2026.11.06
学部・大学院
「自分起こし」が「地域起こし」になる。牧大介客員教授が語るローカルベンチャーの本質

2026年10月9日(金)、経営学部客員教授講演会「そこにあるものからビジネスを生む ローカルベンチャーという挑戦」を行いました。経営学部主催、大経大アントレプレナーシップ(ENT)塾(※)と共催での開催です。
登壇したのは2026年度より客員教授に就任した、株式会社エーゼログループ代表取締役の牧大介氏です。講演には対面とオンラインで合計約130名が参加。大阪経済大学の学生だけでなく、高校生や社会人、自治体、経済団体、学会など、幅広い参加者が集まりました。
経営学部長であり、大経大アントレプレナーシップ塾長も務める江島由裕教授は、「『 ローカルベンチャー』という言葉は牧さんの活動そのものを体現するキーワードです。 過疎地域あるいは消滅可能性自治体と言われた場所を見事に立て直し、活性化させた立役者であり、根っこがしっかりしたアントレプレナーですから、とても面白い刺激を得られると思います」と冒頭に挨拶をしました。
※大経大ENT塾:起業家精神を養い実践する課外活動で、単なる起業ノウハウではなく、事業創造の理解と実践を通じて学生の主体的成長を促す。起業家や経営者が講師として参画し、大樟春秋会(大阪経済大学 同窓会組織)の支援のもと運営。

「多様性と密度」を軸に、地域経済を作る

「未来の里山をつくる」をビジョンに掲げるエーゼログループ。大量生産、大量消費のビジネスの方が強いとされ、過疎地域は勝ち目がないとされる中、「地域にあるもの」で新しいビジネスを生み出すチャレンジをしてきました。
牧氏は「多様性と密度」をキーワードに挙げます。花と昆虫のように、お互いが相乗効果を生める共生的な関係の密度を意識的に上げることで、地域経済を上昇させようと試行錯誤をしてきました。
「人と自然の関係が比較的うまくいっていた経済社会のシステムとして里山がありましたが、今はうまく回っていません。大量生産、大量消費の循環が見えない経済ではなく、自分たちの命や人生と自然の循環を感じられる未来を作りたいと思い、人と自然が共生しながら、経済も元気になっていく新しい里山のかたちを考えています」
同社では「未来の里山」を「かつての命の蓄積の上に、さまざまな命がお互いを守り、活かし合う関係があり、それを実感することで感謝の気持ちが自然と湧いてくる社会」と定義。社名の「エーゼロ」もまた、森林土壌の表層にある堆積有機物層「A0(エーゼロ)層」を表しています。「リアルな自然の土壌という意味でも、文化や経済、育み応援し合う文化といった風土の意味でも『土』を意識している」と牧氏。A0層によって豊かな土壌が守られ、未来に向かって育っていくように、地域の土壌作りを行う会社を目指しています。
「土壌の一番下にはさまざまな生き物の命の蓄積がありますが、地域もまた、そこで生きてきた人たちの営みの蓄積に大事なものが詰まっています。たくさんチャレンジし、たくさん失敗するほど、良い土ができる。僕らの挑戦や失敗が最終的に土地の土壌になるのは、幸せの一つだと感じています」
AIやロボットが普及し、人間が働く必要がなくなったとしても、「身体性を伴う遊びの世界は残る」と牧氏。地域の自然で遊び、自然を取り戻していく中で、地域の経済も元気になっていく未来を描いています。
「人類は約1万年前から農耕を始め、文明が生まれました。その中で生物として喪失したものもあって、その一つが遊びの世界だと思っています。人類が野生を取り戻すことへの関心は世界的にも大きいと感じますので、追い風を受け止めていきたいです」

