経営学部・江島由裕ゼミでは、西日本最大級のゲストハウス「GRAND HOSTEL LDK 大阪心斎橋」(旧THE STAY OSAKA 心斎橋)と連携し、「YOUは何しにLDKへ!」と題した実践的なプロジェクトを実施しました。本プロジェクトは、宿泊客の約9割を占めるインバウンドゲストへのインタビューを通じて、「真の顧客像」を探求することを目的としています。調査の成果は2025年7月16日、本学にて開催された最終報告会で発表されました。ゲストハウスの運営主体である株式会社フィルド、事業主体である大和ライフネクスト株式会社からも貴重なフィードバックをいただき、学生たちは顧客理解をより一層深めることができました。

「GRAND HOSTEL LDK 大阪心斎橋」は、2025年2月にリブランドされたホステル(相部屋や共有スペースを備えた、比較的リーズナブルな料金で宿泊できる施設)であり、「旅人同士の交流」と「快適な滞在」の両立を重視した空間づくりが特徴です。広々とした共有ラウンジをはじめ、トリプルルーム(トイレ・専用シャワールーム・ミニキッチン付)や、グループ向けの個室、相部屋(ドミトリールーム)など多様な部屋タイプが用意されており、心斎橋からのアクセスの良さ、スタッフとの距離感の近さも、宿泊客から高く評価されています。
江島ゼミでは、本プロジェクトの目的として、単なる表面的な顧客調査にとどまらず、「ゲストはどのような目的で旅をしているのか」「なぜその目的を持ったのか」「どのように宿泊先を選んだのか」「なぜ他のゲストハウスではなくLDKを選んだのか」といった深層心理に迫ることを重視しました。江島先生は、「真の顧客像」というキーワードを学生に与え、ゲストのライフスタイルや価値観にまで踏み込み、LDKの顧客像を徹底的に考察するよう促しました。
実習では、学生たちは3チームに分かれ、LDKを利用する外国人ゲストへの英語でのインタビューを実施。国別の利用割合や旅行目的などを詳細に調査し、「真の顧客像」を浮かび上がらせていきました。
チームA:「LDKに宿泊して自分の時間を有意義にする人」
チームAは、会話のきっかけづくりとして日本のお菓子を配るなど、ゲストが安心して話せる雰囲気づくりからスタート。実践を重ねる中で、タトゥーのある外国人向けの入浴施設情報や、おすすめの居酒屋など、興味・関心に寄り添った情報を提供することで自然な会話が生まれ、信頼関係が構築されていきました。
当初の仮説は「自分の時間を大切にする人」。しかしインタビューを通じて、「大切にする方法は人それぞれ異なる」ことに気づき、「自分の時間を有意義にする人」へと定義を深化させました。ホステル内での交流や、外出して日本文化に触れるなど、それぞれの方法で旅の時間を充実させようとする姿に着目しました。

チームB:「旅の中に暮らしの居場所を持ち歩きたい」+「壁(人との距離感)を自由に設定しているゲスト」
チームBは、「つながり」と「安心感」をキーワードに、LDKが提供する体験価値を探求。宿泊者の多くが「LDKは落ち着く」「くつろげる」と評価していたことから、「LDKは家のような場所なのか?」という仮説を立てました。(1)LDKは家のように感じるか(2)どのような点が家のように感じるのか(3)自分の家と似ている点、異なる点は何か。このような観点で検証した結果、ハード面(家具や照明など)は家を思わせる一方で、ソフト面(人との距離感など)には違いが見られました。ゲストは交流を望みつつも、自分のペースで過ごすことも大切にしており、「壁(距離感)」を自ら調整していることが明らかになりました。

チームC:「宿泊で得られる幸せの形が休息だけでない人」
チームCは、新規顧客とリピーターの視点から顧客像を分析。常連客へのインタビューから、新旧の顧客に共通する価値観が存在するのではという仮説を立てました。それは「旅行=幸せ」であり、宿泊もその幸せの一部として捉えられているという視点です。
「あなたにとって幸せとは?」という問いを軸に、LDKのどのような要素がゲストの幸せにつながっているかを分析。ロビーの広さ、交流イベント、スタッフの親しみやすさ、観光地へのアクセスなど、宿泊そのものが旅行中の「幸せな体験」として機能していることを明らかにしました。

番外編として、3チームの一部メンバーで構成された合同チームは、「LDKに宿泊して(外国人と)友達を作ろう」をテーマに、交流の本質に迫る検証を行いました。実際にゲストと朝まで語り合ったり、後日一緒に食事に出かけたりするなど、滞在を通じて生まれた深い交流体験を得ました。
この体験から、ホステルに泊まったことがない日本人学生に向けた宿泊体験の提供という新たな提案が生まれました。ホステルに馴染みのない層に対して、「言語に興味があり、異文化交流を求める学生」に向けた体験の場を提供しようという発想です。
こうした提案を受けて、株式会社フィルド・齋藤貴之社長からは鋭い問いかけがありました。「『友達になる』『交流する』という視点は、ビジネスとして成立するでしょうか?」

学生たちは戸惑いながらも、齋藤社長の解説を通じて理解を深めていきました。齋藤社長は「ホステル利用者は、自身の価値観や成長、自分らしい過ごし方を重視して宿を選んでいます。同価格のホテルが隣にあっても、ホステルにしかない体験価値が選ばれる理由になります。これこそが、ビジネスとしての価値です。」と述べました。
この言葉を受けて、Bチームの学生が代表して答えました。「ホステルでの交流体験には、価格以上の価値があると実感しました。実際に実習を経験した仲間が東京のホステルを利用予定であることからも、体験の魅力は明らかです。英会話レッスンでは得られない、実践的な英語力や多様な人々との関わりが、学びとしても強みになると考えます。こうした魅力はリピート利用につながり、収益にも貢献するはずです。」

株式会社フィルド 齋藤貴之 代表取締役
社会に出れば、どんな仕事にも顧客が存在し、その顧客の幸せを実現することが仕事の本質です。「真の顧客像」を探る今回の取り組みは、その本質を体感する貴重な機会になったと思います。
大和ライフネクスト株式会社 不動産企画運営部 谷田大樹 氏
発表内容に感銘を受けました。特に「時間」「壁」「幸せ」といった異なる切り口で同じテーマを深く掘り下げた点、そしてその過程で得られた学びが各チームで異なっていた点が非常に興味深かったです。
大阪経済大学 経営学部 江島由裕 教授
このプロジェクトは、学生が机上の学びを超えて、実際のビジネス現場で顧客と向き合いながら、真のニーズを理解し、それをビジネスに結びつける思考力を養う絶好の機会となりました。「GRAND HOSTEL LDK 大阪心斎橋」における「真の顧客像」の探求は、今後のゲストハウス運営にとっても大きな意味を持つ成果を得ることができたと確信しています。