2024.04.12
イベント・講演会
経営学部開設60周年シンポジウム「関西企業のダイバーシティ&インクルージョン推進~企業における“多様な人材の活躍”の現在地」
関西企業3社のD&I推進活動とその効果とは

経営学部は、2024年に開設60周年を迎えます。その記念イベントのひとつとして、2024年2月28日、60周年シンポジウム「関西企業のダイバーシティ&インクルージョン推進~企業における“多様な人材の活躍”の現在地」を開催。関西の企業でD&Iを推進する3人のゲストスピーカーに自社の取り組み内容をお話しいただき、続けて、パネルディスカッションと質疑を行いました。現場の声を聞けるとあって、参加者にはビジネスパーソンや経営トップの方が多く、学生、院生、一般の方などとあわせて約150名の方に参加いただきました。

【プロフィール】
◉ファシリテーター

船越 多枝 大阪経済大学 経営学部経営学科 准教授
博士(経営学)。外資系企業を含む複数の企業での勤務を経て、日系企業でダイバーシティ推進、国内外の人材開発、企画管理などにマネージャーとして携わる。2013年神戸大学大学院研究科専門職学位課程(MBA)修了。2019年3月同経営学研究科博士課程後期修了。2023年4月より現職。専門は組織行動論。特にダイバーシティに効果をもたらすインクルージョンに着目。著書に『インクルージョン・マネジメント:個と多様性が活きる組織』(白桃書房)がある。

◉ゲストスピーカー
藤原 恵 氏
ヤンマーホールディングス株式会社 人事部ダイバーシティ推進グループ課長
1997年、ヤンマーディーゼル株式会社(現ヤンマーホールディングス株式会社)に一般職として入社。その後、総合職に転換し、主に研究開発マネジメント領域での経験を積み、技術経営や商品化プロセス改革活動を推進。2018年に管理職に昇格。2020年より現職においてヤンマーグループ全体のダイバーシティ推進、健康経営、エンゲージメント向上に取り組む。

森下 薫 氏
株式会社神戸製鋼所 人事労政部 担当部長
大学卒業後、日系総合リース会社や外資系オートリース会社で法人営業を経験後、自動車部品メーカーに転職して人事部で採用・人材育成を担当。活動の一環で、組織横断的チーム「Shine.net」を立ち上げワークライフバランスをテーマとしてダイバーシティ活動を推進。2019年に神戸製鋼所に入社し、ダイバーシティ&インクルージョン推進を担当。現在の所属でも組織横断的チーム「ダイバーシティネットワーク」を立ち上げ、多岐にわたる活動を展開している。

小島 括俊 氏
平安伸銅工業株式会社 カルチャーグループ長
株式会社ブリジストンに新卒入社し、国内・海外営業やマーケティングに従事。2017年、平安伸銅工業株式会社の3代目代表取締役に出会い、ビジョンに共感して転職。ビジョンやバリューを浸透するためのPodcast企画「平安ラジオ」、組織変革に向けた施策・制度設計、採用活動を含めた人事業務など、多方面な取り組みに従事。2020年に2カ月間の育児休暇を取得。2021年に神戸大学大学院MBA修了。

なぜ今、さらなるダイバーシティ&インクルージョン(D&I)が必要なのか?

ビジネスの現場で昨今よく耳にするダイバーシティ(Diversity:多様性)&インクルージョン(Inclusion:包摂)とは、多様な人材がお互いに違いを認め合い、能力を発揮することで成長につなげようという考え方です。少子高齢化やグローバル化といった変化の激しい時代において、D&Iによって多様な人材の活躍を推進することが企業にとって喫緊の経営課題となっています。