重要なのは、事業を立ち上げる人の「自分起こし」

エーゼログループは岡山県西粟倉村の木材加工事業から始まり、現在では北海道厚真町や滋賀県高島市など、全国5地域に活動を広げています。介護や農業、ジビエ、コンサルティングなど、事業内容も多岐に渡りますが、「ビジネスモデルの起点は火中の栗拾い」だと明かします。
「岡山県西粟倉村の木材加工事業は斜陽産業でどうにもならない状況でしたが、誰かがやらなければ森を起点とした経済循環は作れません。村で唯一の介護事業も『赤字のまま引き継いでほしい』という無茶振りを受け、3000万円の赤字事業を引き受けました。地域から介護事業をなくすわけにいかないからです。そうやって地域に必要な事業をどうにか軌道に乗せつつ、コンサルなど高収益事業で得た利益を地域に投資してきました」
地域創生でよく使われる「地域資源」という言葉を「避けている」と牧氏。「山や川があり、空気が綺麗といった無属性な話に収まりやすく、枠が狭まってしまう」とその理由を語ります。
「新しいビジネスの創出は、誰も想像しなかった可能性を発見する冒険的なプロセスです。提示された選択肢から新しい価値は生まれません。起点になるのは事業を作る人自身の気持ちであり、それによって新しい挑戦が生まれ、その人自身が輝いていくプロセスを、僕たちは『自分起こし』と呼んでいます。地域に生きる一人一人の『自分起こし』の情熱がチリも積もれば山となり、結果として『地域起こし』になるのです」
「多様な経済を地域で検証するのがローカルベンチャー」と牧氏。大きな会社がなくとも、小さな取り組みを積み重ね、横で連携を取りながら全体が成り立つような地域経済の在り方を意識していると言います。事業を行う人自身が好きなことをやり、それを受け止める人が数百人いれば成り立つようなニッチなビジネスの集合体が、牧氏がイメージする「多様性と密度の経済」です。
例えば岡山県西粟倉村では、地域に閉じていた採用をオープンにし、移住者を受け入れるために、小さな会社の集合体として「村の人事部」を作り、地域の採用基盤を整備。人を集めるために村のビジョン「百年の森林(もり)構想」を打ち出し、村の面積の約95%を占める森林を100年かけて育て、持続可能な価値へと変えていくコンセプトを示しました。
「2008年に『百年の森林構想』を掲げてから、西粟倉村の課税所得は大幅に伸びています。高齢化は進んでいますが、働く人が増えている。地域の経済全体は縮んでいるけれど、その中で新しい価値を生む人を増やそうとした結果、全体のパイを増やすことに成功しているのです」

応援する文化ができると、挑戦の連鎖が起きる

自然を豊かにすることをベースにさまざまなチャレンジを重ねた結果、西粟倉村では、エーゼログループ設立から約20年で、村内に60社以上の会社が生まれ、それらの売上は合計で二十数億円、約70人の雇用が創出されています。それらは全て「行き当たりばったりではなく、行き当たりばっちり」の結果だと牧氏。行動の結果を成功、失敗と捉えるのではなく、何が分かったのか、やってみたこと自体にどのような意味があるのか、プロセスに未来への意味を見出せれば、「行き当たりばっちりになっていく」と続けます。
「地域経済を作るには掛け算が必要だという方は多いですが、僕はまず足し算だと思っています。意図的に足し算をする中でプレイヤーが増え、イキイキとチャレンジする多様な人たちがいる結果として掛け算が生まれるのです」
ローカルベンチャーというムーブメントを西粟倉村と共に仕掛けてきたエーゼログループ。ムーブメントが全国的な広まりを見せる一方、新事業を立ち上げる人をただ増やそうとするのは「表面的な話」だと指摘します。
「最も大事にしなければいけないのは、地域の土壌作りです。新事業を立ち上げる人が、その人自身の人生を輝かせて『自分起こし』をすることを、時に失敗を受け止めながら応援し合う。そういう文化の定着こそ、本質的にやるべきことです」
西粟倉村の次の舞台となった北海道厚真町でも、地域の大きな目標として応援する文化を育むことを役場と共に掲げ、新事業を立ち上げる本人の感情を大切にメンタリングを行っています。そうやって応援する文化ができると、「挑戦の連鎖が起きる」と牧氏。
「例えばローカルベンチャープログラムに参加された厚真町のお母さんの場合、一生懸命なお母さんの姿を見た家族が『自分も何かやってみようかな』と考えるようになりました。お母さんが踏み出した一歩によって、家族に挑戦が連鎖し始めているのです。一人の挑戦は、その人自身の別の挑戦につながり、また他の人の挑戦にもつながる。地域と向き合い、一人一人の『自分起こし』を応援するのは、本当に面白いなと思います」
講演後の質疑応答では、次々と質問の手があがりました。質問はオンラインからも寄せられ、参加者の関心の高さがうかがえます。
最後に江島由裕教授は「京都府出身の牧さんは約20年間、岡山県西粟倉村で挑戦し続けてきました。そこには執念や泥臭い粘り強さなど、合理的な判断を超えた熱量があったのだと思います。だからこそ数々の困難を乗り越え、数十億円の売上や多数の雇用創出に至ったのであり、『やろうと思えばできる』ことを感じさせてくれました」と講演会を締めくくりました。
「そこにあるもの」から価値を生むのは、地域資源の有無ではなく、一人一人の「やってみたい」という思いと、挑戦や失敗を受け止め合う文化。牧氏の約20年の歩みは、これからビジネスを志す学生にとって、行動の一歩を後押しする示唆に満ちたものとなりました。

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