2023.12.14
イベント・講演会
渡邊智惠子客員教授による公開特別講座「着るを資源(エネルギー)に」
繊維のゴミを資源にする「サーキュラーコットンプロジェクト」

2023年10月31日(火)、本学客員教授であり、一般社団法人サーキュラーコットンファクトリー(CCF)代表理事を務める渡邊智惠子氏を講師に迎え、公開特別授業「着るを資源(エネルギー)に」を行いました。繊維のゴミを資源にする「サーキュラーコットンプロジェクト」を推進しているCCF。この授業は、経済学部の特殊講義「ソーシャルビジネスと持続可能な資本主義」の一環として、広く一般に公開する形で実施されました。前日から5日間、学内のメインロビーでは、CCFによる大阪初のアート展「CCF Art Project」も開催。学生たちはそれらの作品を見たうえで受講し、CCFの活動について熱心に聴き入りました。

[プロフィール]
渡邊智惠子氏
1985年、株式会社アバンティを設立。1990年より日本でのオーガニックコットンの啓蒙普及に取り組み、日本でのオーガニックコットンの製品製造のパイオニアに。企業活動以外に、オーガニックコットンの啓蒙普及と認証機関としてのNPO日本オーガニックコットン協会を設立。グローバルスタンダードの基準づくりにも関わる。2016年、一般財団法人森から海へ、代表理事就任。2017年、一般財団法人22世紀に残すもの発起人として活動を始める。2020年からは、繊維のゴミを資源にする「サーキュラーコットンプロジェクト」を展開。一般社団法人サーキュラーコットンファクトリーの代表理事を務める。

繊維ゴミから紙をつくりだすことで、CO2排出量の大幅な削減に

私たちの着ているものが、いかに環境にダメージを与えているのか。着なくなれば、その多くが一般ゴミとして捨てられているのが現実です。一方で、新品のままゴミにされていることも少なくないのだと渡邊氏。「大変ショッキングな映像がございます」と、少し前まで店頭に並んでいたという洋服や服飾品が、細かく粉砕され焼却炉へと運ばれる様子を動画で再生。こういったことは世界各国で行われているのだと語ります。

30年以上前、自然環境や生産者の健康にダメージが少ないオーガニックコットンに惚れ込んだ渡邊氏は、それを広めたい一心で事業を拡大。原綿の輸入から、糸や生地、アパレル製品の企画、製造、販売まで一貫して手がけています。しかしあるとき、繊維業界が今や世界2番目のゴミの排出産業になっているのを知ることに。世界のゴミで14%を占めるのが繊維。2022年には、79.8万トンの服がつくられ、52.1万トンが捨てられたのだそうです。

2022年に環境省が出したデータによれば、繊維のリサイクル率はわずか15%しかありません。一方、紙の場合は、79.5%が回収されています。日本の古紙利用率は66%と、世界トップクラス。もし繊維を紙にすれば、このリサイクルのサーキュラーに入っていくことができます。そこで渡邊氏は、繊維ゴミを原料とした紙、サーキュラーコットンペーパーをつくり、活用しようと2011年3月にCCFを立ち上げました。

繊維ゴミから紙をつくれば、CO2の排出量はどれだけ削減されるのか。高知県立紙産業技術センターのデータによれば、森林を伐採して紙をつくる場合、およそ185kgのCO2が発生しますが、廃棄される衣服を燃やさず紙にすれば100kgに。つまり85kgものCO2が削減されるのだそうです。

日本のお祭りで使ったサーキュラーコットンペーパーを、クリスマスツリー、さらにラベルへ

紙の需要が少なくなってきたとはいえ、紙でなければいけないものも少なくありません。CCFのパートナーである本学は、実は卒業証書にサーキュラーコットンペーパーを活用しています。「皆さんから集めたTシャツなどが卒業証書になるのは、素敵なサーキュレーションだと思いませんか」と渡邊氏。繊維からつくった紙を卒業証書にする取り組みは、日本でも初めてのものだといいます。

このようにCCFでは、回収コットンから紙をつくって活用するプロジェクトを各地で展開。100件に達したら、「洋服で未来をつくる100 Project」として書籍化する予定だそうです。たとえ良いものであったとしても、押しつけるのはよくないというのが渡邊氏の信念。
「オーガニックコットンも、ダサくても着てくださいというのがすごく嫌だったんです。いくら正しくても、自分の生活に取り入れたくなるような、オシャレで洗練されたものでなければ浸透しない。サーキュラーコットンペーパーも楽しかったり美しかったりするものであってほしいんです」

サーキュラーコットンペーパーは、大手製紙会社による紙とは違い、1日に数トンしか製造できないような工場でつくられているため、値段は安くありません。だからこそ、活用法を示すアイコンも重要になってきます。その一つが、青森県のお祭りに使う巨大な「ねぶた」です。

ねぶたに使われる紙の原料は、青森のホテルや病院などで役目を終え、廃棄されることになったシーツやタオル。地元の資源が地元のお祭りに再利用されているわけです。さらに祭事終了後は、CCFのパートナー企業であるKMSD株式会社とねぶた師である福士裕朗氏が実施しているプロジェクト、ねぶたのアップサイクル[NEO ART]として、百貨店のロビーに飾られるクリスマスツリーに転用。約1カ月間、飾り終えると、今度はシードル(りんごのお酒)のラベルへとアップサイクルされたといいます。

「廃棄物は資源」と考える取り組みを一般化させ、世界に広めたい

同時開催されていた「CCF Art Project」は、7月に東京で開かれた6アーティストの展示に、4人の作品を加えた巡回展。サーキュラーコットンペーパーなどの素材を提供し、作品をつくってもらうという試みです。同会場では、9月に行われたクリエイションの祭典「NEW ENERGY」で発表された、「トレランス・ポスター展」でのサーキュラーコットンペーパー使用作品もあわせて展示されていました。
渡邊氏が学生たちにコメントを求めると、「白い花の作品が美しかった」といった感想が。渡邊氏から学生に対しても、「アーティストの作品を発想の原点にして、どうすれば楽しくオシャレな提案ができるか、次なるイメージをつくっていただけたら」と期待が寄せられました。

質疑応答の時間には、学生から「海外での活動もされているんですか?」という質問が。実は「CCF Art Project」の10作品は、11月にインドネシアで行われる2つのデザインフォーラムに出展されるとのこと。サーキュラーコットンペーパーでつくられた花や、ねぶたなどがジャカルタのアーティストらの目に留まり、招待されることになったのだそうです。
「50%ものコットンを入れて紙をつくっている国はどこもありません」と渡邊氏。「紙をつくるには原料だけではなくて、水が必要です。そのきれいな水が日本には大量にある。地理的好条件も紙づくりに寄与しています」と教えてくださいました。

学生から今後の目標について訊ねられると、「現在、120社ほどのパートナー企業を500社くらいまで増やしたい。そして、この活動を特別な人たちではなく、みんなが一緒に取り組めるものにして、世界に広めていきたい」と回答。「廃棄物は資源」と考え、循環型のプロジェクトに取り組む渡邊氏の姿勢には、学生たちも感銘を受けたようです。

CCFでは繊維ゴミを原料に、紙だけでなく建築資材となるボードもつくっています。このように、回収した繊維を異素材と組み合わせて新しいものをつくったり、新しい何かに活用したりといった取り組みは、まだまだ発展途上です。若い人たちのアイデアが重要だという渡邊氏の熱弁を受けて、今後どういった展開が考えられるか、学生たちの間でもワークショップが実施されることに。未来につながる特別授業となりました。

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