冒頭、ファシリテーターを務める船越多枝准教授が企業経営でD&Iが重要視されている理由について説明し、2つのキーワードを挙げました。1つ目は「評価の向上・イノベーション」。多様な人材がいることで視点が広がり、商品やサービス、プロセスのイノベーションが起こりやすくなります。また、ダイバーシティ経営を実践していることは社会的な認知度や評価だけでなく、社員からの評価の向上にもつながります。2つ目は「企業自身のサスティナビリティ」。2023年3月期決算から、人材育成や女性活躍といった人的資本の情報開示が上場企業などを対象に義務化されました。このような要請への対応が、投資家や顧客から選ばれるには必須となりつつあり、それは企業の持続性に少なからず影響します。

「組織においては、ダイバーシティとインクルージョンの両方が揃ってメリットにつながるといわれています。ダイバーシティは数値目標などで可視化し易い部分がありますが、インクルージョンは帰属感を感じられているか、自分らしさが発揮できているかなど、社員個人の認識なのでなかなか見えにくい。本日は、“D(多様性)”だけでなく、“I(インクルージョン)”の認識を高める取り組みについても、企業の皆様にご教示いただき、活発なディスカッションをしたいと思います」と船越准教授はシンポジウムの意義に触れました。

「国際女性デー」をきっかけに、ジェンダー平等・D&Iについて考える(ヤンマーホールディングス)

続いて、各ゲストスピーカーより自社の取り組みが紹介されました。最初に登壇したのは、ヤンマーホールディングス株式会社の藤原恵氏。テーマは「ヤンマー・国際女性デー~感謝を伝え、ダイバーシティ&インクルージョンを考える1カ月に~」です。

ヤンマーホールディングスでは、以前から育児短時間勤務など働きやすい制度の整備を進めており、2020年には人事部内にダイバーシティ推進グループを設置。「DIVERSITY FOR YANMAR」というD&Iポリシーを13カ国語に翻訳して各国の現地法人で展開しています。研修など地道な活動を続けてきたものの、「グッと意識を変えるようなきっかけが必要。グループ全体でさらなる風土醸成の仕掛けをしたいと考え、国際女性デーの1カ月間に、社内イベントを実施することにしました」と藤原氏は話しました。

3月8日の国際女性デーは国連が定めた記念日で、黄色いミモザの花がシンボルです。この日をヤンマーにとっての“ダイバーシティ”を考えるきっかけとなる日にしようと、さまざまなイベントを行いました。例えば、インターネット上の特設サイトでトップ対談を行った他、国内外の女性マネージャーのメッセージを紹介。これは評判が高く、藤原氏自身も「ヤンマーグループにこんなに女性マネージャーがいたんだという発見になった」といいます。

その他、日本国内の各工場や営業拠点、事務所などでポスター掲示や装飾を行ったり、3月8日に食堂で黄色い食材を使ったメニューを提供するなど、多くの社員の目に触れるよう工夫。海外でも、オフィスの装飾、座談会、お菓子づくりイベントなどを開催しました。ただ、地域によっては「なぜ女性だけのイベントを?」というネガティブな反応もあったため、それぞれの国の文化や特性に応じた活動を行うようにしたといいます。

このヤンマー・国際女性デーは2023年から2025年までの3カ年計画。藤原氏は「社内で“女性”を名目に掲げたイベントは永遠に続けるものではないと思っています。2026年以降は、よりいろいろな社員が関わるイベントに進化させたい」と話しました。

会社主導の取り組みに加え、草の根活動も展開(神戸製鋼所)

株式会社神戸製鋼所の森下薫氏は、「KOBELCOのD&I推進活動 “私らしく KOBELCOらしく 全員活躍”」とのテーマで話しました。神戸製鋼所では2014年にダイバーシティ推進室を設置。当時、総合職・管理職の女性社員の定着率が低かったことから、まずは女性の活躍支援、仕事と育児の両立支援からスタートしました。今では“私らしく KOBELCOらしく 全員活躍”のキャッチフレーズのもと、多様性理解・活用、多様な働き方支援、コミュニケーション向上などに活動を広げています。また、人事主導の活動からグループ全体へと活動の幅も広げました。

