2025.07.24
学部・大学院
株式会社コーミン 入江智子氏による講演会 ~morinekiプロジェクトを事例に、公民連携によるまちづくりについて考える~

2025年6月26日、経済学部「地域政策」の講義(担当:臼田利之准教授)で、講演会を開催しました。講師としてお迎えしたのは、株式会社コーミン代表取締役の入江智子氏です。
入江氏は、大阪府大東市での民間主導の公民連携による市営住宅の建替「morinekiプロジェクト」に携わり、自治体と連携したまちづくりに尽力。講演では、そのプロセスやまちづくりの意義についてお話しいただきました。

老朽化が進んだ市営団地を、民間主導で生まれ変わらせる

「morinekiプロジェクト」の舞台である大阪府大東市は、過去の水害対策等のため、深刻な財政難に陥っていました。そのため、まちづくりに十分な財源を投入できず、結果として人口も減少。老朽化が進んだ、風呂すらない市営団地の整備さえもままなりませんでした。

そこで、「morinekiプロジェクト」がスタートしたのです。市による整備費用の負担はなしに、民間企業のノウハウやマネジメント手法を取り入れて団地を再生させるという、全国初の“PPP手法”を用いた画期的なプロジェクトです。民間企業が主導することで、自治体だけでは提供できなかったサービスの提供も可能となり、地域も活性化。プロジェクトの発足後は周辺地域の子どもの数も増えたといいます。整備された住宅は市が一括で借り上げ、市営住宅として運営されています。(順次民間賃貸住宅に移行予定)

曖昧な境界が生み出すもの

「morinekiプロジェクト」によって生まれ変わった団地“もりねき住宅”は、市営住宅でありながら隣人との境界が非常に曖昧で、開放的な設計になっています。また、住民間のトラブルに関しても、基本的に市が介入することはなく、当事者同士での解決を目指しているそうです。これらは、まちづくりにおける入江氏のこだわりによるもの。「住民同士で話し合い、生活音に関するルールの取り決めがなされたこともある。そのように、曖昧な境界こそが主体性や当事者意識を生み出し、住民や地域の人々のコミュニケーションも活性化されていくのだと思う。もりねき住宅はそんな場所であってほしい」と入江氏は語ります。

次に「大東ズンチャッチャ夜市」についての紹介です。
大東市内のJR住道駅前デッキで、毎月最終水曜日に開催されているナイトマーケットで、市内外からおよそ3,000人が来場し、厳選された約50店舗の飲食店や物販店を楽しんでいます。夜市は立ち飲みスタイルで運営され、固定席はほとんどありません。それは来場者同士の境界を曖昧にするという、入江氏のまちづくりへのこだわりがここにも反映されています。

まちづくりとは、ストレスを解消すること

まちづくりの意義について入江氏は、ストレスを解消することだといいます。「“老朽化が進んだ団地をどうにか再生させたい” “何も生み出せていない駅前のスペースをどうにか活用したい”というストレスが、大東市にはあった。それらを解消するために、『morinekiプロジェクト』や『大東ズンチャッチャ夜市』が必要だったわけです。つまり、まちづくりというのは、まちのストレスを解消することに他なりません。逆に言えば、ストレスのないところに、まちづくりは必要ないのです」

ターゲットは“すっぴん女子”-まずはまちとひとを知ることから

入江氏は“すっぴん女子”をターゲットに、大東市のまちづくりを進めていると話します。化粧をしていない女性という意味ではなく“心がすっぴんな人”という意味合いの、大東市の住民性を形容する造語です。「そんな風に、まずは自分のまちやそこに住むひとをきちんと知ることからまちづくりは始まる。そして、それに合うようなまちづくりを考えていくことが大切。まちは誰かが変えていくものだと思いがちだが、自分たちの手でも変えていける」と語り、講演会を締めくくりました。

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