大阪経済大学では、2001年からエッセイコンテスト「17歳からのメッセージ」を開催しています。毎年、3万人を超える全国の高校生が参加し、テーマに基づいて、心に秘める今の想いや悩み、意見などを寄せてくれています。「17歳からのメッセージ」の魅力、意義とは何でしょうか。審査員長の辻晶子先生、昨年、学生審査員長を務めた矢田将之さん、高校3年生のときにグランプリ受賞を果たした板井京介さんの3人に、それぞれの立場からお話しいただきました。

●参加者紹介(肩書・学年等はインタビュー時のもの)
辻 晶子先生(写真左)
経営学部講師。「17歳からのメッセージ」審査員長。専門は中世日本の仏教文学や日本語ライティング教授法の研究など。
矢田 将之さん(写真右)
経済学部2年。第23回「17歳からのメッセージ」で学生審査員長を務めた。本年度も学生審査員として参加予定。
板井 京介さん(写真中央)
情報社会学部1年。高校3年生のときに、第23回「17歳からのメッセージ」テーマ1の部門で、グランプリを受賞。作品名は「『無理』という言葉」。
――板井さんが「17歳からのメッセージ」に応募した理由を教えてください。
板井
僕の出身高校では、国語の授業で全生徒が「17歳からのメッセージ」を書くことになっています。ちょうどタイミングがよかったこともあって、母からの言葉をたくさんの人に知ってもらいたいと応募しました。
辻
ありがたいことに、国語科教育の中で「17歳からのメッセージ」に取り組んでくださっている高校が多くあります。板井さんの出身校は、以前から参加してくださっていますが、グランプリ受賞は板井さんが初めてでしたね。
板井
はい。受賞を聞いたときは信じられませんでした。担任の先生に「職員室に来て」と言われたんですが、そのとき図書室の本を借りたままだったので「怒られる!」と思っていたんです。でも、行ってみると、いつもは強面の先生がニコニコして「獲ったよ、グランプリ」って。本当にびっくりしました。
辻
高校へ表彰訪問に伺ったときには、校長先生をはじめ教頭先生や国語科の先生など、たくさんの先生が来てくださいました。板井さんがグランプリを獲ったことは、クラスでも発表があったのですか?
板井
国語の授業でもありましたし、全校生徒に向けて体育館でも発表されました。みんな「おおーーっ!」という感じで、反応がすごかったです。
辻
その後、まさか本学に入学してくれるとは。今度は是非、審査する側(学生審査員)としても活躍してほしいです。
――作品のテーマやどんな想いで書いたのか教えてください。
辻
第23回は、テーマ1「今までの自分、これからの自分」、テーマ2「自分が思う、『多様性のある暮らし』とは」、テーマ3「今、これだけは言いたい!」の3つのテーマがありました。板井さんはテーマ1を選んだのでしたね。
板井
はい。タイトルは「『無理』という言葉」です。僕が書いていたときが、ちょうど今までの自分とこれからの自分との分岐点でした。母の言葉のおかげで、自分の言う「無理」は「無理だった」ではなく、「無理だろう」という仮定だったと気づきました。
辻
お母様からかけられた言葉を中心にして書かれたんですね。
矢田
どんなシチュエーションで言われたんですか?
板井
いろいろな大学を検討していた時期で、テストの点数が悪くて「この大学はもう無理やろ」となって…。結果が出る前から諦めて親に話していたときに言われました。
――板井さんの作品を読んでどう思いましたか。
矢田
冒頭の「私には夢がありません」という文章が印象に残っています。自分も17歳のときは夢がなかったと思い出させてくれました。夢がない、目標がない、向かう場所がないから、先が見えないという経験が自分にもあって、だから「無理」となってしまう気持ちがよくわかりました。
辻
先が見えなくて怖いから、やる前から諦めてしまうことって誰にでも経験があることです。
矢田
はい。やりたいことが見つかると、そちらに気をとられてしまって、見つかっていなかったときのことは忘れてしまいがちです。板井さんの作品を読んで、改めて気づかせてもらいました。
辻
「17歳からのメッセージ」を書いている時期は、これから高校を卒業して進学や就職をするなど、生活が大きく変わるタイミングですから、迷ったり焦ったりすることが多いと思います。でも、大人からは「夢を持ちなさい」「将来は何になりたいの?」といっぱい投げかけられる。夢が見つからない焦りと見つけなければいけないという焦りで、すごく揺れ動く時期です。板井さんは、そのときのモヤモヤをちゃんと受け止めて、さらに言葉にしている。「生きていく力のある人だな」と感心して読みました。

