経済学部の学生2チームが、ISFJ日本政策学生会議(※1)をはじめとする多数の賞を受賞しました。
川村結愛さん(3年生)がリーダーを務めるチームは、ISFJ優秀政策提言賞、WEST論文研究発表会(※2)優秀賞、統計データ分析コンペティション(※3)統計活用奨励賞のトリプル受賞、土井遥斗さん(4年生)がリーダーを務めるチームは、ISFJ最優秀政策提言賞、WEST論文研究発表会分科会賞のダブル受賞です。
リーダーのお二人にお話をお伺いしました。
※1…ISFJ日本政策学生会議は、現代日本が抱える数々の問題を経済学の観点から検証するため関西を中心に大学の研究室が集まり、設立された学生団体。
※2…WESTは学生の政策立案の支援及びその提言活動を通じて社会の諸問題について考察することを目的とする非営利の学生団体。若者の視点から日本の未来を考え、柔軟で利害を超えた実効性の高い政策を発信することで、より良い日本の姿を探ることを理念に活動を行っている。
※3…統計データ分析コンペティションは、総務省統計局などが主催する、高校生や大学生等を対象とした統計・データ分析の論文コンテスト。
川村さんのチームは、日本が抱える医療費の増加の問題について、高額医療機器に着目。「病院間競争が供給者誘発需要を生む構造」というテーマで、MRIを対象に過剰導入および過剰利用の問題を分析しました。
日本では高額医療機器の設置規制がないため、諸外国に比べてMRIの設置台数が多く、MRIの市場はすでに飽和状態です。新規導入の増加率はほぼ横ばいで、代わりに高性能な「高テスラ機器」(※4)への更新が急増しています。その一方で、外来患者数は減少傾向にあるため、一台当たりの稼働率は下がっています。こうした状況では、高額医療機器の費用を回収し収益を確保するために、専門的知識のない患者に対して医師が過剰な医療を勧める「供給者誘発需要」が生じる可能性があると川村さんたちは考えました。
※4…「テスラ」とはMRIの磁場の強さを表す単位で、数値が大きいほど信号が強く、鮮明な画像を得やすくなる。
高テスラ機器への更新と撮影数の関係を公的なデータから分析したところ、高テスラ化するにつれて撮影数も増加していることが判明。「装置の性能が上がったのでよく撮影するようになったのは当然だと思われるかもしれませんが、MRIが使われるのは多くの場合、診断の正しさを確認するためです。また低テスラと高テスラで性能に著しい差はなく、低テスラで見えなかったものが高テスラで見えるわけではないことを考えると、高テスラになったからといって撮影数を増やす必要はないはずです」と川村さんは指摘します。
さらに、外来患者数の変化とMRIの撮影件数の変化について分析したところ、外来患者数が減少しているにもかかわらず、撮影件数は維持または増加していることから、患者一人当たりの撮影件数が増えていることがわかりました。これらの2つの分析から、病院では供給者誘発需要が誘引されている可能性があることが示されたのです。
こうした分析結果を踏まえ、川村さんたちは2つの政策を提言します。1つは、MRIの新規導入および更新に許認可を必要とする「CON制度」の導入。もう1つは、検査の必要性をガイドラインに基づいて評価する「CDS制度」の導入です。「どちらも海外で施行されている制度なので、日本にも応用できるのではないかと考えています」と川村さん。導き出した2つの提言が、供給者誘発需要の抑制と医療費の削減に貢献できればと話します。
日本全体ではMRIの設置が過剰であっても、地域ごとに見ると不足しているところもあり、研究を通してデータを細かく分析することの大事さを学んだと川村さん。「データを分析して結果を出すのは大変でしたが、もともと統計学が好きなこともあって楽しかったですね」と話します。
実は、中間発表にあたる統計データ分析コンペティションで発表したあと、内容を大幅に変更したと明かします。「最初は、MRI1台あたりの患者数に関する分析だけだったのですが、専門家の方の前での発表を通じて、論文に残っている疑問点や不完全な点が洗い出され、これだけでは弱いのではないかと考えるようになりました。そこで、高テスラMRIへの更新についての分析も加えました。高テスラMRIへの着目は先行研究にも見られないので、その新規性が評価されたこともあり、受賞につながったと思います」
