2026.02.16
学部・大学院
「上場は通過点」起業家・投資家が語る、IPOという選択肢/スタートアップシンポジウム

2026年1月19日、起業家の閔弘圭氏、ベンチャーキャピタルの細野尚孝氏、経営者であり客員教授の渋谷順氏が集うスタートアップシンポジウム「株式公開(IPO)という選択肢」を開催しました。
経営学部主催、大経大アントレプレナーシップ(ENT)塾(※)共催による、スタートアップ関連のシンポジウムは今回で4回目。対面とオンラインで合計約120名が参加しました。
テーマであるIPOとは、企業が証券取引所に上場し、広く一般の投資家から資金を集められるようになる仕組みです。開会の挨拶では、「『IPO』は学生にとって身近ではないテーマかもしれませんが、ぜひ問題意識を持って聞いてほしい」と、経営学部長で大経大アントレプレナーシップ塾長を務める江島由裕教授よりメッセージが送られました。
※大経大ENT塾:起業家精神を養い実践する課外活動で、単なる起業ノウハウではなく、事業創造の理解と実践を通じて学生の主体的成長を促す。起業家や経営者が講師として参画し、大樟春秋会(大阪経済大学 同窓会組織)の支援のもと運営。

3人の起業家・投資家が登場
左:渋谷順氏/中央:閔弘圭氏/右:細野尚孝氏

シンポジウムの前半では、登壇者3名によるプレゼンが行われました。
一人目の登壇者は、株式会社スマートバリュー代表執行役社長、渋谷順氏。渋谷氏は、1994年に祖父が創業した町工場を30歳で引き継ぎ、事業継承とスタートアップを同時に推進。2015年には倒産寸前だった同社のIPOを果たしました。
現在は創業98年目を迎えるグループの代表として、モビリティサービスとスマートベニューの2つの事業を展開しています。特に後者では、地方創生の主体者となるべく、神戸市に1万人規模の「GLION ARENA KOBE」を建設しました。
渋谷氏は、「アリーナ建設のような大規模プロジェクトを実現できた背景には、上場企業としての信頼感やガバナンスがあったと思います。また、IPOによって驚くほどたくさんの人とのつながりができました。人生の多くを費やす働く時間が充実していると感じられるだけでも、僕は上場した意味があったなと感じています」と、IPOによって得たものを振り返りました。
二人目は、株式会社Liberawareの代表取締役・閔弘圭氏。同社では、小型ドローンの開発とデータ解析を行っています。下水道の配管など狭くて危険な屋内空間の点検作業や、福島第一原子力発電所の内部調査など、人が入りにくい場所での作業にプロダクトが利用されています。
閔氏は大学院での研究員時代にバイオミメティクスやドローンの研究に携わっていましたが、研究成果がなかなか社会実装されない状況に葛藤し、自ら起業する道を選びました。2024年には東証グロース市場への上場を実現しています。
「IPOは自分がやりたいことを実現するためのプロセスです。我々が実現したい未来は、ドローンを使ってデータを集めた先の街づくり。Googleマップのように下水道などの情報を管理することで誰もが安全な社会を作り、次の世代により良い日本を残したいと思っています」と閔氏は事業への思いを語りました。
三人目のBIG Impact株式会社代表・細野尚孝氏は、ベンチャーキャピタリストです。「スタートアップ」「地域」「海外」という3つのキーワードを基に、スタートアップへの投資を行っています。投資家として13年以上、約100社に投資を行い、支援先でIPOをした企業は約20社に達します。
細野氏は、「IPOをする企業は、しない企業と比べて成長レベルが非常に高いです。もし皆さんが新しく会社を立ち上げるのであれば、実際にIPOをするかはさておき、IPOできるぐらいの成長角度で事業計画を推進するとうまくいきやすい」と学生たちに力強くエールを送りました。