――矢田さんが学生審査員長になったきっかけを教えてください。
矢田
KVC(在学生・保護者・教職員用サイト。Keidai Virtual Campusの略)のお知らせで知って応募しました。僕は大学に入学してから、その時々で思っていることを書き留めるようにしているんですが、高校生のときはやっていませんでした。「17歳からのメッセージ」に関わることで、高校生だった自分が考えていたことをちょっとでも思い出せればと思ったのです。そこから何か得られるかもしれない、また新しい視点があるかもしれないですし。
辻
その「やってみよう」という気持ちは大切ですね。さらに矢田さんの場合は、審査する立場になることで自分をもう一度探そうとしている。そんな風に学生審査員をやってくださっているのはありがたいことです。
辻
5年前、本学に着任した最初の年に審査員をさせていただいて、その後は一旦離れて、去年から審査員長として復帰しました。長く経済学部の近藤直美先生が審査員長をされていましたが、私も近藤先生と同じく専門分野が文学でして、そのご縁で後を引き継ぎました。「17歳からのメッセージ」の審査員は、着任後、初めて関わった仕事でとても印象に残っていたんです。責任は重いですが、審査員長として復帰できたことをうれしく思っています。
――審査にあたって大切にしていることは何ですか?
辻
以前から継続していることですが、生の声であることを大切にしています。きれいごとやどこかで聞いたような言葉ではなく、多感な17歳から出てくる魂の言葉が書かれているものを選びたいと思っています。だから、文章として多少稚拙な表現があったとしても、それはむしろその人らしい文章だとポジティブに受け止めています。うまい文章ではなく、みずみずしい文章、リアルな文章を選びたいと、他の審査員とも話しています。
矢田
僕も、本当にそのときのその想いを書いたんだろうなと思える作品を選びたいと思っていました。板井さんの作品は自分にも経験のあるテーマでしたが、自分がしたことのない経験をしている人もいるし、こういう想いもあるんだと気づかされます。
辻
本当にいろいろなことを考えているんだなと思いますね。人は一人ずつ違って一人ずつ思想があるわけですが、みなさんの文章を読んでいると、本当にみんな一生懸命自分の人生を生きているんだなと感じます。その経験をどこかでちゃんと言葉にするというのはとても大切なこと。

――「17歳からのメッセージ」の魅力は何だと思いますか。
矢田
自分の経験なんですが、書いて初めてわかることがたくさんあります。なんとなく思っていても、書いてみたら実は違う感情だったり、違う思いだったり。書いてみないとわからないことがある、そう気づけるのが魅力だと思います。
板井
重要なのは、グランプリに選ばれるとか賞をもらえるとかではなく、自分の思いを書くことで、改めてもう一回自分で思い返すことができることだと思います。言葉にすることで、自分の中に留められる。すると、あとの行動も変わるというか。僕も、「無理だった」と思えるほど努力しようと意識するようになりました。
辻
言葉はその人が生きてきた証なので、それをきちんと記録しておくのは大事な作業だと思います。それは「生」を支えるとても大事な営みです。何十年かあとに段ボールの中から出てきたのを読んで「こんなこと書いていたのか、アホやな」と笑ったり、「こんなこと考えていたんだ」としみじみしたり。かつての自分の生きてきた轍を振り返るものになっていく。「17歳からのメッセージ」がそういう機会であればとてもうれしいと思いますし、今後もそうあってほしいです。教員として、なんて幸せな仕事をさせてもらっているんだろうと思います。
――今後、新たに取り組みたいと考えていることはありますか。
辻
これまで「17歳からのメッセージ」は主に学外、高校生に向けて発信してきましたが、これからは学内にもPRしたいと考えています。その目的は、在学生に対しては「自分が17歳のときはどうだったかな」と、振り返りの場にしてほしいというのがひとつ。また、この「17歳からのメッセージ」はとてもいい企画なので、在学生や教職員の誇りとして母校愛の一助になればいいなと思っています。「17歳からのメッセージ」受賞作品集はホームページでも読めますが、小冊子にして教職員に配布しています。読んだ方から、「良かった」「感動した」などのお声をいただきました。
――最後に、高校生に向けてメッセージをお願いします。
矢田
ぜひ参加して書いてほしいと思います。最終的に送らなくてもいいし、完成しきらなくてもいいんです。なかなか貴重な機会なので、友達にも「こんなのがあるよ」と教えてあげてほしいと思います。
板井
17歳は葛藤のある多感な時期。何を感じていたのかや、何を考えていたのかを書き残して、多くの人に知ってもらった方がいいこともあると思います。考えたことをちゃんと文章にすることで、自分にも他の人にもいい影響を与えることがあると思うので、がんばって書いてほしいです。
辻
みんな顔が違う、生まれ育った環境が違う、考えていることが違う。誰かと一緒でなくていい、違っていい。違うことがむしろ素晴らしいのです。それを文章にすることで、あなただけの何かを見つけることがおそらくできる。また、自分の来し方を振り返る機会として活用してもらえたらとてもうれしいです。
荒削りで構わないんです。魂の叫びのような文章を読ませてもらいたいと思っています。それは、いつか読んだ誰かの糧になる。あなたを支え、読んだ人をも救うものにもなっていきます。みなさんのリアルな声をお待ちしています。

〈第23回「17歳からのメッセージ」 テーマ1:グランプリ作品〉
テーマ1:今までの自分、これからの自分
「無理」という言葉
神戸市立神港橘高等学校(兵庫県)板井 京介さん
私には夢がありません。これは決してかなしいことでなく、自分にはこれといってやりたいことがなく、ただ流れに身を任せ、なるようになれば良い。そう思っていました。でも、そんな考えが打ちくだかれたのが、母からの一言でした。
「あんた、無理って言葉めっちゃ使うよね。」その時、私は初めて「無理」という言葉を多く使っていることに気付きました。そして、それが自分の可能性を消しているのではないかと思いました。母は続けて言いました。
「無理っていうのは、そのことについて頑張って頑張って努力して、それでもできなかった時に初めて使う言葉やで。」
はっと思わされました。私が今まで無理と言ってきたのは「無理だった」ではなく、「無理だろう」だったのです。それをすることなく、勝手に決めつけ、やらない。私の無理は仮定だったということに気付きました。それと同時に、自分は無意識にやりたいことをできないと思い込み、やろうとしなかったと思いしらされました。
私には夢がありません。ですが、したいことができました。今まで「無理」だとあきらめていたことをしたい。「無理だった」と思えるほど努力しようと思います。自分勝手な「無理」を努力して「できる」に変えるために。
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