「サステナビリティ推進委員会の下部組織としてD&I・働き方変革推進部会をつくり、事業部門の人事担当者が毎月D&Iについて議論するようにしました。加えて、有志によるダイバーシティネットワークの草の根活動も始め、関連会社を巻き込んだD&I交流会も開催しています」と森下氏は説明。

活動の目的としては、ダイバーシティでは女性やキャリア採用、外国籍、LGBT、障がい者などいろいろな中核人材・リーダーのいる組織を目指し、インクルージョンでは働き方改革や働きがい向上を目指しています。

特徴的なのは、有志メンバーが自身の職場のD&I推進を目指す草の根活動「ダイバーシティネットワーク」です。毎年4月に参加希望者を募集し、活動期間は原則2年間。月10時間を目安に就業時間にチームで活動します。チームのテーマは、外国籍社員の活躍、技能系社員の活躍、D&Iの社内認知度向上などさまざま。例えば、チーム「コベルコチャレンジドピープル」は、環境・意識・情報のバリアのない環境づくりを目指し、公式HPの地図に着目。車椅子でもアクセスできるようバリアフリーマップを作成しました。今後、公式HP掲載のすべての地図をバリアフリーマップに改定する予定だといいます。
「私では気づけなかった内容です」と森下氏。「多様な視点があることで初めて新しい活動が生まれます。取り組みだして3年弱ですが、少しずつ成果が出てきています」

多様なユーザーに応えるため社員の多様性を活かす(平安伸銅工業)

平安伸銅工業株式会社の小島括俊氏は「中小企業のD&I~パーパスを軸とした取り組み~」とのテーマで自社の活動を紹介しました。1952年創業の平安伸銅工業はつっぱり棒の製造で成長。一時期業績が悪化したものの、2015年の3代目社長就任後は、つっぱり棒製造で培った技術を活用し、新市場開拓などの積極的な事業変革を行って業績を改善しています。2014年と比べると2022年時点で中途入社は46名増え、女性比率は30%から54%に増加。外国籍社員やコロナ前からリモート勤務の社員もいるなど、小規模ながら多様な背景を持つメンバーが在籍しています。

ただ、小島氏によると特にD&Iを意識したわけではなく、「アイデアと技術で『私らしい暮らし』を世界へ」というビジョンの達成を目指すと、結果的にD&I推進になったとのこと。
「つっぱり棒を使う人は、若い人からお年寄り、郊外の人や都市部の人など多様です。この方たちの『私らしい暮らし』を実現するには、商品もプロモーションも多様でないといけない。そのためにメンバーの多様性を最大限に活かすのが最短距離だと考えました」

ビジョン達成の取り組みとして、小島氏は「パーパスの解像度をあげる」「一人ひとりの才能爆発」という2つの切り口をあげました。(平安伸銅工業では、ビジョン、ミッション、バリューをまとめてパーパス(Purpose:目的)と呼んでいます。)

「パーパスの解像度をあげる」では、経営トップ自らが150本以上のつっぱり棒を用いて動画配信したり、Podcast(インターネットを通じた配信音声番組)を活用した「平安ラジオ」で社員がそれぞれの『私らしい暮らし』を発信するなど、会社の考え方を理解・共有する施策を実施。「一人ひとりの才能爆発」では、会社とのミスマッチを減らすために十分な時間をかけて面接を行ったり、社員が自分の目標や挑戦したいことを描くマイミッション作成などを行っています。
こうした取り組みの結果、「それまでの内向き視点からビジョンに目が向くようになり、社員発の新サービス・新ブランドの立ち上げにつながりました」と小島氏。エンゲージメントスコアの向上も見られると成果を語りました。

3名のゲストスピーカーが話す内容はまさに三者三様。グローバル企業と中小企業の取り組み、世界同時イベントや草の根活動など、さまざまな実例に触れることができました。船越准教授は「D&I推進においては、キーパーソンを巻き込み、目的を明確にして組織内でその意義をしっかり共有することが大切」と述べました。今回のシンポジウムは、それぞれの企業や組織でD&I推進の意義や可能性について考えるよい機会となったのではないでしょうか。

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