームがプレゼンテーションを行いました。

テーマの理解を深めて企業取材へ

全15回の授業の前半では、まず「失敗」や「謝罪」について理解することから始めました。学生自身の経験や企業の事例を通じ、なぜ失敗は起こるのか、何のために謝罪をするのか、良い謝罪と悪い謝罪の違い、謝罪対応で重要なことは何かといった多様な角度から、分析・考察していきます。個人での調査や考察、グループワーク、発表を積み重ね、考えを深めていきました。学生たちは、「人によって考え方が異なることが分かった」「今まで深く考えたことのない事柄について理解を深めていくのが興味深かった」と話します。なかには、授業時間の終了後も時間の許す限り、担当教員とテーマについて対話する学生がいたといいます。

前半の授業を踏まえ、後半では担当企業ごとに4チームに分かれ、実際に企業を訪問して取材を行いました。企業との事前打ち合せや日程調整、質問事項の検討なども学生自身が担います。基本的なビジネスマナーを事前に授業内で学び、担当企業に関する情報収集を行った上で、取材に臨みました。

【参加企業】
株式会社アピックス
デジタル印刷、総合文書情報管理サービスを主体としたBPO事業を展開

日本鏡板工業株式会社
化学・食品プラント施設などに用いられる、圧力容器用の鏡板を主に製造・販売

株式会社日本電気化学工業所
住宅や高層ビルの建材、車両などに使用するアルミニウム表面処理加工の専門企業

千房ホールディングス株式会社
お好み焼き「千房」の全国・海外展開、冷凍食品販売などを手がける総合外食企業

企業取材では、失敗や不祥事に対する考え方や事例、事後対応などについて質問しました。社長をはじめとする経営陣にも取材対応していただいたことから、普段、企業人と接する機会がほとんどない学生たちは、緊張感いっぱいで取材に臨んだといいます。しかし、企業の方々が気さくに話してくださったおかげで、徐々に緊張もほぐれて対話も盛り上がり、充実した内容の取材ができたそうです。「どんな質問にもしっかりとした考えに基づいた答えが返ってきて、手応えのある取材になってよかった」「経営者と社員との関係性を間近で見て、企業に対するイメージが変わった」など、学生たちは企業との関わりの中で、さまざまな気づきを得ました。

協力企業を招き、成果報告会でプレゼンを実施

企業取材後は各チームで、取材結果を踏まえてどのような発表をするのかを検討していきました。発表の方向性、論理的な発表の組み立て方などに関して、担当教員から助言を受けながらチームで話し合いを重ねます。学生たちは授業外の時間も費やし、発表準備を進めました。その過程で、メールで何度も企業の考えを確認するなど追加取材を行ったチームもありました。

約4カ月間にわたった授業の集大成として、2月13日に実施した成果報告会では、参加企業の方々の前で各チームが約10分間のプレゼンテーションを行いました。

【発表内容】

「株式会社アピックス」チーム

アピックスでは失敗やトラブルを「事象」と表現し、失敗の当事者を責めるのではなく、リカバリーや防止策を考えることを重視していると分析。「事象」という言葉に着目し、このような表現を使う意味や効果を考察しました。最終的に、「事象」という言葉を使うことで、当事者以外の社員を含めて考えるきっかけとなり、機会の共有につなげられていると結論づけました。

「日本鏡板工業株式会社」チーム

何らかの問題が発覚した際には誠意ある対応が大事で、迅速さを重視すると回答した企業に対し、責任の所在が分かっていない段階での迅速な謝罪は、打算的で誠意に欠けているのではないかと疑問を提示。問題の当事者間の関係性に着目し、謝罪には必ず誠意が必要なのかという観点で考察を深めました。

「株式会社日本電気化学工業所」チーム

ベストな謝罪とは、「相手に寄り添うこと」と「自社の利益を確保し、存続すること」の両方を達成できる謝罪であると定義。日本電気化学工業所ではそうした謝罪が行われているが、改善点として、過去の経験という基準だけでなく、問題のランクを明確に格づけすることが必要ではないかと提案しました。

「千房ホールディングス株式会社」チーム

取材時に企業側から回答のあった「過不足ない謝罪」について考察。実際の店舗で起こった事例から見ると、千房が行っているのは、お客様に合わせた少し「過」のある謝罪ではないかと分析。お客様に合わせた謝罪で誠意は伝わるが、過剰な要求に対応するために上限を定めておくことの必要性を提示しました。

発表後、企業の担当者らは「自社の謝罪時対応の目的や思いをしっかりと理解し、伝えてくれた」「他社の謝罪に対する考え方を知ることができ大変参考になった」「一つのテーマでもいろいろな考え方があるのだと改めて気づかされた」と述べ、企業にとっても意義のある取り組みになったことがわかりました。

「謝罪」という倫理的な難しいテーマについて時間をかけて取り組み、企業との直接的な関わりを通じたことで、大学での学びや社会に出てからも活かされる多くの気づきを学生たちは得られたでしょう。この取り組みは来年度以降も、新たなテーマを設定して継続する予定です。

学生の声

尾崎 心紀さん(2年・株式会社アピックス チーム)
企業取材では社長とも直接お話して考えを知り、その企業の本質の一端に触れられたと思います。自分の中の企業観も変わりました。追加取材も行い、成果報告会では担当企業の考えを正しく伝えられるように意識して取り組みました。

嵜迫 惺さん(2年・日本鏡板工業株式会社 チーム)
テーマに関わる論点や疑問点を一つずつ明確にしていき、時間をかけて考えていく過程を楽しめる授業でした。先生やチームメンバー、企業の方との関わりの中で、自分にはない視点を得られるのが興味深く、多くの学びを得られました。

吉藤 琉哉さん(3年・株式会社日本電気化学工業所 チーム)
企業が顧客とどのような関わり方をしているのかなど、リアルな企業活動について知れて勉強になりました。チーム全体で協力して取り組めたのが良かったところ。プレゼンの完成度には課題も感じたので、この経験を次に活かしたいです。

中村 一星さん(3年・千房ホールディングス株式会社 チーム)
「謝罪」というテーマについて考える中で、相手が何を求めているのかという視点を持てるようになりました。取材で知った企業の考え方から、これまで授業で学んできた知識とのつながりが感じられ、経営学の学びも深められました。

※学年表記は成果報告会が実施された2025年2月13日時点。

教員の声

稲岡 大志 准教授
我々の社会活動の中には、よく考えてみると不思議に思うことがたくさんあります。今回のテーマである「謝罪」もその一つ。その謎に触れて分析するといった知的なチャレンジができるのは、大学教育ならではのおもしろさです。この授業では学生たちに、そうしたいつもとは違う目線で社会を見てほしいと考えています。今回の取り組みでは取材を通して、それぞれのチームがテーマに関する興味深いキーワードを捉えており、難しいテーマにしっかりと向き合ってくれたと思います。

中村 信隆 講師
授業の初め、「企業はなぜ謝罪をするのか」と聞くと、「信頼回復のため」と学生たちは答えていました。それは自己利益のための謝罪であり、誠意ある謝罪とはいえません。授業で考察していくうちにそうした矛盾に気づき、企業取材にも行き、自分たちなりの考えを深めていきました。アイデア自体は良かったものの、プレゼンで伝えきれていなかったチームもあり、そこは今後の授業の課題です。企業・学生にとって適切なテーマを設定し、履修学生全員がより積極的に関われる授業を展開していきたいと考えています。

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