経営学部 稲岡大志准教授と中村信隆講師が担当する「地域企業連携実習」は、学生が大阪府内の中小企業を直接取材し、現場で得た学びを発表へとつなげるフィールドワーク型の授業です。地域企業と大学が協働し、地域で活躍できる人材の育成を目指す産学連携プロジェクト「志プロジェクト」と連動した演習で、参加企業4社(千房ホールディングス株式会社・株式会社日本電気化学工業所・株式会社アピックス・日本鏡板工業株式会社)の協力のもと、授業が行われています。
今年度のテーマは「働きやすい職場」です。テーマについて、稲岡准教授は「働きやすさは就職活動で学生が重視するポイントの一つだが、企業と学生では『働きやすさ』の捉え方にはズレがある」と指摘。企業取材を通じ、そのギャップを自らの言葉で捉え直すことを狙いとしています。
授業では、取材先企業の概要などを調べる事前学習後、各チームが担当企業を取材。その内容を元に成果報告をまとめ、2026年2月12日(木)の成果報告会で参加企業4社の前で発表しました。
「働きやすい職場」とはどのような環境で、なぜ「働きやすさ」が大切なのか。企業取材を通して学生たちが考えた答えについて、プレゼンテーションの一部を紹介します。
最初のチームは、お好み焼き「千房」を展開する千房ホールディングス株式会社を取材しました。学生たちは、社員を家族のように大切にする社風や社長が社員のために誰よりも働く「逆ピラミッド」体制を紹介。
それに対し、「上司と部下の関係がほど良いこと」「ワークライフバランスが整っていること」を働きやすい職場とイメージしていた一部の学生が違和感を抱いたことから、「社長の強すぎる熱意が社員への圧力にならないように、適度な距離感と休息が必要なのでは」という提案につながりました。
「千房ホールディングスの働きやすさについて、チーム内で意見が割れた。僕は『忙しいからこそ成長がある』という社長の考えに共感したが、そうでないメンバーもいて、捉え方の違いが面白かった」と学生が振り返る通り、「働きやすい職場」と一言で言っても人によって捉え方が異なることが伝わります。
アルミニウム表面処理加工の専門企業、株式会社日本電気化学工業所を取材したチームは、同社の有給取得率に着目しました。「有給取得率が低い会社は働きにくい職場なのか」という問いを立て、「社員がやりがいや帰属意識を持って前向きに働いているからこそ、有給取得率が低いのかもしれない」と指摘。「制度やデータだけでなく、社員が会社に誇りを持てることも働きやすさにつながる」とプレゼンテーションを締めくくりました。
学生は「実際に取材したからこそ、『働きやすい=休みが多い』とは一概に言えないのだとわかった」と語ります。募集要項や採用ページの内容の背景にある実態まで踏み込んで調べる重要性を実感したことが見て取れます。
デジタル印刷、総合文書情報管理サービスを主体としたBPO事業を展開する株式会社アピックスを担当したチームは、「あなたが働きにくいと思う職場とは?」という問いかけからプレゼンテーションをスタート。労働環境を整備しすぎたことで企業の成長力が衰える「ホワイト企業のパラドックス」などの事例を挙げながら、「働きやすいのはいいことなのか」というそもそものテーマに対する疑問を呈し、「働きやすさ」は目的ではなく、あくまで企業の目的を果たすための手段だと強調しました。
「最初はありきたりな結論になってしまったが、せっかくの演習授業なのだからチームの色を出したいと思い、働きやすさの再定義をすることになった」と学生。「働きやすい=良いこと」という一般論を疑う機会となりました。
圧力容器用の鏡板を製造・販売する日本鏡板工業株式会社の取材を行ったチームは、「社員を雇うとは、社員の家族の人生を預かること」「自分の子どもに胸を張れる会社にできて初めて社員を家族と呼べる」という社長の発言に対し、「アットホームという言葉を連想し、ブラック企業が頭に浮かんだ」と問題提起。そこからアットホームという言葉へのイメージや社長が抱く家族意識を噛み砕き、同社の家族意識とは「社員とその家族の人生を丸ごと背負う社長の強烈な覚悟」だと結論づけました。
学生は「社長の社員への思いが強く、そこから生まれた福利厚生や職場風土が良いという話になったが、そこから『家族意識とアットホームは似ている』と発展していった」と振り返ります。「アットホーム=ブラック企業」という画一的な見方を見直すことができたようです。
4チームによるプレゼンテーションに対して、稲岡准教授は次のように総括します。
「企業取材は、ただ批判するだけでも、賞賛するだけでも成り立ちません。企業側も学生の率直な意見を期待しているため、内容がきれいにまとまりすぎないことも大切です。学生たちはそのバランスに悩みながらも、それぞれの視点で企業を捉えた発表をしてくれたと思う」
就職活動では福利厚生や離職率、有給休暇の取得日数など、比較しやすい情報に目が向きがちですが、実際の働きやすさには職場の雰囲気や人間関係といった目に見えない要素も影響します。「そのことに企業の皆さまと接する中で気づけたことは、学生にとって大きな学びになった」と稲岡准教授は続けました。
学生たちも、「仕事はお金を稼ぐことだと思っていたけど、職場の人間関係も大事だと気づいた」「社員一人一人を成長させようという社長の話を聞いて、ただ楽なだけではなく、自分を成長させてくれる企業こそが本当に働きやすい職場なのだと考えが変わった」「身体的な働きやすさだけでなく、精神的な安心感も大事なのだと実感した」と、プレゼンテーションを終えて、意識の変化を語っていました。
こうした変化は「直接話を聞いたからこそ」と学生たちは口をそろえます。「働いている人の声を聞いて、仕事のやりがいや働きやすい制度に対するイメージが変わった」「数値だけではわからないことがあると実感したので、就職活動でもたくさん質問をしたい」という学生も。データだけでは見えない現場のリアルに触れた経験は、就職活動や将来のキャリアに関する学生たちの視点を大きく広げるきっかけとなりました。