IPOの目的はお金ではなく、「目指す世界」の実現にある

後半は渋谷氏がモデレーターを務め、3名でのパネルディスカッションを行いました。
「会社や事業を立ち上げる際に何からすればいいと思うか」という渋谷氏の質問に対し、「ノリで起業する人が多い」と細野氏。「自己資金で会社を立ち上げ、やっていくうちに社会の役に立ちそうか、成功しそうかが見えてくる。そこから事業計画をブラッシュアップしていくと良い」とアドバイスを送りました。
家族が経営者だったり、起業家の先輩の姿を見ていたりと、起業という選択肢を取れるかどうかは「環境も大きい」と細野氏は続けます。「起業や会社経営は、ある意味スポーツに似ていると思う。チームやライバルと切磋琢磨することが成長の近道。一人だとくじけやすい。友達やライバルの存在が重要」と語りました。
閔氏の場合も、父親に起業経験があり、ベンチャーでインターンを経験したことが起業への思いを強めたと言います。また、「ノリで会社を作った側」だったからこそ、起業後はコネクションを作るためにさまざまなイベントに参加。「たとえわからないことがあっても、知っている人たちから話を聞いて理解していくことで不安はなくせます。『こういう世界があるんだ』と実感することで、見える世界は変わっていきました」と振り返りました。
「上場して良かったですか?」という渋谷氏の問いかけに、閔氏は「難しい質問」と苦笑します。自分たちがやりたいことの実現に近づいている実感はある一方で、「より忙しくなり、顧客や従業員、株主に対する責任が増す中で、先頭に立つプレッシャーは大きい」と言います。
「社長=偉い人」というイメージもありますが、「上場後、社長の権限はむしろ小さくなった」と閔氏。意思決定や稟議のプロセスが整備され、さらにガバナンス上の問題からたとえ社長であっても勝手なことはできず、「あれ、社長なんだけどな?って思うこともあります」と会場を和ませました。
細野氏は「マーケットのトレンドを見ると、『上場をやめたい』と話す社長が増えている」と言います。ただし、7〜8年で景気は変わるとした上で、「今は不況なので、こういうタイミングで起業すると良い波に乗りやすい。再び景気が落ち込んだ時を乗り越えることで、恒久的な成長サイクルに入る。そこまでやり続けると一周回り『一生やり続ける』マインドセットになる経営者が多いと思います」と続けました。
渋谷氏は「お金が理由だと、踏ん張りが効かなくなる」と指摘し、大切なのは「どのような世界観を事業を通じて作りたいのか」という原点に立ち戻ることだと言います。閔氏も渋谷氏の発言に大きく頷き、「上場は通過点であり、一つの手段です。『やりたいこと=IPO』ではなく、安全な社会を作ることが目的であり、それを実現するために、死ぬまで先頭でやり続けるしかないと思っています。きっと負けず嫌いな人が事業をやり続けるのでしょうね」と語りました。
最後に、渋谷氏は学生に対して、「自信を持ってチャレンジしてほしい」とメッセージを送ります。
「時代や外部環境が大きく変わる今、社会人の知識の多くは古くなりつつあり、皆さんの方が持っている新しい知識やノウハウの方が有用なこともあります。重要なのは、『何をしたいのか』と『それをかなえるための手法』を知ることです。起業してIPOを目指すのも、会社員として頑張るのもいい。自由な選択肢がある時代ですので、自分がやりたいことを目指していただければと思います」と学生にエールを送りました。

プロフィール

【渋谷順氏】株式会社スマートバリュー取締役兼執行役員社長、本学客員教授。1928年創業の町工場を親から受け継ぎ、業態を転換させながら成長させて2018年に東証一部上場へ。Bリーグ所属プロバスケットボールチーム「神戸ストークス」の運営会社代表であり、2025年4月に開業する「GLION(ジーライオン)ARENA KOBE」の運営会社代表でもある。
【閔弘圭氏】株式会社Liberaware代表取締役。韓国出身。1999年に来日。千葉大学で研究員として従事し、千葉大学の元副学長野波氏が率いるロボット工学で著名な研究室で、原発関連や各種ドローン技術の開発に携わる。2016年に千葉大学の研究員を辞め、株式会社Liberawareを創業。2024年7月29日、同社を東京証券取引所グロース市場に上場。
【細野尚孝氏】BIG Impact株式会社代表取締役CEO。新卒で大手SIerに入社。経営コンサルティング会社、独立を経て、オプト(現、株式会社デジタルホールディングス)にジョイン。2013年に投資育成事業、2015年にオプトベンチャーズ(現、BondsInvestment Group株式会社)を立ち上げる。2022年独立し、BIG Impact株式会社を設立。『Forbes Japan』が選ぶ「日本で最も影響力のあるベンチャー投資家ランキング BEST10」2018年第3位、2020年第5位に選出。

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