2025.12.11
学部・大学院
株式会社リゲッタ・高本泰朗氏による特別講演~挑戦と再生のものづくり経営~

2025年12月3日(水)、経済学部「大阪の経済と文化」(担当:山本俊一郎学長)の講義に、株式会社リゲッタ代表取締役社長・高本泰朗氏をゲストに迎え、特別講演を開催しました。
「大阪の経済と文化」は、グローバル経済の進展に伴い、大阪大都市圏がどのように変貌してきたのかを産業集積地域を中心に多角的に分析する授業です。今回の講演では、高本氏の歩み、ブランド「Re:getA(リゲッタ)」誕生の裏側、下町から世界へ挑戦してきた軌跡を通して、ものづくりと働くことの本質について語っていただきました。

[高本泰朗氏 プロフィール] 大阪市生野区出身。1968年に両親が創業したタカモトゴム工業所の二代目として育つ。19歳で靴づくりを始め、神戸・長田で4年間修行。2005年に「Re:getA」を発表し累計1,000万足を突破。2024年度「現代の名工」認定。現在は国内外の展開に加え、生野区との包括連携協定や職業講話など地域に根ざした活動にも取り組む。
下町から世界へ─自分が変わると、周りが変わる

高本氏は、高校卒業後に父の工場を手伝いながら靴の世界へ入りましたが、当初は明確な目標もない若者だったそうです。転機は、神戸・長田のデザイン事務所での修行時代に訪れます。先輩の陰口をきっかけに自分と向き合うようになり、初めて“本気で学ぶ”姿勢が芽生えました。その後、ヨーロッパの展示会に派遣されるなど経験の幅も広がり、「自分が変われば周りも変わる」という実感が生まれたといいます。
家業に戻った後は、メーカーの下請けとして生産していましたが、中国企業への全面移管で、仕事もデザインも失う危機に直面。父とともに「下請けからの脱却」を決断し、2005年に「リゲッタ」を発表しました。独自の履き心地が評価され、初回7,500足が2週間で完売するヒットとなりました。

倒産寸前の危機と、父から受け継いだ覚悟

急成長の裏で資金繰りが悪化し、リーマンショックにより負債は2億円超に。精神的にも追い込まれたなか、父から「会社を倒産させようと思う」と告げられます。しかし高本氏は「借金ちょうだい」とすべてを引き受け、35歳で事業承継。金融機関や商工会議所の協力を得ながら資金繰りを改善し、やがて事業を立て直していきました。

企業が大きくなるほど「理念」が必要になる

事業が軌道に乗り、社員数も増えていく中で、高本氏は「この会社は何のために存在するのか」を明確にしておく必要性を強く感じるようになりました。そこで、全社員との対話を13ヶ月にわたって継続し、ゼロから経営理念をつくるプロジェクトを始動します。議論を重ね、社員の思いや会社の歴史を丁寧にすくい上げた末に生まれた言葉が「楽しく歩く人をふやす」という理念です。この理念には、リゲッタの靴を通じて人々の歩みを軽やかにしたいという思いに加え、人生を楽しく歩こうという願いが込められています。理念策定以降、会社では自己評価を軸にした面談や、社員による演劇を通じたビジョン共有など、対話を重視した組織づくりが進んでいるといいます。

学生へのメッセージ─20代で「本気の2年間」を

講演の後半では、これから社会に出ていく学生に向けて、最も伝えたい思いが語られました。
「20代のうちに、たった2年間だけでいいので本気で取り組む時間をつくってほしい」と高本氏は語ります。本気でやり切った経験は、失敗さえ自信に変えてくれます。自分で決めたしんどいことを成し遂げた人は、いざという時に力を出せるようになります。高本氏は「その2年間が、人生のリミッターを外してくれる」と学生にエールを送りました。

学生の声

・高本さんの若い頃のお話が、今の自分と重なって共感しました。
・裏切られてもチャレンジし続けていく姿勢は、本当に尊敬します。
・どんなことでもいいから行動して、努力してみたいと思えました。
・今19歳なので、20代で頑張りたいことを今から考えたいと思います。
・高本さんのお父さんのお話を聞くと、何歳からでも挑戦はできるんだと思いました。

大阪の下町から世界へ挑み続けてきた高本氏の言葉は、ものづくりの精神と、自分の人生を自らの手で切り開く覚悟に満ちていました。今回の講演は、「大阪の経済と文化」を学ぶ学生にとって、自らのキャリアを考える大きなヒントとなる時間にもなったようです。

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