今回の研究でチームリーダーを務めた川村さん。チームの6人で役割分担し、それぞれが論文完成に向けて主体的に取り組んでくれたと振り返ります。「そのおかげで、私も自分が担当する分析に集中することができました。これまで私は、班行動でもつい自分が全部やってしまうところがありました。でも今回信頼できるメンバーたちとチームを組んで、人に頼ることも大切だと考えられるようになり、一つ成長できたと思っています。よい刺激を与えてくれる仲間たちと一緒に頑張れたのはとても良い経験でした」
土井さんのチームが掲げるテーマは「入札制限があるオークションにおける談合行為」。法律違反であり経済的にも深刻な負の影響を与えている談合の問題に取り組みました。
公正取引委員会のデータによると、年間約1.4兆円の不正利得が生み出されている可能性があるという談合。日本ではおもに「持ち回り型」の談合が行われていると土井さんは説明します。「たとえば企業A、B、Cで談合が行われる場合、ある案件でBおよびCがAよりも少し高い値段で入札し、価格競争があったかのように見せかけてAに落札させ、同様にして次の案件ではBに、その次はCに落札させるというように、落札者を順番に回す談合です」
オークションでは、品質確保のために下回ると失格となる最低制限価格が決められますが、最低制限価格が予測できると、談合が成立しやすくなってしまいます。そこで、大阪府が導入しているのが「ランダム係数」と呼ばれる対策法に着目しました。最低制限価格に0.9975~1.0025の中からランダムに選んだ係数を掛けることで、最低制限価格が予想されにくくします。土井さんのチームは、ランダム係数が実際に談合の抑制に効果があったのかどうかを分析しました。
土井さんたちが用いたのは、不連続回帰デザイン(RDD)と呼ばれる分析方法です。企業 が抱える未完了工事量を表す「受注残高」と、各入札者の入札価格と落札価格との差を表す「勝敗マージン」のグラフを描くと、談合が行われていない通常の競争では、勝敗マージンが0になるところで勝者と敗者の受注残高に違いは見られません。しかし、持ち回りの談合が行われている場合、負け役は直近の案件で受注しているので受注残高が高く、反対に勝ち役は直近では負けているので受注残高が低くなり、勝敗マージン0でグラフに不連続な差が現れます。大阪府の入札について、ランダム係数導入の前後をRDDで分析したところ、導入前にあった不連続な差が導入後には縮小していることから、談合の抑制に効果があったことが示されました。
以上のような分析結果から、土井さんたちは全国の公共地方団体へのランダム係数の導入と、競争入札に適さない地域には、類似の案件をまとめて総合評価方式で選んだ複数の企業間で入札する「フレームワーク方式」の導入を提言しました。
今回の研究で用いたRDDは、通常、奨学金が成績に及ぼす効果のように、ある閾値を境に扱いが変わる状況を利用して効果を推定する手法です。この閾値をランダム係数の有無にして効果を測るのではなく、入札の勝ち負けにしているところがユニークで、受賞の理由のひとつになったのではないかと土井さんは振り返ります。「RDDについてはかなり勉強して理解を深め、発表会での質疑応答でもしっかり答えられるように準備しました」
時間が許せば、談合する企業側の視点や問題についても考慮したかったと土井さんは話します。「ただ、提出期限までにどこまで掘り進められるのか、どのあたりで切り上げなければならないのかを見極める必要がありました。決められた時間の中で、チームをまとめながら折り合いをつけて完成させていくといった力が、コンペを通じて身についたのではないかと思います」
ランダム係数が談合の抑制に効果があることを実証したように、分析によって因果関係をデータとして示せるところに、研究の面白さを感じているという土井さん。「その面白さにはじめて触れたのが、コロナ禍のときの外食産業に関する研究でした。緊急事態宣言下では外出が控えられるので、コンビニやスーパーのお弁当への支出が増えたのではないかと予想し、データを集めて分析したところ、その通りの結果が出たんですね。これは面白いなと。この春には僕も企業に就職しますが、機会があれば研究でデータ分析した経験を活かしていきたいと思っています」
研究を通して、経済学の面白さや実生活へのつながりがより深く理解できたという川村さんと土井さん。今回の受賞を一つの通過点として、さらなる活躍が期待されます。